研究課題/領域番号 |
22H02361
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39050:昆虫科学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
後藤 慎介 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70347483)
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研究分担者 |
粥川 琢巳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (70580463)
古田 賢次郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (00575532)
品田 哲郎 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (30271513)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 昆虫 / 幼若ホルモン / 内分泌 / ホルモン / 合成 |
研究開始時の研究の概要 |
幼若ホルモン(JH)は昆虫の発生・生理を司る重要なホルモンである.多くの昆虫がJH IIIという物質をJHとして用いるのに対し,カメムシ目の中のカメムシ亜目昆虫は新規物質JHSB3をJHとして用いることが,近年の私たちの研究により明らかになった.しかし,JHSB3がカメムシ目昆虫の進化のどの過程で作られるようになったのか,その合成・受容の分子機構はどのようなものかはいまだに明らかになっていない.本研究は昆虫の内分泌系の進化の一端を明らかにすることを目的とし,JHSB3の系統上の分布,JHSB3合成・受容の分子機構を解明するとともに,合成・受容機構の進化過程を推定する.
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研究実績の概要 |
昆虫類の内分泌系の進化を明らかにすべく,カメムシ類を対象として,幼若ホルモン(Juvenile hormone, JH)の多様性とその合成・受容機構を解析している. これまでの研究により,カメムシ目のアブラムシ類,コナジラミ類,ウンカ類はJH IIIと呼ばれるJHを合成するとされてきた.しかし今年度の研究により,これらのグループの中には,JH IIIのみを合成する種,カメムシ亜目のJHとして知られるJHSB3のみを合成する種,その両方を合成する種が存在することが明らかになった.加えて,カメムシ亜目の中の水生カメムシ類でもJHの多様化が起きており,JHSB3を合成する種から,JH IIIを合成する種が分岐していることが考えられた.このようにカメムシ目の中でJHの多様化が起きていることが明らかになった. また,JHSB3のみを合成するチャバネアオカメムシを対象に,JH合成機構の解析も行った.JH合成内分泌器官であるアラタ体に,JHSB3の中間産物候補として考えられるFarnesoic acid(FA), JH IIIを添加したところ,JHSB3の合成量が高まることがわかった.一方,Methyl Farnesoate (MF)の添加では,合成量は高まらなかった.JHSB3はFA, JH IIIを中間産物とする経路で合成されており,MFを介する経路は用いられていないことが考えられる.また,JH合成に関わる律速酵素であるJHAMTの阻害剤を用いた実験を行った.JHAMTの阻害によりJHSB3の合成量が低下すること,阻害剤添加後にFAを加えても合成量は低下しないことが明らかになった.一方,阻害剤添加後にMFを加えても阻害は解除されなかった.この結果は,中間産物添加実験で挙げられた仮説,すなわち,JHSB3の合成においては,FAが中間産物として用いられている一方でMFは用いられていない,を支持するものである. 加えて,ホソヘリカメムシのJHSB3合成の調整に係わる機構に関して原著論文を執筆し,Applied Entomology and Zoology誌で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カメムシ類におけるJHの多様化がさらに明らかになった.JHの多様化は,これまでハエ目の一部とチョウ目でしか知られていない.変態や生殖を司る重要であるJHが,カメムシ目という一つの分類群においてこれほどまでに多様化するというのは驚きである.この成果をもとに,カメムシ目の中のさらに異なる分類群でのJHの同定に着手できるようになる.また,今年度の成果により,JHSB3合成機構の一端が明らかになった.今後さらに中間産物候補物質および阻害剤を併用した実験を行うことにより,JHSB3合成機構を明らかにできる.加えて,本成果の一部を記した原著論文を1編発表できた.その一方で,対象となる昆虫種の飼育の難しさもあり,JHSB3,JH IIIの生理活性の種間比較は進められていない.以上を踏まえ,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果をもとに,カメムシ目におけるJHの多様化を更に明らかにする.具体的には,水生カメムシ類に注目して研究を進める.加えて,JHSB3合成中間産物候補物質および阻害剤の併用により,JHSB3合成機構をさらに明らかにする.具体的には,JH III酸,JHSB3酸を化学合成し,これが中間産物として用いられるかどうかを検討する.アブラムシのある種はJHSB3のみを,異なる種はJHSB3とJH IIIを,コナジラミ類はJH IIIのみを,ヨコバイ類はJHSB3のみを合成していることが明らかになった.ではそれぞれの種のJH受容体は,自身が持つJHに特化して受容するのだろうか,あるいは両方のホルモンを受容できるような「寛容な」受容体を持つのだろうか.この点は,JH合成機構の変化に伴ってJH受容機構にどのような変化が起きたのかを知る上で興味深い.そこで,アブラムシ類,コナジラミ類,ヨコバイ類からJH受容体であるMet遺伝子とその共役因子(steroid receptor coactivator)およびJH応答遺伝子Kr-h1の上流域をクローニングし,発現プラスミドおよびレポータープラスミドを作製し,これらのプラスミドを培養細胞に導入し,JH IIIあるいはJHSB3を添加してレポーター活性を測定することで,2つのホルモンを区別して受容しているのかを明らかにする.
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