研究課題/領域番号 |
22H02196
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊藤 幸成 大阪大学, 大学院理学研究科, 招へい教授 (80168385)
|
研究分担者 |
松尾 一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40342852)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
|
キーワード | 糖タンパク質 / 糖脂質 / グルコシル化 / 阻害剤 / 複合糖質 / フォールディング / GPR55 |
研究開始時の研究の概要 |
複合糖質糖鎖の複雑さと多様性は,タンパク質や脂質に対して様々な酵素が様々なタイミングで作用することで生み出される.その中で、特に興味深いものに、グルコース転移酵素 (UGGT) がフォールディングセンサーとして機能する糖タンパク質フォールディングサイクルがある。本研究では、UGGTの機能を制御する分子を開発する。 一方,グルコースが結合したホスファチジルグルコシド (PtdGlc)から生成するリゾ体 (LysoPG) がG-タンパク共役型受容体GPR55の内在性アゴニストであることに着目し、その類縁体を系統的に合成し、新たなGPR55の制御分子を見出すともに新たな共有結合型阻害剤の開発を行う。
|
研究実績の概要 |
小胞体内糖タンパク質フォールディング機構において重要な役割を担うグルコース転移酵素(UGGT)を阻害する分子の創製を目指して検討を行った。UDP-Glc を供与体基質とするUGGTに対してUDPが生成物阻害を起こすことに着目し、そのアナログを各種合成した。具体的には、UDPのαリン酸部分に対してスクアリル基をサロゲートに用い、βリン酸部分に対応する置換基(R)を種々導入した。その結果Rとして極性置換基を導入することが重要であり、リボースの2’-位水酸基をアミノ基で置換することで阻害活性が著しく向上することが分かった。スクアリル基上の置換基Rとしては、中性のヒドロキシエチル基が最適であり、塩基性や酸性の置換基では阻害活性が減弱した。また、ウリジンの5-位にフッ素を導入することで活性の向上が見られた。これまでの検討で最も優れた活性を示した化合物についてより詳細な検討を行い、UDPより強い阻害活性を示すこと、UDP-GlcNAcを基質とするGlcNAc 転移酵素を阻害しないことが分かった。 GPR55を非可逆的に阻害する物質の創製を目指し、その内在性リガンドであるLysoPGのアナログを合成した。以前に見出したGPR55に対するアゴニスト活性を示す分子の構造を修飾し求核性アミノ酸残基と反応するスクアリルチオエステル基を導入した化合物の合成を達成した。この化合物をaxon turning assay に供したところ、LysoPGのアゴニスト活性を非可逆的に阻害することを支持する結果が得られた。それと並行して、LysoPGの前駆体であるPGの新規簡便合成法を検討した。水溶液中、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)によりグルコース1位を選択的に活性化させることでPGが一段階の反応で生成することを見出した、反応効率80%以上で高純度のPGを合成できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の主要部分について以下の進捗があった。 (1)UGGTに対する阻害剤を開発するために、各種のUDP類縁体を効率的に合成する手法を確立した。合成は5’-アミノウリジンから出発し、スクアリン酸ジエチルと反応させてモノアミドとした後、βリン酸に対応する官能基を有するアミンを反応させることで達成した。本手法はウリジン部分の保護、脱保護を最小限にとどめることが可能であり、化合物の構造多様性を容易に拡張できる。それらの活性を比較したところ、リボース部分やウラシル部分への置換基導入が有効に働くことが見いだされ、今後の構造最適化に向けた有力な指針が得られた。 (2)以前にLysoPGのリン酸部分をスクアリル基に置換したアナログがGPR55に対するアゴニスト活性を示すことを見出していた。それを基に、スクアリル基部分が求核置換反応を行うように構造を修飾した新規アナログを合成すると共に、GPR55を非可逆的に阻害するという初期的な知見を得た。更に、新規PG合成法を利用して安定同位体修飾グルコースや化学修飾グルコースを有するPGの合成が可能になった。 以上の結果は、本課題の構想が妥当であることを示すものである。UGGTを阻害する小分子化合物、GPR55 の非可逆的阻害剤ともに前例がなく、強いインパクトが期待できる。 以上により、進捗状況は順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)UGGTの阻害剤に関しては、ウリジン部分の構造修飾を行ってより活性の強い化合物を探索する。UDPと好熱カビUGGTの触媒ドメインとの複合体の結晶構造が報告されており、ヒトUGGTの構造情報もAlfaFold で取得可能である。それらの情報も取り入れて化合物のデザインを行う。具体的には、ウリジンの5-位や4-位にアミノ基、ヒドロキシアミノ基、ヒドラジニル基などを導入することが有望であると考えており、これらを優先的に検討する。加えて、小胞体での活性発現を可能とするための基礎的検討を行う。例えば、小胞体内カルボキシルエステラーゼに感受性のある脂溶性置換基を導入することなどが考えられる。 (2)LysoPGアナログに関しては、我々が開発した化合物が実際にGPR55を非可逆的に阻害していることを検証する。ネガティブコントロールとして、グルコースに代わってガラクトースを有するアナログや、脂質部分水酸基の立体化学が異なるアナログと比較を行い、その証拠を固めた上で論文発表につなげる。 (3)今後は、より簡便なPG合成法の確立(現在特許申請検討中)と、市販のPLA2や大量調製可能な麹菌由来PLA2を利用した化学酵素法によりLysoPGの合成が可能か検討する予定である。化学修飾したグルコースが結合しているPGを利用して、修飾LysoPGを合成する予定であり、それに向けて酵素の基質特異性を検証する。 (4)現在、LysoPGアナログとGPR55との複合体のクライオ電顕解析やUGGT阻害剤とUGGT触媒ドメインの共結晶解析を行うための共同研究が進行中であり、これらを積極的に進めて、GPR55活性化とUGGT阻害機構の分子基盤への理解を深める。
|