研究課題/領域番号 |
22H01947
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉松 公平 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (30711030)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 酸化チタン / 相転移 / 薄膜 / 準安定相 / 酸化物薄膜 / 光誘起相転移 / 金属絶縁体転移 / パルスレーザ堆積法 |
研究開始時の研究の概要 |
酸化チタンは、二酸化チタン(TiO2)が光触媒として建物の外壁などに用いられる機能性酸化物である。TiO2の1種であるラムダ相五酸化三チタン(λ-Ti3O5)は、光照射により別の結晶相へと転移する光誘起相転移を示す新しい物質である。そのためλ-Ti3O5は書込可能な光記録媒体への応用が期待されており、安全かつ安価なTiO2を原料とした持続可能な社会を実現する重要な酸化物材料である。本研究では高品質なλ-Ti3O5薄膜試料を合成し、光誘起相転移現象を定量的に明らかにすることで、光電子デバイスへの応用を検証する。
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研究実績の概要 |
酸化チタンの1種であるTi3O5は5つの結晶多形を持つ。その中で、λ相Ti3O5は室温かつ永続的な光誘起相転移を示すという、酸化物で唯一の特徴を持つ。他にも圧力や温度、電流印加でλ相Ti3O5は結晶多形間での相転移を発現する。二元系の単純な組成を持ちながら多彩な相転移を示すことから、相転移発現メカニズムの解明が望まれている。しかしλ相Ti3O5は室温準安定相であるため、これまでナノサイズの多結晶体試料しか得られていない。そこで本研究では、基板応力による構造安定化を活用することで薄膜によるλ相Ti3O5の大面積単結晶合成を行った。また、温度と光刺激によるλ相Ti3O5の相転移観測を行った。薄膜合成では、LaAlO3 (110)基板を用い基板温度を1100度とすることで、(100)面直配向したλ相Ti3O5薄膜が得られることを明らかにした。温度刺激による相転移については抵抗率の温度依存性および、放射光X線回折とラマン分光測定による構造相転移の観点から明らかにした。抵抗率の温度依存性からは、相転移を示唆するキンク構造や金属絶縁体転移を観測した。放射光X線回折からは単斜晶角を決定し、ランダウ理論に基づく温度依存性のフィッティングから転移温度が~460 Kと決定した。 光刺激については、ナノ秒のNd: YAGレーザを用いた永続的な光誘起相転移とフェムト秒のTi:sapphireレーザを用いたポンププローブ法によるダイナミクスの観測を行った。ナノ秒レーザの照射では、β相からλ相への相転移の発現を顕微ラマン分光測定から明らかにした。フェムト秒レーザによる時間分解計測では、ポンプ光照射から1ピコ秒未満での透過率反射率の変化を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の段階で薄膜形成から光・温度刺激による相転移の発現と観測へと進ことができた。特に温度刺激による相転移では、構造と電気特性の密接な関係を明らかにできたため、原著論文の形で報告をする予定である。一方で、光刺激による相転移については今後も実験研究を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、光と電流刺激による相転移の発現と観測を進める計画である。光刺激については、初年度の継続としてナノ秒レーザ照射による相転移発現実験を進め、λ相からβ相への永続的な光誘起相転移の発現を目指す。ポンププローブ法による時間分解計測については、測定温度や偏光を変えた実験を進めることで光誘起相転移のダイナミクスを明らかにしていく計画である。また、電流刺激による相転移の発現を行うため、薄膜の二端子デバイスの形成を進めていく。フォトリソグラフィーと反応性イオンエッチング、スパッタリング法による電極蒸着により、電流印加領域を定義した一連の素子を形成し、電流誘起の相転移を定量的に評価していく。さらに電流誘起の相転移を構造の観点から明らかにするため、電流印加下での微細領域の結晶構造評価が可能な顕微ラマン測定システムの構築を進めていく予定である。
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