研究課題
基盤研究(B)
火山における大規模な山体崩壊と岩屑なだれ,およびそこから派生したラハール(火山泥流)や津波は,繰り返し甚大な被害をもたらしてきた。本研究課題は,岩屑なだれ堆積物の「基質相」に着目し,基質部の粘土(変質)鉱物,粘土含有量,全岩化学組成,硫黄・酸素安定同位体の特徴を明らかにすることで,崩壊直前の火山体における熱水変質環境を復元し,また,火山ガラスの有無や火山ガラスの化学組成も検討することで,噴火様式と崩壊との関係も明らかにする。火山体のどの部分が崩壊したのか,どの程度変質作用が進行した部分が崩壊したのかを探り,将来崩壊するとしたらどのような場所が想定されるのか,を検討する。
本研究は,過去に繰り返し火山体崩壊を起こした福島県磐梯山に注目し,岩屑なだれ堆積物とラハール堆積物の基質部を多面的に分析し,山体崩壊時の山体内部の変質環境を再構築することから,崩壊の要因である山体内部の脆弱性の特徴を明らかにすることを目的とする。今年度は,対象地域となる磐梯山周辺で野外地質調査を行い,過去約5万年間の岩屑なだれ堆積物(翁島岩屑なだれ・磐根岩屑なだれ・古観音岩屑なだれ・滝ノ沢岩屑なだれ・小水沢岩屑なだれ・琵琶沢岩屑なだれ・1888年岩屑なだれ)とそれに連鎖して発生したラハール堆積物の記載と基質部の採取を重点的に行った。また,猪苗代湖で2021年に採取された7m長のピストンコア堆積物は過去約4000年間のイベントを記録しており,そこには岩屑なだれ堆積物の遠方層が複数挟まることから,層序と対比からその堆積年代もあわせて検討し,その成果の一部は国際火山学会で発表した。岩屑なだれ堆積物とラハール堆積物の一部は,篩いとレーザー回折式粒度分析計を用いて,粒度分析を行った。また基質部から火山ガラスの検出を試みた。さらに,蛍光X線分析(XRF)によって明らかとなった基質部に含まれる硫黄含有量をもとに,高い硫黄含有量を持つ安達太良山や御嶽山のラハール堆積物を比較試料として,質量分析計を用いた硫黄安定同位体分析の予備実験を行った。これにより,岩屑なだれ堆積物やラハール堆積物の基質部からの硫黄の抽出と同位体分析が可能となった。堆積物基質部の粘土鉱物・変質鉱物を解析するにあたり,卓上型X線回折装置(XRD)を新規に導入し,周辺機器を含め,分析環境を整えた。
2: おおむね順調に進展している
今年度予定していた試料採取や分析装置の導入と分析環境の整備,予備実験はほぼ実施できた。
次年度も引き続き,磐梯山周辺に分布する岩屑なだれ堆積物とラハール堆積物の調査と試料採取を行い,また,安達太良山や他の火山の堆積物との比較も試みる。新たに導入した卓上型X線回折装置を用いて堆積物に含まれる粘土鉱物・変質鉱物を解析し,硫化鉱物や硫酸塩鉱物,自然硫黄由来の硫黄含有量の蛍光X線分析による定量化および,質量分析計を用いた硫黄安定同位体分析を実施する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件)
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