研究課題/領域番号 |
22H00477
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分54:生体情報内科学およびその関連分野
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
植松 智 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50379088)
|
研究分担者 |
井元 清哉 東京大学, 医科学研究所, 教授 (10345027)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2024年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2023年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
|
キーワード | メタゲノム解析 / 次世代ファージ療法 / 改変ファージ / バクテリオファージ |
研究開始時の研究の概要 |
疾患の発症や病態に直接的に関わる腸内pathobiontは新規の治療標的として注目されており、標的細菌の特異性からファージ療法が期待されている。申請者らファージを用いた医療を社会実装するために、腸内ファージのゲノム解析法を世界に先駆けて確立した。本研究では、独自の解析技術を基盤として肥満や糖尿病のpathobiontであるClostridium ramosumやクローン病のpathobiontである腸管接着性侵入性大腸菌を標的とし、ファージゲノム由来の新規溶菌酵素や改変ファージ技術を用いて新規ファージ療法の開発を行う。将来的に日本独自の腸内細菌叢の新しい制御法の創出を目指す。
|
研究実績の概要 |
我々は、ヒト糞便からファージDNAを単離し、ショットガンシークエンス後にウイルスコンティグ作成、種分類まで行うメタゲノム解析パイプラインを東大医科研のスーパーコンピュータSHIROKANE上に構築した。日本人健常者101名の解析を行い、世界初の腸内細菌とファージのデータベースを公開した。ファージゲノムを宿主細菌の染色体にプロファージとして組み込む溶原性ファージに注目し、ロファージ領域を同定から宿主寄生体関係を明らかにする手法も開発した。最近、細菌膜を破壊するファージ由来の酵素を抗菌物質として応用する次世代ファージ療法が期待されている。エンドライシンは、細菌のペプチドグリカン層を破壊する酵素で、グラム陽性菌に対する抗菌剤として注目されている。偽膜性腸炎の原因菌のClostridiodes difficileの溶原ファージのゲノムを網羅的に解析し、新規の10種類のエンドライシンを見つけた。ゲノム配列を元にタンパク質合成し、C.difficileに対して特異的かつ強力に殺菌する抗菌酵素を同定できた。この様に、細菌ゲノムの解析からプロファージ配列を同定し、プロファージのゲノム配列情報から宿主細菌に対する溶菌酵素を抽出し、抗菌剤として用いるデジタル創薬基盤を確立した。本年度は、肥満や糖尿病のpathobiontであるClostridium ramosumのおよびクローン病の増悪に関わるpathobiontである腸管接着性侵入性大腸菌(Adherent Invasive Escherichia coli; AIEC)の標準株及び臨床分離株を入手し、ショットガンメタゲノム解析を実践した。細菌ゲノムの解析からプロファージ配列を同定し、プロファージのゲノム配列情報から溶菌酵素の同定を目指した。またAIECに関しては宿主結合に関わる因子の検索を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満や2型糖尿病の病態には腸内共生細菌Clostridium ramosumが関連していることが報告されている(Nature. 2013; mBio. 2014)。C. ramosumに関しては、標準菌JCM1298Tに加えて、これまでに我々が収集した肥満者や脂肪肝患者の糞便ストックから単離培養を行って解析を進めた。菌株から細菌ゲノムを抽出して、ショットガンシークエンスを行った。得られたデータを元に細菌コンティグを作成して、配列内に組み込まれた溶原ファージゲノムの同定を進めた。IBD患者では、腸内細菌叢の構成異常(dysbiosis)が認められる。最近、AIECが多数のクローン病患者の腸内から検出され、、腸炎の悪化の重篤な要因となると考えられている。(Gut.2018)。そのため、腸内に多数のAIECを保有している場合は、重症化のリスクが高いため除菌が推奨される。しかし、AIECはアンピシリンやネオマイシンなどの複数の抗生剤に対する耐性を既に獲得しているのみならず、抗生剤の投与は有益菌も含めて他の腸内細菌の殺傷も誘導し、dysbiosisの悪化によりさらにクローン病の症状が増悪する可能性があるため、AIECだけを特異的に殺傷する治療法が強く望まれている。AIECは単離することが非常に難しい菌であるため、既に手に入れている標準菌LF82株とヒト腸内由来の4種類のAIEC単離株計5株を用いてショットガンメタゲノム解析を進めた。今後得られるAIEC特異的ファージのゲノム情報を用いて、改変ファージ作成を行うために、T7ファージを基本骨格としてAIECに対して特異的に感染できる改変ファージの作成を行う予備実験を行った。T7ファージにおいて、類縁のT3ファージのテールファイバーを組み替えた組み替えウイルスを作成することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
ファージゲノム情報から得られる宿主特異的な溶菌酵素の同定およびその応用に関して、C. ramosumに対する宿主特異的な溶菌酵素では、菌株ゲノムのショットガンシークエンスを行い、得られたデータを元に独自の解析パイプラインを用いて溶原ファージゲノム配列を同定する。これらの詳細な遺伝子解析からエンドライシンを同定し、得られた配列を元に人工合成してタンパク精製を行う。AIECに対する宿主特異的な溶菌酵素の同定では、グラム陽性菌と異なり陰性菌は細胞外膜にlipopolysaccharide層を持つため、未だグラム陽性菌に対するエンドライシンの様に強力な溶菌活性を持ったファージ由来の酵素療法は開発されていない。菌株のショットガンシークエンスにより得られたAIECゲノム情報から、菌特異的に感染するファージのタンパク情報を種ごとに分類し、酵素を網羅した遺伝子カタログを目指す。改変ファージ技術を応用したファージ製剤の開発に関して、標的細菌に対する特異性を持たせたり、耐性化への対策として改変ファージ技術が注目されているが、改変ファージの作成に関して、ファージゲノムを組み立てるプラットフォームが必要であるため、現時点で全ての腸内細菌に対して応用することは難しい。本研究では新しいプラットフォームの作製は行わず、既に確立されている大腸菌のプラットフォーム改変ファージ技術を用いてAIECに対する新規改変ファージ製剤を開発し、動物モデルで有効性を示す改変ファージ製剤の取得をアウトプット目標とする。作成した腸内ウイルスゲノム解析法とメタゲノムデータベースを利用してAIECに特異的に感染する溶原ファージを同定し、そのゲノム情報を基盤としてAIECを特異的に殺傷する改変ファージの作成を行う。
|