研究課題/領域番号 |
22H00721
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
大城 道則 駒澤大学, 文学部, 教授 (00365529)
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研究分担者 |
角道 亮介 駒澤大学, 文学部, 准教授 (00735227)
宮川 創 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 研究系, 助教 (40887345)
林 武文 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90268326)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | エジプト / 考古学 / 王墓地 / ピラミッド / メイドゥム / 遷都 / デジタルアーカイブ / 歴史学 / 三次元デジタル計測 / 古代エジプト史 / ヴァーチャルリアリティ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、いまだ決定的な解釈を欠くエジプト古王国時代における王墓地変遷問題の歴史背景を理解するため、時間的に中間に当たるメイドゥムに焦点を当てる。当該遺跡は、ギザの三大ピラミッドが建造される直前に王墓地であった場所である。そこに存在する王族用の大型マスタバ第14・15号墓の東側を発掘・調査することで、ピラミッド時代の新たな知見を得ることができる。その結果、メイドゥムの持つ意味、そしてなぜ王墓地メイドゥムが放棄され、ギザに移されたのかに関する論争=王墓地変遷問題に終止符を打つことが可能となる。エジプト学上最大の論点の一つである「古代エジプトの王墓地」論争の収束に向けた比較研究の地平を切り拓く。
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研究実績の概要 |
本研究は、エジプトのみならず、他の国々や地域という枠組みを超えて人類が創造してきた「巨大墓」に対する「一般化」の議論の場を提供すること、そしてその研究手法を確立することを将来の最終目的としている。そのため本年度は、紀元前三千年紀半ばの古代エジプト古王国時代における王墓地変遷問題(サッカラ→メイドゥム→ダハシュール→ギザ)の歴史的背景を理解するために、時間的にそれら王墓地の中間に位置するメイドゥムに焦点を当て、スネフェル王の王子たちが被葬者と考えられている当該遺跡のマスタバ第14号墓・15号墓において、8月20日から9月19日にかけて約一か月にわたり発掘調査を実施した。結果として、想定していた葬祭神殿・礼拝堂跡は確認できなかったが、中型マスタバ墓である第14号墓・15号墓に隣接しており、葬祭神殿跡が確認されている大型マスタバ第16号墓との差異が被葬者の地位と出自にあるのではないかという知見を得た。 またメイドゥム遺跡全域をドローンを用いることで上空からスキャンし、デジタル計測によるデータを得た。将来的にそれらのデータを解析し、二次元・三次元の地図の作成、およびピラミッドを含む遺跡全体の3Dモデルを作製することで、遺構を含む遺跡全体の地理的特徴を明確に視覚化するができる。データは帰国後も分担者および関連分野の研究を行っている国内外の研究者に現地訪問の際の状況と同じ条件での研究が可能となるように、大学のデジタルアーカイブなどを通して学外に発信できるコンテンツを作製する予定である。すでに簡易的なCGモデル作製、およびVRコンテンツ作製も分担者とともに実施し、その一部(メイドゥム遺跡のドローン映像、ピラミッド3D模型の製作と展示)を福岡アジア美術館において公開(4月8日から5月28日まで)している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況については、まず初年度に現地エジプトのメイドゥム遺跡において、発掘調査とドローンスキャニングを実施できたこと、そしてそこから考古学的・情報科学的に一定の成果を得たことで、次の段階であるサッカラ、ダハシュール、そしてギザとの王墓地比較研究に進むことができる点が順調な点として挙げられる。またこの時期に100メートル級の巨大なピラミッドを三基と複数の小型階段ピラミッドを国内の各地に建造したスネフェル王と彼の二人の王子ネフェルマアトとクフがそれぞれメイドゥムとギザという別々の王墓地に埋葬された理由について検討するという段階へと進むことも可能となった点も重要である。この古代エジプト古王国時代における王墓地論争を読み解くキーパーソンであるスネフェル王と彼の王子たちの動向について検討するという手掛かりを本年度の現地調査と文献調査によって得た点も次へとつながるものと言えるであろう。現時点において本年度以降も十分な成果が望めると言える。 さらに現在世界各地の複数の研究機関に散在しているメイドゥム出土の関連資料の所有・保管場所に関する情報をすでに得ており、それぞれの研究機関の協力も代表者および分担者を通して取り付けている点も順調に本研究課題が進んでいると言える理由である。 現地エジプトにおける調査は政情不安(Covid19の蔓延や内戦のような)、体制の変化、物価の急騰による資金不足、あるいは予期せぬ妨害などの可能性もあり、臨機応変さが求められる。しかし本研究課題において必要な現地エジプトのメイドゥム遺跡における調査は、最低限初年度において終えていることから、その点についてはほぼ問題は無いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度にマスタバ第14号墓と第15号墓の東側に葬祭神殿が無いことが発掘によって確認された。しかし隣接するマスタバ第16号墓には、葬祭神殿が付属しているのである。第16号墓の被葬者と考えられている人物ネフェルマアトは、スネフェルの王子であり長子でもあった。もう一人の王子のクフは、メイドゥムから距離的に離れたギザに巨大なピラミッドを建造している。これまで王墓地変遷のキーパーソンと考えられてきた父スネフェルよりも息子としてメイドゥムを奥津城として選択したネフェルマアト王子の動向の意味と彼の存在理由を知ることこそが、古代エジプトの古王国時代に起こり、いまだ決着のついていない王墓地変遷問題を解決する際に第一に検討すべき課題であると考えている。そのことから、エジプト国内と国外の博物館・美術館に所蔵されている彼の関連資料(考古資料と碑文史料など)を集め、デジタルアーカイブ化し、そこからネフェルマアトの人物像について再考察を試みる。 現時点においてメイドゥムにおける発掘調査に時間と限りある費用を費やするよりも、スネフェル王の長子であったにも関わらず、後継者として王位に就くことことなく、ピラミッドに埋葬されることもなく、マスタバ墓に埋葬されたネフェルマアト王子の実像に迫り、その父親のスネフェルと共にメイドゥムに埋葬された意味を知ることができれば、サッカラからギザへと移動した王墓地の変遷理由・原因やピラミッドそのものの持つ意味を知ることができるかもしれない。そこまでたどり着けば、地域・時代・分野を超えて、あるいはそれらを横断することで、「巨大墓」に対する「一般化」の議論の場を提供できる可能性を生み出すことができる。
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