研究課題/領域番号 |
22H02726
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
佐藤 耕世 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 主任研究員 (40451611)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
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キーワード | ショウジョウバエ / 同性愛行動 / サトリ変異体 / 社会経験 / 孤独 |
研究開始時の研究の概要 |
ショウジョウバエの雄成虫が示す同性愛行動が、遺伝的な素因に加えて羽化後の社会経験に依存して発現することが明らかとなってきた。本研究ではこの現象に着目し、行動の発現を可能にする脳の内的状態(ポテンシャル)が遺伝と経験の相乗的な相互作用によって作り出される神経機構を、1細胞解析技術と高精度の行動解析システムを用いて解明する。得られた知見をもとに、これを制御するニューロン操作技術を創出する。
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研究実績の概要 |
本研究は、ショウジョウバエのサトリ変異体の雄成虫が、遺伝的な素因(サトリ変異)に加えて羽化後の社会経験に依存して同性愛行動を示すようになるという現象に着目して、行動の発現を可能にする脳の内的状態(ポテンシャル)がどのような神経機構によって作り出されるかを明らかにすることを目的としている。雄との集団生活によって活発に同性愛行動を示すようになった変異体雄の脳神経系では、P1と呼ばれる介在ニューロンの一群が興奮性を上昇させることを示唆する電気生理学的な解析の結果を得ていた。P1ニューロンは、その脱分極によって雄の性行動をトリガーする稀有な能力を持つ。今年度は、電気生理学的な変化に関与する機能分子を特定するため、リボソーム親和性精製(TRAP)及びそれを用いたTRAP-Seqと呼ばれる既存のトランスクリプトーム解析手法を高感度化させることに成功した。本手法を、Super-sensitive TRAP(S-TRAP)と呼ぶ。リボソーム構成タンパク質のひとつRibosomal protein L10a (RpL10a)に複数個のタグを付け、解析対象である変異体雄のニューロンに発現させた。本ニューロンにおいて翻訳中のmRNAをリボソームごと複数回の免疫沈降によって精製し、それを用いてトランスクリプトーム解析した。本解析によって、羽化後の経験に依存して発現量が上昇する遺伝子を48個、減少する遺伝子を36個特定した。これらの中には、K+チャネルをはじめとする機能分子が含まれていた。これらの分子がP1ニューロンの社会経験依存的な膜電流プロファイルの変化をもたらし、それがひいては同性愛行動の発現を可能にする脳の内的状態を作り出すものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に行ったS-TRAPによる神経細胞特異的なトランスクリプトーム解析の結果、羽化後の社会経験に依存して発現量が上昇あるいは低下する遺伝子を特定できたため。次年度はこれらの遺伝子がどのような仕組みによってP1ニューロンの興奮性を上昇させ、それがひいては同性愛行動の発現に必要な脳の内的状態を作り出すかを階層縦断的に明らかにする。また次年度は、サトリ変異を持たない野生型の雄成虫が羽化後に雄と集団生活することによって、雌への求愛活性を低下させるという、現象としては既知であるがその仕組みが分かっていない経験依存的な行動について、その背後にある分子神経機構についても解析し、サトリ変異体の場合と比較する。
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今後の研究の推進方策 |
1.P1ニューロンの電気的な性質の変化に寄与する制御因子の解明。昨年度に特定された遺伝子に着目して、社会経験に依存してP1ニューロンの興奮性を上昇させる分子を明らかにする。P1ニューロン特異的なGAL4ドライバーとTRiP-CRISPR Overexpression(Zirin et al., 2020)を用いて当該遺伝子をP1ニューロンに強制発現させる。これによって、雄との集団生活によって低下した当該遺伝子の発現量を回復させた場合に、P1ニューロンの興奮性が下がるかを、Patch-clamp法によって検討する。サトリ変異体の同性愛行動活性を光操作によって制御する実験についても検討する。酵母由来の転写活性化因子GAL4を光刺激によって発現させるShine-GAL4を用いて当該遺伝子をP1ニューロンに一過性に強制発現させ、同性愛行動活性を評価する。 2.P1ニューロンの微細構造解析。前項目の分子に着目して、細胞内における局在部位を単一ニューロンの解像度でイメージングする。どの蛍光シグナルがP1ニューロンのものであるかを判別するため、P1ニューロンに発現する分子だけを特異的に蛍光物質で標識する新規のモザイク解析手法を開発する。3D Expansion microscopy (ExM)法(Gao et al., 2019)を用い、シナプスをはじめとするP1ニューロンの微細構造を詳細に観察する。 3.P1ニューロンの興奮性上昇をもたらす神経機構の解明。雄由来のシグナルの継続的な入力がP1ニューロンの興奮性を上昇させる神経機構を明らかにする。雄が発する性フェロモンや動作音、動き等を受容し、P1ニューロンへと入力する上行性の経路に着目し、これらの神経活動を継続的あるいは断続的に強制活性化あるいは抑制する操作によって雄との集団飼育効果を代替できるかを、P1の電気記録によって検討する。
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