研究課題/領域番号 |
22H00469
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分52:内科学一般およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
金 吉晴 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所, 客員研究員 (60225117)
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研究分担者 |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
栗山 健一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部, 部長 (00415580)
堀 弘明 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 部長 (10554397)
成田 瑞 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (20749882)
坂口 昌徳 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (60407088)
関口 敦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (50547289)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,640千円 (直接経費: 32,800千円、間接経費: 9,840千円)
2024年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2023年度: 15,990千円 (直接経費: 12,300千円、間接経費: 3,690千円)
2022年度: 16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
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キーワード | PTSD / treatment / molecular / 海馬 / 恐怖記憶 / PTSD / メマンチン / トランスクリプトーム / 睡眠 |
研究開始時の研究の概要 |
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は災害、犯罪、虐待によって生じる深刻な疾患である。申請者は現在実施中の基盤研究Aにおいてmemantineの治療効果を報告し、さらにPDE4BがPTSDの病態の最重要分子である可能性を見出した。齧歯類において恐怖条件付けと社会的敗北モデルを両輪としてPTSDの説明モデルを開発し、基礎研究と臨床研究の緊密な連携の上で、ヒトPTSD患者との相同性を解析することにより、PTSDの発症と回復機構の生物学的解明を進展させ、病態解明に基づいた治療法、バイオマーカー創出を進展させる。また睡眠を通じた恐怖記憶の自然回復過程を解明し、効果的な予防介入法を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、恐怖条件付けと社会的敗北モデルを両輪としてPTSDの説明モデルを発展させ、ヒトPTSD患者とモデルマウスとの相同性を解析することにより、PDE4Bで修飾される海馬cAMPの情報制御系の調整異常(過活性)など、PTSDの発症と回復機構の生物学的解明を進展させ、病態解明に基づいた治療法、バイオマーカー創出を進展させ、新たな治療物質を探索することである。基礎研究としてはマウスのcAMP情報伝達経路を薬理学的あるいは光遺伝学的に操作する研究を継続して実施し、この情報伝達系を活性化させると恐怖記憶の想起や再固定化が強化されることを示した。また、マウス海馬のRNA-Seq解析も進めて、恐怖記憶想起後、また、恐怖記憶消去誘導に伴ってその発現が変動する遺伝子群を同定した。また人間を対象として、レム睡眠中の恐怖記憶再想起の意義の解明を試み、レム睡眠中の悪夢の際に恐怖記憶をコードする特定のニューロン(記憶痕跡)が再活動することの意義を解明するために、カルシウムイメージングやAIを用いた技術で詳細に分析する手法を進展させた。臨床研究としてはヒトPTSD患者とマウス恐怖記憶モデルとのトランスクリプトーム比較解析によって、共通に発現変動する遺伝子として同定されたPDE4Bを中心に、臨床症状との関連やDNAメチル化解析等を行い、PTSDの病態解明を進めた。また、PTSD患者に対する新たな治療物質としてメマンチンの効果検証を目的としたRCTを開始し、バイオマーカー開発を目的に治療前後でのRNAサンプル収集に着手した。PTSD患者に高頻度に合併する悪夢障害の治療を目的とした、睡眠中の匂い刺激による悪夢の治療・緩和法のパイロットスタディを進めている。画像研究についてはRCTのキーオープンを待つ必要があるが、全体としてほぼ順調に進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メマンチンRCTが順調に開始されており、再体験症状に関するトランスクリプトーム解析・DNAメチル化解析が成果を挙げている。またPTSD患者に対するメマンチンのRCTを開始したことから、全体に概ね順調に進展している。マウスのトラウマ関連のRNA-Seq解析に時間を要したが、概ね計画通りに進行した。さらに、レム睡眠中の恐怖記憶再想起の意義を解明することである。これまでに、以下の重要な進展があった。第一に、カルシウムイメージング技術の大幅な向上で、自由行動下での海馬ニューロンのカルシウムイメージングを99日にわたり成功させた。この成果は、レム睡眠中の記憶痕跡の動態解析において画期的である。第二に、PTSDのマウスモデルの開発が順調に進展し、新しいモデルを用いてレム睡眠中の記憶再想起と汎化の因果関係を詳細に解析している。本研究に協力する研究者が急に他施設に異動したことにより、研究の進捗に影響が生じている。睡眠中の匂い刺激による悪夢の治療・緩和法の研究が進んでいる。画像研究についてはRCTのキーオープンを待つ必要があるが、これは当初の予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
メマンチンRCTの組み入れ症例を増やすとともに、ヒトPTSD患者とマウス恐怖記憶モデルとの遺伝子発現動態の比較解析を継続して実施しPDE4Bを含むcAMP情報伝達経路の分子を中心として、臨床症状との関連の解析やDNAメチル化解析等によりトラウマ再体験症状への関与の解明を進める。メマンチン治療前後でのRNAサンプル収集も継続する。マウス恐怖記憶モデルとヒトPTSD患者との発現動態の比較解析を継続して実施し、cAMP情報伝達経路を中心として恐怖記憶の増強を誘導する分子機構の解明を進める。パイロットスタディの結果、音刺激に絞った研究開発に方向を定める方針とする。また、異動した研究者の協力を引き続き求めるとともに、新たな研究者の新規参画を含め効率的な研究運用ができるよう対策を講じていく。レム睡眠中の記憶固定化メカニズムの詳細解明:カルシウムイメージング技術の成功を活用し、記憶痕跡として機能するニューロンの動態を詳細に解析する。特に、レム睡眠中のニューロンの同期活動が記憶固定化に果たす役割を明らかにするため、リアルタイム解析技術を用いた実験を行う。また、確立したPTSDのマウスモデルを使い、恐怖記憶固定化とレム睡眠中の記憶再想起の因果関係を検証する。シナプス可塑性や神経回路の動態を観察し、記憶汎化のメカニズムを解明する。脳画像研究はRCTのキーオープンを待つ必要があるが、メマンチンの作用機序からは、海馬を基軸とした回路の変化が治療効果と関連して認められることを期待している。
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