研究課題
基盤研究(B)
近年の解析技術の進歩により、ヒト胚発生過程において不良細胞が頻繁に出現し、それらの一部が病的なモザイクを形成して成体の健康に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。しかしながら、不良細胞がモザイクを形成するプロセスやその制御機構はよくわかっていない。そこで本研究では、申請者が最近に独自に発見した「不良細胞を感知・排除する細胞品質管理機構」に注目し、胚における不良細胞の動態と細胞品質管理機構による制御メカニズムを包括的に解明する。また、細胞品質管理機構の破綻による病的モザイク形成の機序の解析を通じて、未知のヒト疾患発症機序の理解を目指す。
本研究では、申請者が最近に独自に発見した「不良細胞を感知・排除する細胞品質管理機構」に注目し、胚における不良細胞の動態と細胞品質管理機構による制御メカニズムの包括的な解明と、細胞品質管理機構の破綻による病的モザイク形成の機序の解析を通じて未知のヒト疾患発症機序を理解することを目指している。本年度はまず、器官構築を支える「不良細胞を感知・排除する細胞品質管理機構」を発見した。筋肉や脊髄の原基は、適切なShhシグナルの入力によって誘導されるが、我々は、ゼブラフィッシュイメージング解析によって、筋肉や脊髄の原基の形成過程において異常なShhシグナル活性を持った細胞がエラーとして生じること、Shhシグナル異常細胞の出現を隣接正常細胞が感知して排除することによって正常な筋肉や脊髄の原基の形成が支えられていることを見出した(投稿準備中)。また、細胞品質管理機構が機能するためには正常なpHが必要であり、酸性あるいはアルカリ性環境下では細胞品質管理機能が破綻し、ゼブラフィッシュ胚に不良細胞が蓄積することを発見した(投稿準備中)。また、トランスクリプトーム解析により、不良細胞で発現するマーカーを複数同定し、不良細胞の出現動態の可視化に成功した。さらに、細胞品質管理機構の制御に、細胞外ATP濃度や隣接細胞におけるカルシウムイオンが重要な働きを担うことを共同研究により見出した(Mori et al., Curr Biol 2022; Kuromiya et al., Cell Rep 2022)。また、本研究で開発した高速ゲノム編集技術を利用してヒト先天性疾患の疾患モデルを作製し、その発症機序の一端を解明した(Oginuma et al., Sci Rep 2022; Suzuki et al, Hum Mol Genet 2022)。
2: おおむね順調に進展している
器官構築を支える「不良細胞を感知・排除する細胞品質管理機構」を発見し、未知の不良細胞の同定、不良細胞の感知・排除機構の一端解明に成功した。また、不良細胞で発現するマーカーを同定し、不良細胞の出現動態の可視化に成功した。さらに、初期胚における細胞品質管理機構を破綻させる環境因子も発見した。以上のことから、順調に発展していると判断した。
引き続き、細胞品質管理機構のメカニズムの解析を進めていく。これまでの研究により、複数のタイプの細胞品質管理機構が見つかってきているので、それらのメカニズムを詳細に解析するとともに、それらの共通分子基盤と多様性を探っていく。また、これまでに発見した不良細胞マーカーと可視化系を駆使し、不良細胞の出現機構にも迫っていく。さらに、細胞品質管理機構を破綻させて不良細胞を蓄積させる環境要因をさらに探るとともに、蓄積した不良細胞が病態を引き起こす機序や、それらとヒト先天性疾患との関連を探っていく。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Current Biology
巻: 32 号: 10 ページ: 2144-2159.e5
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https://ishitani-lab.biken.osaka-u.ac.jp/