研究課題/領域番号 |
22H04928
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分A
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研究機関 | 公立小松大学 (2023-2024) 金沢大学 (2022) |
研究代表者 |
中村 誠一 公立小松大学, サステイナブルシステム科学研究科, 特別招聘教授 (10261249)
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研究分担者 |
伊藤 伸幸 名古屋大学, 人文学研究科, 助教 (40273205)
中込 滋樹 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員准教授 (40625208)
市川 彰 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 准教授 (90721564)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
196,300千円 (直接経費: 151,000千円、間接経費: 45,300千円)
2024年度: 37,180千円 (直接経費: 28,600千円、間接経費: 8,580千円)
2023年度: 34,450千円 (直接経費: 26,500千円、間接経費: 7,950千円)
2022年度: 79,690千円 (直接経費: 61,300千円、間接経費: 18,390千円)
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キーワード | コパンのマヤ遺跡 / マヤ文明 / パレオゲノミクス / コパン王朝 / ティカル国立公園 / コパン王朝史 / ティカル遺跡 |
研究開始時の研究の概要 |
パレオゲノミクスは、遺跡に埋まっている古人骨から大量のゲノム情報を抽出して、従来型の考古学研究では明確に可視化できなかった血縁関係、婚姻システム、社会構造、他地域社会との混血といった諸相を科学的に解明しようとする分野である。本研究では、パレオゲノミクスをアメリカ大陸の古代マヤ文明の本格的な研究に世界で初めて適用する。その舞台は、ホンジュラスの世界遺産「コパンのマヤ遺跡」である。王墓出土の古人骨を含む数百点の人骨から、大量のゲノム情報を抽出・解析し、王朝の起源、他のマヤ王家との婚姻関係、王国崩壊の要因など、従来の研究では仮説にとどまっていた諸相に切り込み、コパン王朝のダイナミクスを解明する。
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研究実績の概要 |
今年度の9月までに、当初計画していた本研究の中核サンプル(250点程度)は、全て予定通り採取され、2024年2月までに、すべて無事、日本の金沢大学の研究協力者である覚張助教のラボへ移送された。研究代表者である中村自身が発見し発掘した古人骨資料であるホンジュラスのコパン遺跡およびコパンの周縁地域であるラ・エントラーダ地域の2次センターであるエル・プエンテ遺跡、ラス・ピラス遺跡、その他の遺跡からのサンプルに加え、グアテマラのティカル遺跡やカミナルフユ遺跡からのサンプルも、予定通り、国外持ち出し許可取得に成功し日本へ移送されている。現在、中南米諸国では、外国人調査団に対して、日に日に学術資料の国外持ち出しへの締め付けが厳しくなっている。コパンやティカルが国を代表する世界遺産であることや、近年、極めてナショナリズムが高揚してきているホンジュラスや、2023年に大統領選挙が行われ、政情不安を抱える中で2024年初頭に政権交代のあったグアテマラの政治状況を考えると、これは特筆に値する成果である。日本へ移送された資料の一部は、すでにコラーゲンの採取からヒト由来の内在DNA率の確認まで進められており、湿潤な熱帯から亜熱帯の環境では極めて困難あるいは不可能と言われていた核DNAの採取に我々の予想を上回る高い確率で成功している。
上記のパレオゲノミクスチームの成果に加え、コパン中心部における発掘調査では、35年ぶりとなる新たな石碑断片が発見された。石碑64と命名されたこの石碑は、コパンにおける王朝創始後まもなくの時期である5世紀後半のものであり、残存碑文に王の名前や当時のコパン王朝とグアテマラ・ペテン低地の諸都市との関係が示唆されているところから、本研究課題の解明に極めて重要な考古学資料である。今後、パレオゲノミクスの成果と組み合わせることによって大きな成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時点で計画していた本研究の中核サンプル(250点程度)が、全て予定通り採取され、5回に分けて無事、すべて日本の金沢大学のラボへ移送されたことがまず挙げられる。次に、日本へ移送された資料の一部は、すでにコラーゲンの採取からヒト由来の内在DNA率の確認まで進められているが、これまでパレオゲノミクスの分野では、湿潤な熱帯から亜熱帯の環境では極めて困難あるいは不可能と言われていた核DNAの採取に、高い確率で成功している点がある。また、解析の終わったサンプルを題材とした国際共著論文が、インパクトファクターの高い国際学術誌での掲載を目標として、現在、予備審査を通過して本格的なレビューに回っている点もあげられる。
さらに、考古学的な調査研究面でも、予期せざる大きな成果が2024年の3月になされた。それは、コパン遺跡では実に35年ぶりとなる王家の石碑の発見であり、コパン遺跡における登録基準に沿って石碑64と命名された。我々の調査で新たに発見された石碑64が本研究にもつ重要性は2点ある。一つは、コパンにおける王朝創始後まもなくの時期である5世紀は、コパン王朝史における謎の時期であり、石碑64は130年以上にわたるコパン遺跡の調査研究史において、5世紀後半の石碑が歴史叙述の主人公である王の名前とともに見つかった初めての事例である。2つ目は、背面に残存していた碑文から、当時のコパン王家とグアテマラのマヤ文明中核地帯であったペテン低地に存在していた諸都市との関係が示唆されている点である。これらの記載は、コパン王朝のダイナミクス解明に極めて重要であり、パレオゲノミクスによる検証が待たれる。
以上の成果から、本研究は、これまでおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで採取してきた古典期コパンにおける古人骨試料250点以上に関して、ヒト内在DNAの有無をスクリーニングする。令和6(2024)年度内に全ての移送試料に関してスクリーニングを完了し、令和7(2025)年度において、全ゲノムデータの生成および解析を進めていくことを目指す。
上記のプロセスとともに、研究分担者の中込は、研究協力者の覚張とともに、パレオゲノミクスにおける新たな解析方法の開発も進める。古典期マヤにおける血縁関係の解明を目指して、低カバレッジのデータからより正確に血縁関係を推定する方法を駆使し、その正確性だけでなく有用性を実証する。
研究代表者の中村は、コパン遺跡中心部における大規模で集中的な発掘調査を継続し、王家埋葬を含む、特に王朝史前半の重要な人骨サンプルの収集を目指す。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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