研究課題/領域番号 |
22H04918
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柳沢 正史 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (20202369)
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研究分担者 |
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
625,560千円 (直接経費: 481,200千円、間接経費: 144,360千円)
2024年度: 123,630千円 (直接経費: 95,100千円、間接経費: 28,530千円)
2023年度: 144,690千円 (直接経費: 111,300千円、間接経費: 33,390千円)
2022年度: 149,500千円 (直接経費: 115,000千円、間接経費: 34,500千円)
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キーワード | 睡眠覚醒 / 細胞内シグナル伝達系 / 顕性スクリーニング / マウス / アデノ随伴ウイルス |
研究開始時の研究の概要 |
睡眠は動物に普遍的に認められる行動であるが、睡眠覚醒行動を制御する分子基盤は明らかではない。睡眠の不調に苦しむ多くの人の福音となる睡眠介入法の開発には睡眠の根本的理解が必要である。研究代表者らは睡眠制御機構の解明を目指し、世界で類のない哺乳類を用いた睡眠のフォワード・ジェネティクス研究を推進し、ノンレム睡眠を制御する細胞内シグナル系としてSIK3パスウェイを見出した。本研究では、睡眠のフォワード・ジェネティクス研究を推進するとともに、SIK3パスウェイの上流および下流シグナルを同定する。またこれらの分子に着目した研究を通じて、ノンレム睡眠およびレム睡眠制御の分子機構を解明する。
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研究実績の概要 |
1)睡眠制御バスウェイの解明を目指して顕性スクリーニングとSLPサプレッサースクリーニングを実施している。それぞれのスクリーニングにおいて、睡眠異常もしくは睡眠正常化個体の同定、遺伝性確認など、フォワード・ジェネティクス研究における各段階のマウスが複数存在する。睡眠異常の表現型は、ノンレム睡眠延長やレム睡眠延長が多くを占める。複数の家系で、遺伝性確認から連鎖解析に進んでいる。2)SIK3パスウェイについては、遺伝子改変マウスとアデノ随伴ウイルスを組み合わせた研究と、北京生命科学研究所のLiu研究室との共同研究により、LKB1-SIK3-HDAC4/5がキナーゼカスケードを形成し、睡眠を制御する細胞内パスウェイとして働いていることを明らかにした。アデノシン受容体欠損マウスの睡眠覚醒の検討も進めている。3)SIK3と他のシグナル伝達系の相互作用を介したシナプス機能を解明するために、遺伝子改変マウスやアデノ随伴ウイルス投与脳を用いた検討を行った。質量分析によるインタラクトーム解析を進めた結果、複数の候補分子を見出している。4)睡眠の量と質を制御する神経機構の解明については、進捗状況の理由欄に詳細を記載するが、本年度、大きく進展した。大脳皮質を含む終脳の興奮性ニューロンが睡眠の質の指標であるノンレム睡眠中徐波成分量を、視床下部の興奮性ニューロンが睡眠の量、特にノンレム睡眠時間を規定することを明らかにした。5)NALCN変異によるレム睡眠異常の責任部位をCreマウスを用いた検討を進めている。並行してアデノ随伴ウイルスの局所投与による検討も行っている。NALCNインタラクトームの同定のため近接依存標識NALCNマウスを作製し蛋白相互作用の実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
特に「睡眠の量と質を制御する神経機構の解明」については大きな進展があり、Nature誌に研究成果を公表することができた。Sleepy変異型SIK3蛋白をCreマウスを用いてニューロンタイプや脳領域特異的に発現させることにより、睡眠の量(睡眠時間)と睡眠の質(ノンレム睡眠中脳波徐波成分量)とが、異なる興奮性ニューロン集団によって制御されていることを明らかにした。さらなる検討から、視床下部の興奮性ニューロンにおけるSIK3が睡眠の量を制御し、大脳皮質を含む終脳の興奮性ニューロンにおけるSIK3が睡眠の質を制御すると考えられる。さらに、ニューロンタイプ特異的にSIK3を欠損させた場合の睡眠覚醒を検討したところ、Sleepy変異型SIK3 floxマウスと概ね反対の睡眠覚醒となり、興奮性ニューロンでのSIK3脱落はノンレム睡眠中徐波成分を減弱させ、さらにノンレム睡眠時間も短縮した。意外なことに、抑制性ニューロンにSleepy変異型SIK3を発現させたり、SIK3を欠失させても睡眠の量や質に顕著な違いは生じなかった。 遺伝子改変マウス及びアデノ随伴ウイルスを用いた検討により、リン酸化酵素LKB1がSIK3のキナーゼ領域内のスレオニン残基(T221)をリン酸化することでキナーゼ活性を正の方向に調節することを明らかにした。Liu研究室との共同研究により、LKB1-SIK3-HDAC4/5がキナーゼカスが睡眠を制御していることを明らかにした。睡眠制御の細胞内シグナルパスウェイとしてははじめての報告になる。また、大脳皮質を対象にしたシングル核RNA-seqにより、Sleepy変異型SIK3発現や断眠による遺伝子発現変化を網羅的に検討し報告した。共通の変化を示すものを中心に睡眠の質の分子的実態解明のためさらなる検討を重ねていく。
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今後の研究の推進方策 |
1)顕性スクリーニングとSLPサプレッサースクリーニングを計画通りに継続する。睡眠異常およびSleepy型過眠表現型の正常化を指標に脳波筋電に基づく睡眠覚醒解析を行う。睡眠異常またはSleepy正常化遺伝子の同定と、因果性の確認を進める。2)睡眠物質とSIK3パスウェイの接続のために、遺伝子改変マウスを用いた検討に加えて、薬理学的検討やイメージングも実施していく。3)SIK3を介したシナプス機能制御解明のため、SIK3と相互作用する蛋白質の同定を続ける。候補蛋白質については、in vitroでの機能解析を進めると同時に遺伝子改変マウス作製やアデノ随伴ウイルスを用いた操作によって、睡眠への影響を明らかにする。4)睡眠の量と質を制御する神経機構の解明のため、視床下部での睡眠量調節に関わるニューロンタイプやその分子機構を明らかにする。並行して、大脳皮質等でのノンレム睡眠中脳波徐波成分制御に関わる分子機構を明らかにするため、候補分子を操作して睡眠覚醒等の表現型がどのように変化するか検討する。5)レム睡眠を制御するNALCNとそのインタラクトーム解析NALCN変異によるレム睡眠異常の責任部位をCreマウスを用いた検討を着実に進めていく。近接依存標識NALCN発現マウスと質量分析を用いた検討も実施していく。
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