研究課題/領域番号 |
22H04944
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
戸本 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80432235)
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研究分担者 |
江成 祐二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (60377968)
東城 順治 九州大学, 理学研究院, 教授 (70360592)
堀井 泰之 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (80616839)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
193,440千円 (直接経費: 148,800千円、間接経費: 44,640千円)
2024年度: 39,910千円 (直接経費: 30,700千円、間接経費: 9,210千円)
2023年度: 36,270千円 (直接経費: 27,900千円、間接経費: 8,370千円)
2022年度: 45,760千円 (直接経費: 35,200千円、間接経費: 10,560千円)
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キーワード | ヒッグス粒子 / 湯川結合 / ヒッグス自己結合 / LHC/ATLAS実験 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒッグス粒子が発見され、電弱対称性の自発的破れにより素粒子が質量を獲得したことがわかった。一方で、ヒッグス粒子の質量の自然な説明、素粒子の世代構造や物質優勢構造の説明などには、新物理が必要であることもわかった。本研究は、(i) ヒッグス場との湯川結合が物質構成フェルミオンの質量起源か? (ii)ヒッグスポテンシャルはどういう形か?宇宙は安定か?を学術的「問い」とし、CERN のLHC 実験においてヒッグス粒子の稀反応を精査してそれに挑む。具体的には、ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊の測定などによる第2世代フェルミオンの湯川結合の検証、ヒッグス粒子対生成事象の探索によるヒッグスポテンシャルの形の検証があげられる。
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研究実績の概要 |
本研究は、LHC/ATLAS実験で生成・収集される多量のヒッグス粒子事象から、2種類の稀反応を精査することでヒッグス場の謎に挑む。具体的には、(1)ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊とチャームクォーク対崩壊の観測による第2世代素粒子との結合の測定、(2)ヒッグス粒子自己結合の測定に向けたヒッグス粒子対生成の観測を行う。以上の物理成果を出すために、Run 3から新しく導入する内部μ粒子検出器の早期立ち上げと、この信号と既存のシステムとを統合したヒッグス粒子由来のμ粒子を含む事象を高効率に選別する新しいトリガーの構築を行う。また、すでに多量の放射線を受けてきたシリコン内部飛跡検出器のバイアス電圧値などの最適化を行う。 Run 3実験は2022年度中に重心系エネルギー13.6 TeV、積分ルミノシティで35.7 /fbの物理データを収集した。新しいμ粒子トリガーの構築に関しては、既存のμ粒子検出器と内部μ粒子検出器の信号を組み合わせた新しいμ粒子トリガーを導入した結果、本物の高運動量μ粒子の検出効率の低下を抑えつつ、|η|<1.3のμ粒子誤識別事象を大幅に削減することに成功した。これにより、データ収集頻度を30%低減することに成功し、エネルギーやルミノシティが向上してもこれまで通りの運動量閾値でデータ収集を圧迫することなく、高運動量μ粒子を含む事象を収集することになった。シリコン内部飛跡検出器のバイアス電圧値の決定に関しては、Run 2からRun 3までの積分ルミノシティ量に対する電荷収集効率を調査し、実際の測定値が放射線損傷のシミュレーションモデルと不確かさの範囲で良く一致することを示した。これにより、Run 3実験におけるバイアス電圧値と電荷収集効率値の関係が明らかになった。 さらに高輝度LHC実験におけるヒッグス粒子研究を見据えたμ粒子トリガーと内部飛跡検出器の開発も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Run 3実験の初期データ(積分ルミノシティ35.7 /fb)を用いて、 (i) Run 3から新しく導入する内部μ粒子検出器の信号をRun 2までμ粒子トリガーの主要部分を担っていたμ粒子トリガー検出器の信号と統合し、複数の検出器の融合による独自のトリガーを構築した。高運動量μ粒子の検出効率を大きく下げることなく、トリガーによるデータ収集頻度を30%低減することに成功し、エネルギーやルミノシティが向上してもこれまで通りの運動量閾値でデータ収集を圧迫することなく、高運動量μ粒子を含む事象を収集することができるようになった。これにより、ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊過程、ヒッグス粒子とW/Z粒子との随伴生成過程、ヒッグス粒子対生成過程の解析に欠かせないヒッグス粒子のτ粒子対崩壊過程などのデータ収集を確実に行えるようになった。 (ii) これまでの長期運転により放射線損傷の進むシリコン検出器の状態をシミュレーションとデータを使って確認し、今後の検出器運転で適用するべきバイアス電圧を予想した。これにより、ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊探索に不可欠なμ粒子対不変質量の分解能を高く維持し、ヒッグス粒子対生成過程やヒッグス粒子のチャームクォーク対崩壊過程に不可欠なボトムクォーク、τ粒子、チャー ムクォークの崩壊粒子の飛跡を正確にトラッキングできるようになる。 以上の検出器やデータ収集系の動作状況を鑑みて、Run 3実験全期間におけるヒッグス粒子のμ粒子対崩壊過程、ヒッグス粒子のチャームクォ ーク対崩壊過程、ヒッグス粒子対生成過程の探索感度を推定しながら、物理解析の準備を進めた。さらには、高輝度LHC実験におけるヒッグス粒子研究を見据えたμ粒子トリガーと内部飛跡検出器の開発も進めた。 以上の進捗は当初予定していたものであり、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
LHC/ATLAS実験は、陽子陽子衝突エネルギー13.6 TeVのRun 3実験を2025年まで続ける。予定されている積分ルミノシティ量は、約270 /fb となる。運転計画は、加速器や検出器などの状況に応じて刻々と変化するが、Run 2実験の150 /fb を大きく上回るデータ量を収集する予定である。引き続きμ粒子トリガーと内部飛跡検出器の運転を進め、良質データ収集に貢献する。 (1)ヒッグス粒子のμ粒子対崩壊とチャームクォーク対崩壊の観測による第2世代素粒子との結合の測定に関しては、日本が得意とするシリコン内部検出器とμ粒子検出器を用いたμ粒子の飛跡再構成を行うソフトウェアを構築する、μ粒子対以外の終状態粒子を分類して飛跡再構成手法に変化を与える、などの解析手法の改善を施す。最終的に、ATLAS実験単独で3σ以上、CMS実験を合わせて5σ以上の有意度でH→μμの発見を目指す。 (2)ヒッグス粒子自己結合の測定に向けたヒッグス粒子対生成の観測に関しては、pp→HH→bbττ過程とpp→HH→bbbbの他に感度のある、pp→HH→bbγγ過程も本研究による解析課題として加え、網羅的にヒッグス粒子対生成課程の発見を目指す。Run 3実験の全データを用いて、もし新物理が絡んでいそうであれば信号の確認、標準模型通りであったとしても、3点自己結合の値が0ではない有限の値を持つことを示したい。 その他、高輝度LHC実験におけるヒッグス粒子研究を見据え、高パイルアップ環境下において稼働するシリコン内部飛跡検出器とトリガー・読み出しエレクトロニクスの開発研究も進める。
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