研究課題/領域番号 |
22H02028
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
城田 秀明 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00292780)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 14,820千円 (直接経費: 11,400千円、間接経費: 3,420千円)
|
キーワード | フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / サブピコ秒光カー効果分光 / 深共晶溶媒 / イオン液体 / 低振動数ラマンスペクトル / 低振動ラマンスペクトル |
研究開始時の研究の概要 |
相互作用の強い溶媒・液体である深共晶溶媒とイオン液体は蒸気圧が低いなど類似した性質を示すが,低融点化の要因は,前者が水素結合,後者は両親媒性カチオンとクーロン力,と全く異なる。本研究では両者の分子間振動から構造緩和までの分子間ダイナミクス(動的階層性)を微視的な構造と分子間相互作用の視点から解明する。そのためにサブピコ秒光カー効果分光装置を作製,現有の二種類のラマン分光装置と併せて0.01 - 4000 cm-1の広帯域分光システムを構築し,両者の分子間振動から構造緩和まで網羅した分光測定を行い,相互作用の強い溶媒・液体の動的階層性を包含した物理化学・溶液化学の新しい基盤を確立する。
|
研究実績の概要 |
R4年度は主に(i)ホスホニウムイオン液体の低振動数スペクトルにおける分極応答と双極子応答の比較、(ii)典型的な深共晶溶媒であるリラインの低振動数スペクトル、(iii)イオン液体とホルムアミドの混合溶液の低振動数スペクトル、及び(iv)サブピコ秒光カー効果分光装置(ps-OKE)の作製を行った。 (i)では、当研究室で開発した硫黄を含むホスホニウムイオン液体における低振動数スペクトルについてフェムト秒ラマン誘起カー効果分光(fs-RIKES)とテラヘルツ時間領域分光(THz-TDS)で測定し硫黄の効果を酸素と炭化水素のイオン液体と比較した。分子動力学シミュレーションにより、観測している主なイオン種と運動の種類が異なるために両手法でのスペクトルが異なることが明らかとなった。また硫黄により相互作用が強まっていることも示唆された。この研究は神戸大富永先生、太田先生及び分子研石田博士との共同研究である。(ii)ではリラインの物性と低振動数スペクトルについて詳細に調べ、特に水の影響を明らかにした。この研究はインド国SN Bose National Centre for Basic SciencesのBiswas先生との共同研究である。(iii)は佐賀大高椋先生との共同研究であり、イオン液体と水素結合様式の異なる3種のアミドとの混合溶液の微視的構造に関する研究である。水素結合のタイプによって、イオン液体との相互作用が分子レベルで大きく異なることを明らかにした。本研究に関する論文は現在J. Phys. Chem. B誌に印刷中である。(iv)は完成に至らなかったが、分光装置のポンプ光とプローブ光の相関信号は得ており(約220fs)、完成まであと一歩である。 また、上記以外にアルゼンチン国リオクアルト国立大学のFalcone先生と共同して界面活性剤型イオン液体に関する研究も開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン液体および深共晶溶媒のfs-RIKESによる低振動数スペクトルに関する研究は、当初の予想よりもはるかに進んだと考える。上記で述べたように、主に三つの課題について取り組むことができた。これらはすべて共同研究であるが、共同して進めたことにより、多角的的な視点により非常に詳細な研究ができたと思う。また、当初は予定していなかった界面活性剤型イオン液体については、イオン液体として非常に特異な性質(非極性溶媒への高い溶解性)を示すため、これを利用してイオン液体の本質の理解につながる研究へと進みそうである。このように研究をうまく進めることができたのは、共同研究者である神戸大学富永先生、太田先生、分子科学研究所石田博士、インド国SN Bose National Centre for Basic SciencesのBiswas先生、佐賀大学高椋先生、アルゼンチン国リオクアルト国立大学のFalcone先生と共同して研究を進められたことが大きい。また、研究協力者として本研究課題に参加してくれた大学院生(安藤雅俊、Maharoof Koyakkat、Xeuchen Liu)の協力も大きかった。 サブピコ秒光カー効果(ps-OKE)分光装置の作製については、コロナ禍・資材不足といった社会情勢のため、必要な消光比を有する偏光子の入手に時間がかかり、当初の予定よりも若干遅れている。しかしながら、ps-OKE装置の主要な部分は組みあがり、ポンプ光とプローブ光の相関関数として約220fsの装置ができている。ps-OKE装置の最も難しい部分は終わっているため、装置完成までもう一息である。このように、研究課題全体として考えた時に、おおよそ予定通りに進んでいるものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
R5年度は、ps-OKE装置の完成をまず目指す。上記で述べたように、ps-OKE装置の光学系はほぼ完成しており、ポンプ光とプローブ光の相関信号も得られている(約220fs)。あとは、光カー効果の信号を得て、信号の感度を上げていくことをメーンに行うことになる。2か月程度での完成を目指す。 一方で、数種類の異なる深共晶溶媒や界面活性剤型イオン液体について、低振動数スペクトルの測定をfs-RIKESで行うことで、深共晶溶媒とイオン液体の本質(特殊な相互作用や構造)の理解を進めたい。ps-OKE装置が完成した後には、特に興味深い深共晶溶媒とイオン液体について、分子間振動から構造緩和に至る分子ダイナミクスを明らかにしていく。 R6年度には、化学構造が類似した構成成分を有するイオン液体と深共晶溶媒について比較を行う。両者では、カギとなる分子間相互作用や構造が異なるため、分子間ダイナミクスの観点から両者の理解を進めたい。また、当初は予定していなかったが、非常に高い濃度の塩(イオン液体もしくは深共晶溶媒を構成するイオン種)についても実験することも視野に検討している。ちなみに、極最近、水を媒体とした深共晶溶媒も報告されており、これらを含めた検討を行うことで、これらの相互作用の強い系の理解が進むと考えられる。
|