研究課題/領域番号 |
22H03727
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
入江 仁士 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 教授 (40392956)
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研究分担者 |
清水 慎吾 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 主任研究員 (70462504)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 線状降水帯 / 大気下層水蒸気 / 受動型可視分光法 / データ同化 / MAX-DOAS / 同化モデル |
研究開始時の研究の概要 |
低コストの受動型可視分光法による大気下層水蒸気濃度の鉛直分布の無人自動連続観測技術を確立させ、線状降水帯研究への新展開を図る。これまで検討されていない「低コストの受動型可視分光法技術によって線状降水帯の予測精度の向上が見込めるか?」という「問い」に答えを与える極めて重要な研究である。世界レベルの受動型可視分光法の技術などを有すだけでなく、線状降水帯予測にとってクリティカルな風上に位置する福江島など国内4サイトを含む独自の地上観測網を有す応募者のみが可能で独自の切り口で挑戦する研究である。線状降水帯予測のための最先端データ同化技術も援用した研究体制で相乗的な成果をあげ、新展開を図る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、低コストの受動型可視分光法による大気下層水蒸気濃度の鉛直分布の無人自動連続観測技術を確立させ、気候変動の影響で顕在化している線状降水帯をはじめとした多くの人命に関わる極端降水現象の予測技術の向上を目指し、新展開を図ることである。そのために、本観測技術と既存の観測技術(ラジオゾンデやマイクロ放射計など)から得られる水蒸気データとの比較による定量的な精度評価研究を基に、大気下層(高度3 km以下)の水蒸気観測の精度(~10%)を高く保ちつつ、雲スクリーニング方法を工夫したり、リアルタイムデータ配信できるよう改良して線状降水帯予測に活用できるよう観測システムを最適化する。そのうえで、本観測技術で得られた水蒸気データをデータ同化システムに導入し、線状降水帯予測に対する有効性を定量的に明らかにする。 R04年度は、国内4サイトで低コストの受動型可視分光法(MAX-DOAS法)による連続観測を実施した。また、線状降水帯予測研究に対するMAX-DOAS法による観測のパフォーマンスを最大限に高めるための改良点を、本研究の枠組みとこれまでの知見やデータなどを基に整理し、検討を進めた。具体的には、a) 曇天時の観測データ数の向上と精度評価、b) 観測から同化モデル導入までの時間短縮(リアルタイムデータ配信)を検討した。また、同化モデルとして、比較的計算コストが低く速報性の高い予測が可能な三次元変分法同化法を利用できるCReSS-3DVARを用いた予測法をベースに、低コストで自動連続観測可能なMAX-DOAS法によるリトリーバル結果を同化できるようにするために、MAX-DOAS法による観測誤差の調査と最適な設定方法を検討し、過去に得られた観測データを用いた導入試験を行い、データ同化手法の実現可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、本研究が対象とする国内4サイト(千葉、つくば、福江島、春日)で低コストの受動型可視分光法(MAX-DOAS法)による連続観測を実施し、水蒸気濃度の高度分布を導出した。複数年のラジオゾンデの水蒸気高度分布データと比較したところ、両者の相関係数は0.96ととても高く、差は平均で12 %と理論誤差より小さいことが分かった。雲の干渉影響を調べるために、同じ観測サイトのライダーデータを援用したところ、高度3km以上に雲があっても観測精度に顕著な影響を及ぼさないことが分かった。また、本研究の枠組みにおいて水蒸気データを速やかに同化モデルへ提供するシステムを構築した。同化モデルにおいては、過去の観測データを読み込み、その位置と時刻を把握した上で、予測モデル座標点への内挿を行うプログラムを作成した。これにより、MAX-DOAS法連続観測のデータを取り込むことが可能となった。観測データは水蒸気混合比に変換できるので、観測された水蒸気混合比とその推定誤差を読み込むプログラムを開発した。また、既存のCReSS-3DVARスキームでMAX-DOAS観測データを同化する実験を行い、観測地点周辺の水蒸気の修正(観測値に予測値を近づける)が適切に行うことが可能であることを明らかにした。MAX-DOASは、天頂方向だけでなく、ある程度の仰角で傾いた方向の観測も可能である。その観測を同化するために、観測地点直上のみならず、視線方向と同じ水平方向にデータ同化を行う機能も開発した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で対象としている4サイトでの長期連続観測を継続していく。現地協力者との協働体制を密にして、データ欠損を最小に抑える。また、上空の雲が下層の水蒸気濃度データの精度に顕著な影響を及ぼさないことが分かってきたが、その理由として、MAX-DOASで測定される太陽散乱光の光路の長さ(ボックスエアマスファクター)が大気下層では測定の仰角と大気下層の消散係数に強く依存するためであると考えられた。このことを、放射伝達モデルによる感度テスト及びラジオゾンデやマイクロ波放射計のデータとの比較により定量的に評価し、その結果に基づき雲スクリーニング方法を最適化するなどしてデータ同化に利用できるデータ数を極力増やす。また、生データ取得から迅速にデータ配信できるよう一連の解析アルゴリズムを最適化する。このように最適化し、低コストの受動型可視分光法による大気下層水蒸気濃度の鉛直分布無人連続観測技術を確立させていく。 同化モデルについては、実際に観測されたMAX-DOAS法のデータを使い、予測実験を行う。データ同化有無による雨量予測の差を明らかにすることで、データ同化へのインパクトを定量的に評価する。また、他の水蒸気観測(鉛直積算した水蒸気量を観測できるマイクロ波放射計)との比較を行い、コストのみならず、精度向上への貢献においても、MAX-DOAS法の優位性を検証する。
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