研究課題/領域番号 |
22H00473
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分53:器官システム内科学およびその関連分野
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
黒尾 誠 自治医科大学, 医学部, 教授 (10716864)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2024年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2023年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
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キーワード | 慢性腎臓病 / リン / 骨粗鬆症 / FGF23 / 尿細管障害 / 腎老化 |
研究開始時の研究の概要 |
リンを摂取すると尿中リン排泄量を増やすホルモンFGF23が分泌される。これはリン恒常性維持に必須の反応だが、我々はFGF23が一定の閾値を超えると腎老化が加速することを見出した。本研究では「体外(食餌)由来のリンだけでなく、骨量減少時に骨から溶出する体内由来のリンでも同じ現象が起きる」という仮説を検証する。すなわち、①無重力の宇宙空間で骨量が減った宇宙飛行士とマウスでFGF23が上昇し腎老化が加速するか、②骨粗鬆症マウスと患者を治療して骨量を増やすとFGF23が低下し腎老化が減速することを証明する。成功すれば、腎老化を基盤病態とする慢性腎臓病の新たな治療戦略として骨粗鬆症の治療が正当化される。
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研究実績の概要 |
加齢とともに腎臓の機能単位であるネフロンの数が減少する。この「腎老化」を加速する因子として我々は「リン」を同定した。リンを過剰摂取すると、ネフロンあたりのリン排泄負荷の増大にともなって尿細管障害が発生し、ネフロン数が減少する。このリンによる腎障害は、骨に蓄えられていたリンが流出することでも発生する。つまり、骨由来の「内因性リン」も、食事由来の「外因性リン」と同じ病態を誘導する。しかし、骨量が減る代表的な疾患である骨粗鬆症が腎老化を加速するか、逆に骨粗鬆症を治療すれば腎老化が減速するかは不明である。そこで本研究では、以下の2つの目標の達成を目指す。各目標における令和5年度の研究実績を示す。 目標1:無重力環境下で骨粗鬆症を発症したマウスおよび宇宙飛行士に尿細管障害が発生する、という仮説を検証する。 マウス:国際宇宙ステーションで飼育した野生型マウスの血液と臓器を解析したところ、仮説を支持するデータが得られた。さらに、腎臓、骨、肝臓、心臓、骨格筋から抽出したRNAを用いたトランスリプトーム解析(RNAseq)を実施した。ヒト:本研究に参加することを同意した宇宙飛行士6名分の飛行前、飛行中、飛行後の血液・尿検体をNASAから受領した。これらの検体を用いて、リン代謝を制御する因子の測定を開始した。 目標2:骨粗鬆症の治療で尿細管障害が減速することをマウスおよびヒトで検証する。 マウス:卵巣摘出マウスと偽手術マウスの腎臓を採取し、尿細管障害マーカーの発現レベルを定量的RT-PCRで測定したが、両群間で有意差を認めなかった。ヒト:骨粗鬆症患者を対象としたRANKL中和抗体による治療・非治療のクロスオーバー試験の臨床研究計画書の作成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無重力環境下で飼育したマウスの解析は順調に進んでおり、血中のリン代謝関連バイオマーカーの測定が完了し、仮説を支持するデータが得られている。また、各臓器のトランスクリプトーム解析では、予想されていた骨吸収亢進および骨形成抑制の他にも、予想外の変化を発見した。これが骨から流出したリンによって説明可能かどうか、新たな研究課題として追求していく予定である。宇宙飛行士の血液・尿検体は、新型コロナ感染症の影響でNASAからの送付が遅れていたが、検体受領後は速やかに解析を開始しており、ほぼ予定どおりの進捗状況と評価している。卵巣摘出による骨粗鬆症モデルマウスで尿細管障害を調べたところ、普通食で飼育した状態では有意な尿細管障害は検出できなかった。骨由来の「内因性リン」だけでは不十分であった可能性が考えられた。餌のリン含有量を調整することで卵巣摘出によって有意な尿細管障害が起きる実験条件を検討する必要があり、この点は想定外であった。骨粗鬆症患者を対象としたRANKL中和抗体による治療・非治療のクロスオーバー試験については臨床研究計画書の機関承認を得る準備を進めており、これはほぼ予定どおりの進捗状況と評価している。以上述べたように、一部想定外の結果で予定より遅れている部分もあるが、想定していなかった新たな発見もあり、総合的にはほぼ当初の計画どおりに研究が進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2つの目標達成に向けて、今後はそれぞれ以下の点に注力して研究を進める。 目標1:無重力環境下で骨粗鬆症を発症したマウスおよび宇宙飛行士に尿細管障害が発生する、という仮説を検証する。 マウス:国際宇宙ステーションで飼育した野生型マウスの腎臓、骨、肝臓、心臓、骨格筋から抽出したRNAを用いたトランスリプトーム解析(RNAseq)において、尿細管障害の他にも予想外のさまざまな遺伝子発現パターンの変化を同定した。これらの変化を定量的RT-PCRで確認し、さらに高リン食負荷マウスと比較することで、食事由来の外因性リンと骨由来の内因性リンが同じ病態を引き起こすことを証明する。ヒト:宇宙飛行士の飛行前、飛行中、飛行後の血液・尿検体を用いて、リン代謝を制御するホルモンや骨代謝マーカー、尿細管障害マーカーなどを測定し、飛行中には骨吸収の促進と骨形成の抑制、尿細管障害マーカーの上昇が認められ、飛行後には飛行前の状態に戻るかどうか検証する。 目標2:骨粗鬆症の治療で尿細管障害が減速することをマウスおよびヒトで検証する。 マウス:卵巣摘出マウスにおいて尿細管障害をきたす実験条件を確立し、骨粗鬆症の治療薬を投与することで尿細管障害が軽減することを証明する。ヒト:今後も継続して、骨粗鬆症患者を対象としたRANKL中和抗体による治療・非治療のクロスオーバー試験の実施に向けて準備を進める。
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