研究課題/領域番号 |
22H00526
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00596497)
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研究分担者 |
菅田 陽怜 大分大学, 福祉健康科学部, 准教授 (30721500)
大鶴 直史 新潟医療福祉大学, リハビリテーション学部, 教授 (50586542)
栗田 雄一 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (80403591)
金山 範明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90719543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,510千円 (直接経費: 32,700千円、間接経費: 9,810千円)
2024年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2023年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2022年度: 16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
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キーワード | 内受容感覚 / 身体認知 / ロボティクス / ハプティクス / バーチャルリアリティ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では,ロボティクス・ハプティクス・XR(VR:仮想現実,AR:拡張現実,MR:複合現実の総称)技術に立脚して,ヒトの身体感覚・身体認知操作への内受容感覚の寄与を定量的に明らかにし,身体感覚の外部オブジェクトへの転移(“脱身体”)から肉体への回帰(“着身体”)までを自然に実行できる基盤技術の創成を目指す.また,本研究課題で提案・開発する身体感覚の自然な“脱着”技術により,実験心理学や認知神経科学,基礎理学療法学分野などにおける身体認知研究にブレークスルーをもたらすとともに,様々な分野(特に医療や健康福祉分野)で活用できる新たなアプリケーションの創出も試みる.
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研究実績の概要 |
本研究課題では,ロボティクス・ハプティクス・XR技術に立脚してヒトの身体感覚を操作する新しい技術を開発するとともに,ヒトを対象とした行動実験により特に内受容感覚の身体感覚操作への影響・寄与を科学的に明らかにすることを目指す.本研究課題を通して,“着身体(身体感覚の外部オブジェクトへの転移)”と“着身体(身体感覚の外部オブジェクトからの回帰)”を自然に行える基盤技術の確立を試みるとともに,得られる知見・技術を医療/健康福祉分野やメタバースなどに応用することを考える. 2023年度の研究では,昨年度に開発した内受容感覚を仮想身体上で可視化・操作するシステムを用いて,内受容感覚に着目したヒトの身体認知操作実験を本格的に開始した.具体的には,「身体内部ほど内受容感覚への気づきが高まり,影響を受けやすくなる」という仮説を立て,研究参加者の心拍を仮想環境上で数値変化,上肢の肌色変化,心臓の動作の3種類で提示し,さらに心拍情報を疑似的に増加/減少させる実験を1人称視点と2人称視点の両方で実施した.実験の結果,仮想アバタ内部に心拍と同期して動く心臓を1人称視点で提示する条件において心拍変化の感覚を強く惹起できる可能性を示唆できたが,実心拍の変調にまでは至らなかった.また,内受容感覚の可視化・操作技術開発の基盤となるヒトの身体認知を“賢く騙す”研究の推進も行った.パーキンソン病患者などで報告される実体的意識性(PH)について,ヒトの背中から手の甲に刺激対象を変更しても健常者においてPHを実験的に引き起こせることを実証した.さらに,身体化させた仮想ハンドから手と同期して動く半透明なゴーストハンドを任意のタイミングで離脱させると,ヒトの手において体外離脱体験に似た現象(out of hand experience:OHEと呼ぶこととする)を誘起できる可能性を示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,工学/情報学,認知科学,理学療法学分野における専門家の有機的な連携により「課題1:内受容感覚の可視化とその身体および人工/仮想身体上での表現・操作」,「課題2:視覚×触力覚刺激を用いた内受容感覚操作の“脱/着身体”に及ぼす影響の解明」,「課題3:“脱身体”から“着身体”までを考慮した身体感覚操作システムの開発」,「課題4:身体感覚“脱着”技術を用いた新規アプリケーションの開発」の4つの研究を推進している. 2023年度は,課題1の研究を継続的に実施するとともに,課題2の研究を主として推進した.昨年度開発した実験システムを用いて,身体化した仮想アバタを介した心拍操作実験を健常者を対象として実施した結果,実心拍の変調にまでは至らなかったが,仮想アバタ内部に提示した心拍駆動の心臓を提示することで心拍変化の感覚を強く惹起できる可能性を示し,「身体内部ほど内受容感覚への気づきが高まり,影響を受けやすくなる」という仮説が妥当であることが示唆できた.また,PHやOHEなどのヒトの身体認知に関わる新たな知見を得ることができ,内受容感覚の可視化・操作技術開発の基盤となるヒトの身体認知操作技術を向上させることにも成功した.手を刺激対象としたPHに関わる研究成果に関しては,現在国際学術雑誌への投稿に向けた準備を行っている. 以上のことから,全体として研究計画に従っておおむね順調に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の研究では,これまでに開発した実験システムを用いて引き続き課題2の研究を推進していくことを計画する.これまでの研究では,半透明にした仮想アバタの内部に心拍に同期してサイズが変化する心臓を1人称視点で提示すると,疑似的な心拍操作に対して心拍変化の感覚を強く引き起こせる可能性が示されたが,実心拍を有意に変化させるまでには至らなかった.そこで,仮想アバタの身体化プロセスや実験時間などの条件を見直すことで,疑似的な心拍操作に対してさらなる感度向上を図る.新たな試みとして,肺や胃の仮想オブジェクトを用いた呼吸や胃のぜん動運動の実験的操作などについても考える.2023年度の研究から新たに始めたOHEに関する研究ついて,ゴーストハンド離脱のタイミングや方向などの条件を様々に変化させてOHEを強く引き起こせる条件を明らかにするとともに,その発生メカニズムについて検討する.また,力覚提示装置なども導入して力感覚や努力感などの要因がOHEにどのように寄与するかを明らかにする.さらに,離脱したゴーストハンドを仮想ハンドに戻した際に生じる感覚変化などを調査することで課題3についても推進していく.これらの研究を通して得られる知見・技術を基礎として,課題4についても検討していくことを計画する.
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