研究課題/領域番号 |
22H04914
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陰山 洋 京都大学, 工学研究科, 教授 (40302640)
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研究分担者 |
高津 浩 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60585602)
タッセル セドリック 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60597798)
加藤 大地 京都大学, 工学研究科, 助教 (40906921)
高村 仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (30250715)
猪熊 泰英 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80555566)
内田 さやか 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10361510)
藤井 進 九州大学, エネルギー研究教育機構, 特任准教授 (90826033)
小林 俊介 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主任研究員 (60714623)
Li Haobo 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20938188)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
627,770千円 (直接経費: 482,900千円、間接経費: 144,870千円)
2024年度: 92,040千円 (直接経費: 70,800千円、間接経費: 21,240千円)
2023年度: 152,490千円 (直接経費: 117,300千円、間接経費: 35,190千円)
2022年度: 204,360千円 (直接経費: 157,200千円、間接経費: 47,160千円)
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キーワード | セラミックス / ヒドリド / プロトン / 新物質 / 機能材料 |
研究開始時の研究の概要 |
クリーンな元素である水素を軸とした水素社会実現のためには、安定なセラミックス材料は産業応用上かかせない。本研究では、まず、プロトン含有酸化物クラスターを軸にした酸触媒の開発や、固体結晶におけるプロトンを媒介とする新規反応を開拓する。また、ヒドリド含有セラミックスのボトムアップ合成や、分極率が大きいなどのヒドリドの特長を利用してイオン伝導など機能開拓する。さらに、ヒドリド・プロトンの共存・変換を利用した機能開発も目指す。これらの研究を通じ、「水素イオンセラミックス」という新分野の確立とイノベーションの創出を目指す。
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研究実績の概要 |
急速に進行する地球温暖化、資源問題は人類が直面する喫緊の課題である。その問題を解決するには、クリーンな水素をエネルギー源とした反応プロセスの技術革新が必須である。水素が関わる反応や材料(固相、液相、気相)は、多岐に渡っており、世界中で様々な角度から研究が行われているが、安定性や持続可能性、環境調和の観点から、酸化物を始めとしたセラミックス材料の優位性・重要性は明らかであり、本研究課題では、水素をとりまくセラミックス材料の新物質・新反応の開拓および革新的機能の創出を目指している。プロトンに関しては、令和四年度の最も重要な成果としては、ポリ酸(Polyoxometalate: POM)と呼ばれるクラスター酸化物のほぼすべてが、負電荷クラスターを持つものに限定されていたが、我々は、正電荷巨大クラスターを有する新物質HSbOIの合成に成功した。同物質には単位胞に数百の原子が含まれるが、構造解析には最先端の三次元電子線回折トモグラフィーを利用した。ポリ酸を含めたクラスター物質に同定には単結晶が必須であったが、同手法を世界で最初に適用した事例である。また、クラスター表面のプロトンの酸性度が高いことに起因して優れた酸触媒として働くことを見出した。ヒドリドに関しては、EuVO2Hの合成に成功し、我々が2017年に発見したH-の高い圧縮率を念頭に、基板応力や外部圧力を印加したところ、水素層(EuH)から酸素層(VO2)への電荷移動が起こり、それに伴いネオジム磁石に匹敵する巨大垂直磁気異方性が発現することを発見した。プロトン、ヒドリド共存系に関しては、ペロブスカイト系を中心に物質探索を精力的に行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新物質HSbOIに関しては、約二世紀もの間、膨大な研究がなされているポリ酸は負に帯電するが、本研究で開発したアンチモン材料(HSbOI)は正電荷を有する点で異なる。また、遷移金属フリーにも関わらずクラスター表面のH+の酸性度が高く、固体酸触媒として優れた性質を示すため、応用面でも極めてインパクトが高いと考える。また、脱水を経由する反応としては、水熱法で得られた孤立鉄イオン(S = 5/2)をもつ磁性体に対して、脱水に続き、部分水和処理を施すことで一次元スピン鎖をもつ(2,2'-bpy)FeF3・2H2Oへ変換することに成功し、磁気秩序の兆候を低温でも示さない理想的な振る舞いを見出した水熱反応は、カゴメ格子などの低次元磁性体を得る手段として広く使われるが、本研究の脱水を利用した反応は、水熱反応で得られた多くの物質系に適用できる簡便な手法でありインパクトが高いと考える。アニオン秩序型ペロブスカイトEuVO2Hで得られた、ネオジム磁石に匹敵する巨大な垂直磁気異方性や、応力による面間の電荷移動は、H-の高い圧縮率やπ対称性欠如によるものであり、3d, 4fバンドの独立制御に関するこれまでにない層状酸水素化物ならではの指針を与えるはずである。共存系に関してもペロブスカイト酸化物における逐次トポケミカル反応、例えば、CaH2によるヒドリド化のあとにH+/Na+置換または低温水和によるプロトン化、を行うことなどで共存化ができる感触を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
HSbOIに関しては、正電荷クラスターを有する化合物群の拡張をクラスターの元素置換(Biなど)と対アニオン(Brなど)との組合せの観点から進め、触媒機能向上と構造-機能相関を明らかにしたい。また、プロトン性の水素を含むNH4+をもつペロブスカイト化合物に関してイオン伝導およびマルチフェロイクスの観点から、構造と対称性、水素結合の関係を明らかにしていく予定である。酸水素化物に関しては、応力をあたえることで反応性をコントロールすることができないか検討していく。例えば、「SrV4+O3 → SrV3+O2H」の反応では、中間組成SrVO3-xHx (0<x<1)は観測されていない。また、酸素の脱離とヒドリドの挿入はアニオン欠損の存在を要請するが、出発組成、最終組成にはアニオン欠損は存在していない。我々は応力(圧縮応力または引張応力)を与えることで中間組成を得ることやアニオン欠損相をトラップすることができるのではないかと期待している。また、酸水素化物の合成方法に関しては、引き続き有機的アプローチと無機的アプローチの両面から探索していく。前者は、H+内包[36]adamanzane(H+@Adz)をカチオンとする一連のヒドリド化合物の合成などを試みる。後者に関しては水熱合成のほか、メカノケミカル反応、LiHなどの溶融塩を使った手法をトライする予定である。また、共存系に関しては、通常の薄膜装置では、揮発しやすいH-やOH-を薄膜中に取り込むことが困難であるため、研究前半は主に新水素化合物の合成専用のPLD装置開発を行う予定である。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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