研究課題/領域番号 |
22H00568
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
手嶋 勝弥 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00402131)
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研究分担者 |
寺島 千晶 東京理科大学, 創域理工学部先端化学科, 教授 (00596942)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2024年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2022年度: 8,970千円 (直接経費: 6,900千円、間接経費: 2,070千円)
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キーワード | フラックス法 / フッ素除去材 / 結晶 / 層状化合物 / 超空間制御 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,アフリカ大陸,特にタンザニアやケニアなどの東アフリカ地域で問題視されるフッ素汚染された飲用水の浄化に資する高性能フッ素除去材料を創製することである。具体的には,電力や水道水などのインフラ設備の未発達な貧困地域において,安価で安心・安全な飲用水に誰もがアクセスできる浄水ソリューションを提案する。
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研究実績の概要 |
本研究は次の4つの研究課題「(1)LDH組成・原子配列制御」,(2)LDH結晶発達面制御,(3)LDH結晶表面積・三次元構造制御および(4)東アフリカ地域でのFS実証」から成る。特に,本年度は課題(1)と(4)を実施計画に掲げ,実行した。 課題(1)では,ターゲットとしてMg/Al系LDHを,比較としてZn/Al系LDHを選択した。このLDHの原子配列制御に関し,(A)電荷補償イオンガイド法(面内原子配列制御),(B)トポタクティック変換法(面外原子配列制御)および(C)アニオン混合型前駆体法の3つの制御方法を用いた。これにより,層電荷の面外方向への静電反発の異なる2つの積層様式,積層不整なし(Zn/Al系)とあり(Mg/Al系)を作製できた。これを用い,イオン吸着容量と水和挙動への影響を詳細に分析した。積層不整の有無により,イオン吸着容量が大きく変化することを見いだした。また,積層不整がない場合,陰イオンの吸着により層間イオンが脱水和する可能性が示唆された。つまり,陰イオン交換反応様式が異なると考える。Mg/Al系LDHは,層電荷が面外方向に対して接近しているため,静電反発し,イオン交換反応にともなって層間は膨潤すると考える。この膨潤機構により,水和過程のエネルギー障壁を低減でき,陰イオンの交換反応を著しく促進すると考える。また,層間の陰イオンを除去した焼成体(酸化物)を作製し,そのメモリー効果法による陰イオン吸着性能も評価したところ,通常のイオン交換反応よりも高い吸着容量を得た。 課題(4)では,タンザニア・レマンダ村に緩速ろ過型・小型浄水デバイスを設置し,上述の焼成体のフッ素吸着性能をFS評価した。その結果,現地水量にて,約18ppmのフッ化物イオン濃度を1.5ppm以下(WHO基準値)に低減することに成功した。また,FS試験により,各種課題を抽出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究において,課題(1)では,水に溶解するフッ化物イオンを高効率に吸着するMg/Al系LDH結晶粒子およびその造粒体を作製することに成功した。特に,メモリー効果法をフッ化物イオン吸着の駆動力にする焼成体により,高容量・高速なフッ化物イオン吸着を実現しつつ,Al溶出量を抑制できることも見いだした。また,バインダーを用いた造粒法にて,浄水デバイスタンクに収容できる粒子サイズに造粒する方法も確立できた。さらに,kgオーダーの量産化対応も可能とし,タンザニアFS実証を遂行するための状況を整えた。課題(4)では,タンザニアに浄水デバイス設置後,課題(1)にて準備したフッ素除去材(LDH焼成・造粒品)をタンクに投入し,現地の水流でフッ素除去試験を行った。その結果,現地水質(水量・水流・濃度など)にて,約18ppmのフッ化物イオン濃度を目標値の1.5ppm以下に削減できることを明らかにした。ただし,フッ化物イオン吸着時にpHが11から12程度に増大する現象が見られた。この現地FS実証により,さまざまな課題を抽出できた。特に,このpH変動は飲用において重要な制御因子となるため,今後の研究で課題解決を目指す。 このように,課題(1)と(4)に対し,当初の計画以上の研究開発を遂行でき,多くの基礎的知見とともに,更なる課題も抽出できた。翌年度の研究につなげるための事前研究にも着手できている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間の最終目標は,東アフリカで課題となっている地下水のフッ素汚染問題に関し,これを解決する新しい浄水用LDH結晶材料を創製することである。特に,LDH原子配列制御に3つの制御手法を導入することで,求める性能を実現するLDH結晶材料のデザインを目指す。研究代表者の得意技術であるフラックス法を中心据えることで,新たな吸着(イオン交換)材料デザインを実現でき,アフリカ諸国をはじめとする開発途上国に水ソリューションを提供できると期待する。この新たな材料デザインに関し,初年度,最先端/精密分析やデータ駆動解析・シミュレーション技術を積極的に導入することで,経験に頼る無機結晶材料創製を脱却した研究開発方針に着手し始めている。 第2年度以降,初年度の成果をもとに,本研究で提案する学術的問い「高速イオン交換・高容量イオン交換・高選択性イオン交換の実現」に関するミクロ/マクロな視点からの解明に努める。また,結晶材料の特徴とその吸着特性の相関性について,初年度導入した研究体制を深化させ,過去の実験データと本研究データを合わせてデータ駆動解析に注力する。それにより,効率的な吸着材料デザインに繋がると期待する。加えて,タンザニアに設置した緩速ろ過型・小型浄水デバイスの継続的なモニタリングも実施することで,開発途上国での持続可能性の議論が可能になると考える。
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