ドプラ心エコー法による経僧帽弁血流速波形のE/Aは、心不全例における左室充満圧推定の中心となるが、心房細動に代表される単峰性の経僧帽弁血流速波形例ではE/Aが適用できず、E/Aに代わる左室充満圧推定指標の確立が望まれる。そこで、房室弁開放時相差の視覚的評価に基づいた新しい指標であるVMTスコアの精度を単峰性の経僧帽弁血流速波形例で検討した。 心エコー検査に近接して肺動脈楔入圧が計測され、経僧帽弁血流速波形が単峰性であった心不全患者102例(うち心房細動68例)を対象とした。肺動脈楔入圧≧15 mmHgを左室充満圧上昇と定義した。心房細動例における左室充満圧指標として、経僧帽弁血流速波形のE、等容弛緩時間、E/e'、三尖弁逆流最大速度を計測した。四腔像で評価した房室弁の開放時相差(三尖弁先行:0点、同時開放:1点、僧帽弁先行:2点)と下大静脈拡張の有無(無し:0点、あり:1点)を加算してVMTスコア(0~3点)を求めた。血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド濃度(BNP)を調査した。その結果、VMTスコアの上昇とともに肺動脈楔入圧は高値をとり、VMT1と2の間で有意の上昇を認めた(0:10±5、1:14±6、2:24±6、3:28±7 mmHg)。VMTスコア2以上による左室充満圧上昇の予測成績は感度75%、特異度97%と良好であった。左室充満圧上昇を予測するロジスティック回帰モデルのC統計量は、E(0.55)、等容弛緩時間(0.64)、E/e'(0.61)、三尖弁逆流速度(0.68)に比し、VMTスコア(0.88)で有意に大きかった。BNPにVMTスコアを加えたモデルでは、BNP単独よりも左室充満圧上昇の予測成績が向上した(C統計量:0.83 vs 0.94、P<0.001)。以上より、VMTスコアは、経僧帽弁血流速波形適用不能例における左室充満圧上昇の検出に有用と考えられた。
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