研究課題/領域番号 |
22H02885
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49070:免疫学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小野寺 淳 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (10586598)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
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キーワード | エピジェネティクス / 炎症性疾患 / TET酵素 / T細胞 / マクロファージ |
研究開始時の研究の概要 |
免疫系による炎症反応は生体防御に必須であり、加齢によって炎症反応がうまく調節できなくなると、生体防御機能の低下と病的炎症のリスク増大に繋がる。近年DNAメチル化異常と病的炎症の関連が注目されているが、発症機構は未だ不明のままである。DNAメチル化異常は老化によって蓄積され、TET遺伝子の変異によって異常がさらに加速することが知られている。 本研究では、TETを欠損させた実験マウスモデルを用いて、人工的に急激なDNAメチル化異常を誘導し病的炎症が起こる機構を解明することを目的とする。これにより病的炎症発生機構の一端が解明され、炎症性疾患の新規診断法や治療法の開発に繋がることが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究では、「DNAメチル化異常が、なぜ免疫異常や病的炎症を引き起こすのか?」という学術的な「問い」を設定し、その分子機構を明らかにすることを目的としている。研究目的に即し、研究代表者は、モデル実験系であるTET欠損マウスに見られるゲノム不安定性、トランスポゾンの再活性化、炎症性の亢進、および細胞腫瘍化の機構解明を目指して、DNAメチル化異常に着目して研究を進めた。 R4年度は、TET欠損で誘導される急性骨髄性白血病マウスモデルを用いて、DNAメチル化異常について解析を行った。その結果、(1)ユークロマチンでは予想通りDNAメチル化レベルが低下すること、(2)ヘテロクロマチンでは逆にDNAメチル化レベルが上昇すること、(3)ごく限られた領域でのみ見られるヘテロクロマチンからユークロマチンへのスイッチはDNAメチル化レベルの変化を伴わないこと、を見出して原著論文として発表した。中でも上記(2)は、本研究の主目的である、DNAメチル化異常-トランスポゾンの再活性化-炎症性の亢進-ループ仮説の検証、に大きく近づく重要な発見であった。また、(3)の該当領域にクラスターを形成しているstefin遺伝子のヒトにおけるホモログ遺伝子群の発現と、がん患者の予後についても新たな知見が得られた。 さらには、「epigenetic異常と呼吸器疾患・代謝疾患」について解析した英文原著論文を三報、英文総説を一報、邦文総説を一報発表した。これらに加えて、日本国内でも複数回の学会発表の機会があった。国際共同研究機関として、アメリカのLa Jolla Institute for Immunology (LJI)、University of California, San Diego (UCSD)の他、オーストラリアのThe University of Queenslandなどとも連携して研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、野生型とTET完全欠損のマクロファージを長期間培養して、炎症に関わる遺伝子やレトロトランスポゾンの発現の変動について解析した。また、TET2/3二重欠損T細胞で見られる表現型についても解析を行った。 (項目1-1)TET完全欠損マクロファージにおけるレトロトランスポゾンの転写上昇と炎症の関係 1週間培養したTET完全欠損のマクロファージでは、炎症性サイトカイン産生が上昇するが、同時にレトロトランスポゾンの転写上昇も見られる。10週間培養したマクロファージでは、野生型とTET欠損型でサイトカイン産生に差がなくなることが明らかになった。しかしながら、10週間培養した野生型マクロファージでは、炎症に関わる遺伝子群とレトロトランスポゾンが非常に高発現すること、両者の発現レベルが相関することなどの新たな知見が見出された。 (項目1-2) TET2/3二重欠損T細胞で見られる表現型 生まれながらTET2/3二重欠損T細胞を持つマウスモデル(CD4-cre)では、生後二ヶ月ほどで全個体が死亡する。この原因を調べるため、末梢血や脾臓の細胞をフローサイトメーターで解析しところ、TFH細胞の表現型を示す細胞が増殖していることが明らかになった。また、脾臓やリンパ節が腫大しており、何らかの病的炎症が起きていることを示唆するデータが得られた。 以上のように、本研究が提唱する、DNAメチル化異常-トランスポゾンの再活性化-炎症性の亢進-ループ仮説、を裏付ける証拠が着実に得られており、研究の進捗状況は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度以降は引き続きこれらのマクロファージの解析を進めると共に、TET2/3二重欠損T細胞の機能解析を行う予定である。研究計画は次の通りである。 (項目1) TET2/3二重欠損T細胞における炎症誘導機構の解析 : 野生型マウスでは、約二年が経過するとCD62L+のナイーブT細胞の減少と活性型T細胞の増加が顕著になる。一方、inducibleなTET2/3二重欠損(CD4-cre-ERT2)は、タモキシフェンで遺伝子を欠損させた約2-3ヶ月後に同様の現象が再現でき、T細胞の老化を人工的に短期間で誘導するモデル系である。はじめにバルクのRNA-seqを用いて、病的T細胞でレトロトランスポゾンの転写上昇が起こるのかを調べる。次に、TCRレパトワ解析とシングルセルRNA-seqを組み合わせることにより、T細胞がクローン性の増殖をするか、どのような細胞集団が増えているかを明らかにする。また抗体染色や病理組織解析により、炎症による臓器への影響を明らかにする。 (項目2) TET完全欠損マクロファージおよびTET2/3二重欠損T細胞のlong-readによるDNAメチル化解析 : ナノポアによるlong-readシークエンスで、病的な炎症を引き起こす細胞のDNAメチル化解析を行い、メチル化異常と炎症の関連性を解析する。取得したデータを、項目1で取得したTCRレパトワ解析やシングルセルRNA-seqの結果と組み合わせることで、炎症を引き起こす病的な細胞の性質の全容解明を目指す。 (項目3) TET完全欠損マクロファージと呼吸器系炎症疾患との関連 : 近年、呼吸器系での2型炎症における炎症性マクロファージの役割に着目されていることから、TET完全欠損マウスを用いた気道炎症モデルで、TET酵素の呼吸器系での働きについて解析する。バルクやシングルセルRNA-seqを適宜活用して、新たな分子機構を見出したい。
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