研究課題/領域番号 |
22H04915
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 進 京都大学, 工学研究科, 教授 (10208358)
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研究分担者 |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 助教 (70793800)
吉田 昌宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (20880636)
De・Zoysa Menaka 京都大学, 工学研究科, 講師 (40740395)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
599,040千円 (直接経費: 460,800千円、間接経費: 138,240千円)
2024年度: 126,750千円 (直接経費: 97,500千円、間接経費: 29,250千円)
2023年度: 130,390千円 (直接経費: 100,300千円、間接経費: 30,090千円)
2022年度: 115,050千円 (直接経費: 88,500千円、間接経費: 26,550千円)
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キーワード | フォトニック結晶 / 非エルミート / フォトニック結晶レーザー / レーザー / 光デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、光の波長程度の周期性を有するフォトニック結晶を舞台に、エネルギー散逸を伴わない結晶内部の光結合(エルミート光結合)に加えて、エネルギー散逸(特に放射現象)を介した光結合(非エルミート光結合)をも同時に完全制御することにより生じる新規光物理現象を明らかにするとともに、その知見をもとに、超大面積単一モード半導体レーザーや一方向性光デバイス等の画期的な光デバイスの実現を目指していくものである。これにより、非エルミート・ナノフォトニクスとも呼ぶべき新たな学術分野の開拓が期待される。
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研究実績の概要 |
従来、フォトニクス分野においては、光の散乱・放射等に起因するエネルギー散逸を、可能な限り抑制することが重要であると考えられてきた。本研究では、フォトニック結晶を舞台に、逆に、エネルギー散逸に基づく非エルミート結合を積極的に活用し、エネルギー散逸を伴わないエルミート結合と併せて完全制御し、それにより生じる物理現象を明らかにするともに、超大面積単一モード半導体レーザーや一方向性光デバイス等の画期的な光デバイスの実現を目指している。すなわち、(I)フォトニック結晶における非エルミート・エルミート結合制御による分散特性制御、(II)超大面積フォトニック結晶レーザーの実現、(III)一方向性光デバイスの提案・実証の3項目を設定し、研究を進めている。 2023年度は、まず、項目(I)に関して、非エルミート・エルミート結合係数を変化させた様々な二重格子結晶を作製し、理論解析で予測された特異な物理現象(分散特性や縮退点数の特異な変化)を実験的かつ体系的に観測することに成功した。次に、項目(II)の超大面積レーザーの試作を行った。エルミート・非エルミート結合係数の両者を制御した二重格子構造を有する直径3mmレーザーを作製し、連続駆動により単一モード発振を維持しつつ、大型レーザーに匹敵する輝度1GW/cm2/srの実現に世界で初めて成功した。さらに、項目(III)についても、前倒しで試作を行い、光を一方向から入射した場合には、反射が生じず、放射のみが生じるのに対し、反対方向から入射した場合には、反射のみが生じることを示し、一方向性光デバイスの実証に成功した。 さらに、当初計画にない展開として、分散制御に基づく短パルス・高出力フォトニック結晶レーザーの提案・実証、任意の強度分布の光を放射可能なフォトニック結晶構造の設計、さらには、フォトニック結晶レーザーの可視域・通信波長域への展開に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、具体的な研究項目として、(I) フォトニック結晶における非エルミート・エルミート結合制御による分散特性制御、(II) 超大面積kW級フォトニック結晶レーザーの実現、(III)一方向性光デバイスの提案および実証、の3つの項目を設定している。 2023年度は、まず、項目(I)について、独自の2重格子結晶における非エルミート・エルミート結合制御により、理論的に予測された特異な分散特性の実験的かつ体系的な制御に成功した。続いて、項目(II)について、当初予定よりも1年前倒しで直径3mmのフォトニック結晶レーザーの試作と光学特性の評価を行い、出力50W超の単一モード連続動作の実現に世界で初めて成功し、他の大型レーザーに匹敵する輝度1GW/cm2/srを実現することに成功した。さらに、項目(III)についても、一方向性光放射・反射現象の観測に成功し、約2年前倒しで、当初の主たる研究目標を達成した。さらに、当初研究計画にない新たな展開として、非エルミート・エルミート分散特性制御を利用した、100-200W級短パルスフォトニック結晶レーザーの実証や、高効率・任意放射フォトニック結晶構造の提案、さらには、可視域・通信波長域PCSELの開発・深化等をも行った。 以上の研究成果は、Nature、Physical Review Applied、Optica等、当該分野で影響力のある著名学術雑誌に多数掲載され、併せて、国内外で多くの報道がなされた。特に、Nature論文は、掲載後、1年未満にも関わらず、32件以上の被引用件数に達している。さらに、これらの研究進展を受けて、本研究内容に関する招待レビュー論文(全56頁)の執筆 [Adv. Opt. Photon. 15, 977 (2023)] の機会にも恵まれた。 以上により、全体として本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、まず、項目(II)に関して、フォトニック結晶レーザーのさらなる大面積化、高出力化に取り組む。まず、デバイス面内に意図しない共振周波数や結合係数の揺らぎが生じた場合の影響を、数値解析により明らかにし、kW級動作を実現するために要求される二重格子フォトニック結晶の詳細な作製条件を理論的に明らかにする。併せて、デバイス面積を拡大した場合にも、電流を面全体で均一に注入することが可能な、出射面側の電極構造の設計を行う。これらの検討をもとに、超大面積デバイスの試作を行い、数100W級の出力にも達する超大面積フォトニック結晶レーザーの実現を目指す。 加えて、当初計画を超える追加検討項目として、非エルミート・エルミート分散特性制御を利用した短パルスPCSELのさらなるピーク出力増大、さらには、高効率・任意放射フォトニック結晶導波路の実証にも取り組む。前者については、フォトニック結晶の分散関係を決める非エルミート・エルミート結合係数の大きさや、フォトニック結晶の格子定数分布の最適化を行うことで、発振時のQスイッチング効果をさらに高めることを検討し、それによりピーク出力を 500 W以上に増大させることを目指す。また、後者については、前年度までに設計したフォトニック結晶構造を実際に作製し、任意パターンの光放射の観測を目指すとともに、光の放射パターンを2次元的に制御可能なフォトニック結晶の実現可能性についても理論的な検討を開始する。さらに、フォトニック結晶レーザーの波長域拡大の深化にも取り組んでいく。
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