研究課題/領域番号 |
22H02895
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松本 光代 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (80400448)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | BACH1 / 膵臓癌 / 鉄 / EMT |
研究開始時の研究の概要 |
転写因子BACH1は、膵臓癌の転移促進因子であり、予後不良因子である。しかし、本因子の転移促進機序の全貌は未だ不明である。他方、BACH1は複数の鉄代謝関連遺伝子の転写を抑制する。鉄は上皮間葉移行(EMT)や癌幹細胞性を増進させる事で、癌の再発や転移に関与する可能性が示唆されている。そこで、BACH1による癌細胞中遊離鉄量の増加が、癌転移を促進するのではないかという仮説を立てた。本研究では、BACH1が膵臓癌細胞内の遊離鉄を増加させる事と、鉄が膵臓癌転移に与える影響をEMTと癌幹細胞に注目して検証することで、膵臓癌転移の理解を進め、それを利用した悪性化防御法の新規提案を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、鉄代謝因子の重要な転写抑制因子であるBACH1の膵臓癌転移促進機序の解明と、その機序を利用した膵臓癌の新規悪性化防御法の提案にある。 我々はこれまで転写因子BACH1が膵臓癌の予後不良因子であり、上皮間葉移行(EMT)の促進に関わり、転移を促進することを示してきた。しかし、BACH1のEMT促進機序およびBACH1自身の膵臓癌細胞での制御機構については未だ不明な点が多い。一方で、BACH1の標的には鉄代謝関連遺伝子が多いことがわかっている。しかし、それらの遺伝子には鉄の蓄積にも排出にも関するものが含まれている。したがって、BACH1を介した細胞内鉄量への影響は細胞種やその状況によって異なることが予想される。2022年度、我々は膵臓癌細胞においてBACH1の発現がキナーゼの1つであるTBK1によって促進されること、BACH1のノックダウンやノックアウトによって膵臓癌細胞株AsPC-1細胞の細胞内遊離鉄量が減少することを示した。さらに、細胞間接着因子であり、上皮系のマーカーとして用いられるE-カドヘリンタンパク質の発現はAsPC-1細胞の培地への鉄のキレート剤投与によって上昇することを見出し、BACH1が鉄を介してEMTを制御している可能性を示した(Antioxidants. 2022 11:1460)。現在までに他の癌細胞でもBACH1は細胞内遊離鉄の増加に寄与することを見出している。BACH1は癌細胞の鉄の恒常性に影響し、細胞内の遊離鉄を増加させることで癌細胞の悪性化をサポートしていると考えられる(Subcell Biochem. 2022 100:67-80, book)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、研究実績の概要に記した通り、これまでよくわかっていなかったBACH1のEMT促進や転移といった癌悪性化の機序の一環として、BACH1を介した細胞内遊離鉄量の増量が関与している可能性が高いことを示し、論文として報告することができた。また、鉄が膵臓癌細胞のEMTに及ぼす影響は、E-カドへリンだけではないことも見出してきており、現在さらにその機序について検討を行っていることころである。BACH1はこれまで、さまざまな癌種に置いて悪性化に関与することが報告されてきている。しかし、それらの機序は解糖、酸化的リン酸化など共通していない。現在、これらの癌細胞でのBACH1の癌悪性化機構が細胞内遊離鉄の上昇に起因するのではないかと考え、EMT以外の経路にも注目している。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況の欄にも記載した通り、現在、膵臓癌の細胞内遊離鉄上昇の影響はEMT関連因子のE-カドヘリンだけに留まらないことを見出しつつあり、どんな因子が影響を受けるのか、さらに確認する。また、昨年度までにBACH1による細胞内遊離鉄の上昇は他の癌種の細胞においても観察できることを見出しており、その機序は、BACH1によるフェリチン遺伝子の転写抑制にあると考えているが、まだ実験的にこれを証明できていない。したがって、BACH1とフェリチンのダブルノックダウンによって細胞内遊離鉄量が本当に減少しなくなるかなどの実験的検証を進める。また、BACH1を介した細胞内遊離鉄の癌悪性化経路としてEMTだけでなく、幹細胞性に関わる因子の発現状態の変化を調べる。また、鉄はミトコンドリの働きには不可欠なものであることから、酸化的リン酸化状態なども酸素消費速度(OCR)の測定などによって検討する。 なお、研究代表者は2022年度末に、無期転換ルール(10年特例)に従い退職したため、計画当初と比べて研究できる時間に制約が生じることになった。したがって、2023年度はその部分を補助員(アルバイト)を雇用し補うことで、本研究計画を遂行することとする。
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