研究課題/領域番号 |
22H00952
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08030:家政学および生活科学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
伊達 紫 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 教授 (70381100)
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研究分担者 |
秋枝 さやか 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 准教授 (20549076)
永田 順子 宮崎大学, 医学部, 講師 (50264429)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 軟らかい食物 / 糖尿病 / 肥満 |
研究開始時の研究の概要 |
研究代表者は、食物の組成や量ではなく食物の性状(軟らかい、固いなど)に着目した研究を展開し、軟らかい食餌を摂取したラットが過食や肥満のない2型糖尿病を発症することを突き止めた。本研究では、軟らかい食物を摂取する食環境・食習慣が生活習慣病を招く機序を、生体のゲートキーパーである口腔および消化器に焦点を当て解析する。軟食摂取と生活習慣病発症との関連を明らかにし、身体に良い食習慣・食環境を提示するとともに健康長寿社会に資する基盤の創出につなげる。
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研究実績の概要 |
糖尿病の発症リスクとして、肥満・体重変化、運動不足、エネルギー量・栄養素、嗜好飲料、朝食を摂らないといった食習慣等が知られている。私たちは、これまでの研究において、軟らかい食餌(軟食)を摂取したラットは、固形食摂取ラットに比べ、体重やカロリー摂取量に差を認めないものの、2型糖尿病を発症することを突き止めた。 2022年度は、軟食摂取が、どのようなメカニズムで2型糖尿病発症のトリガーになるのかを明らかにするために、以下の研究を行った。 ①軟食摂取ラットの食餌中の血糖変化 ②肝臓での代謝産物の網羅的解析 ③2型糖尿病を発症したラットに固形食を与えることで耐糖能の変化を検討 軟食ラットの血糖値は、食餌開始後からスパイク状に上昇し、その後も固形食群に比べ高い状態を維持していた。このことから、軟らかい食物を好む食習慣は、急激な血糖の上昇をもたらし、耐糖能障害のトリガーになっている可能性が示唆された。肝臓での代謝産物を網羅的に解析したところ、G6P、F6Pといった解糖系の産物が有意に増加しており、さらに、ピルビン酸を経由したacetyl Co Aの増加も確認できた。これらの結果から、軟食ラットでは、スパイク状の血糖上昇から解糖系の代謝速度が亢進し、acetyl Co Aへの代謝が進み脂肪酸合成が亢進していることが示唆された。実際に、脂肪酸合成酵素の発現増加や中性脂肪含量の有意な増加も確認できた。11週間軟食を摂取させたラットの食餌を固形食に切り替えて、空腹時血糖やインスリン値、HOMA-IRを検討したところ、固形食4週目から、高インスリン血症は改善され、HOMA-IRも固形食群と差を認めなくなった。実験期間中、体重およびカロリー摂取量には有意な差を認めなかった。これらの結果から、軟食から固形食へと食物の性状を切り替えるといった食事への介入は、2型糖尿病の改善に有効であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題の一つであった「軟食」がどのようなメカニズムで糖尿病発症に寄与するかについて、血行動態の検討から、代謝臓器へのスパイク状に持続する高血糖が引き金となり、耐糖能異常およびインスリン抵抗性を惹起している可能性を明らかにすることができた。特に、肝臓のメタボローム解析から、解糖系における糖代謝産物の有意な増加が明らかになるとともに、これらの増加は固形食に戻すことで有意に低下することも確認することができた。同解析から、acetyl CoAの有意な増加も明らかになり、脂肪酸合成酵素の増加と併せて、軟食摂取のかなり早い段階から肝臓での脂肪合成および蓄積が進んでいる可能性が示唆された。従来の研究では、2型糖尿病の発症には内臓脂肪蓄積が重要な役割を担うと考えられてきたが、軟食を好む食習慣があり、肥満を伴わない2型糖尿病の病態では、むしろ肝臓での脂肪蓄積が重要な意味を持つ可能性も考えられた。 さらに、軟食を固形食に戻すことで、インスリン抵抗性は改善され、予備的な解析からは、肝臓での脂肪蓄積も改善傾向にあることが示唆されている。この結果から、薬物療法の介入ではなく、食物の性状を変えるといった生活習慣の改善で、あるステージの糖尿病は克服できる可能性があり、生活習慣への介入による治療が大きな意味を持つという示唆に富む知見を得ることができた。 今年度の研究から、摂取カロリーや炭水化物量が同じであっても、スパイク状の高血糖が肝臓での脂肪蓄積を亢進させインスリン抵抗性、2型糖尿病の発症につながることを示すことができた。以上の研究成果より、「おおむね順調に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に実施した小腸、肝臓、膵臓でのメタボローム解析および網羅的遺伝子解析の結果をさらに詳細に検討し、特に軟食から固形食に変更することで改善してくる代謝産物や発現遺伝子を抽出する。発現変化の見られる遺伝子をノックダウンやノックインした際の糖尿病発症について検討する。 これまでの先行研究で、軟食による膵β細胞の過形成およびインスリン分泌亢進を明らかにしてきた。これらの病態にもスパイク状の高血糖(糖毒性)が関与している可能性があり、膵臓での網羅的遺伝子解析の結果を組み合わせることで、膵β細胞の増殖に関わる因子を同定し、インスリン分泌メカニズムの再構築を試みたい。 また、軟食ラットが早食いモデルとなるのかどうかについて明らかにするために、咀嚼回数の定量的な解析を実施する。咀嚼による脳内発現分子の変動にも注目するとともに、脳内でのインスリン受容体を介した高次機能制御についても検討を進める。口腔内および腸内細菌叢の変化を、軟食、固形食、軟食→固形食ラットで検討し、細菌の産生産物である短鎖脂肪酸の変化とその病態生理学的意義を検討する。 今後は、耐糖能異常やインスリン抵抗性がもたらす中枢を含む全身の生体制御機構の障害を念頭に置きつつ、研究を展開していく。
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