研究課題/領域番号 |
22H04948
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分C
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20401143)
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研究分担者 |
小林 正起 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30508198)
Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50783594)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
195,520千円 (直接経費: 150,400千円、間接経費: 45,120千円)
2024年度: 33,800千円 (直接経費: 26,000千円、間接経費: 7,800千円)
2023年度: 39,130千円 (直接経費: 30,100千円、間接経費: 9,030千円)
2022年度: 65,000千円 (直接経費: 50,000千円、間接経費: 15,000千円)
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キーワード | スピントランジスタ / 酸化物ヘテロ界面 / スピントロニクス / 酸化物 / 分子線エピタキシー / ヘテロ構造 / スピン流 / トランジスタ / エピタキシャル / 機能性デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
本提案では、我々が今まで開拓してきた独自の超高品質酸化物結晶作製技術と、酸化物系の強相関性が織りなす多彩な性質を生かして、従来にない新しいデバイスを実現することにより、カーボンフリーでかつ低消費エネルギーの社会の実現に資することを目指す。我々のグループでは、過去に、極低消費電力での磁化回転現象の実現や、酸化物中の二次元電子ガスを用いた高効率のスピン流電流変換などに成功してきた。これらの知見を活かして、本研究では特に、酸化物(スピン)トランジスタ、スピン流を用いた高効率スピン軌道トルク磁化反転を用いた次世代スピントロニクスデバイス、フレキシブルデバイス、光素子などの実現を目指す。
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研究実績の概要 |
従来、半導体を用いたスピントランジスタの研究では、良好なスピン注入やバリスティック伝導を実現することが難しく、スピンバルブ比が1~10%と小さいことが大きな問題となっていた。本研究では、ペロブスカイト酸化物(La,Sr)MnO3 (LSMO)を用いて半導体系で得られていた値の10倍以上におよぶ世界最高値のスピンバルブ比(140%)をもつスピントランジスタを実現することに成功した[Adv. Mater. 35, 2300110 (2023).]。本研究では、LSMOがアルゴン照射により半導体転移することを見出したことと、本グループでここ数年にわたり開拓してきた武田先端知クリーンルームを活用した微細加工技術を応用することにより、本成果が得られた。 水溶性のSr4Al2O7薄膜のエピタキシャル成長に成功し、その上に成長した10nm程度の膜厚の(La,Sr)MnO3を、SrTiO3基板から剥がすことに成功した。得られた薄膜は、基板上の薄膜と比べ磁化が増大し、キュリー温度も増大し、磁気的不活性層が低減したことが明らかになった。これは室温応用に向けて有望な結果であると言える[Appl. Phys. Lett. 124, 062403 (2024).]。 Fe/MgO電極を有するGeナノチャネルデバイスにおいて、磁場で抵抗が25000%も変化する抵抗スイッチ効果を観測した。予想外の結果であり、現在原理の理解を進めている[Adv. Mater. 36, 2307389 (2024).]。 強磁性半導体の単一層膜におけるスピン軌道トルクのゲート制御に初めて成功した。[Adv. Sci. 10, 2301540 (2023). ]、また、二次高調波を用いて、強磁性半導体のスピン軌道トルクを導出することに初めて成功した。[Appl. Phys. Lett. 123, 152402 (2023).]
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において、2022年から2023年にかけて得られた大きなスピンバルブ比をもつ酸化物スピントランジスタの成果、世界最高値のスピン流電流変換効率、および予想外の磁気抵抗スイッチ効果の発見などの研究成果が、国際的に高い評価を受けている。スピントランジスタの研究では、酸化物におけるナノ領域の相転移技術を用いることで世界最高値となる約140%のスピンバルブ比を実現し、半導体では従来困難であった100%以上のスピンバルブ比をを達成した。LaTiO3/SrTiO3界面に形成された二次元電子ガスを利用して、世界最大のスピン流電流変換効率を実現した研究では、強相関金属とスピン軌道相互作用の大きな二次元電子ガス系を組み合わせることで、効率的なスピン流の注入と電流への変換を可能にした。本材料系のスピントロニクス応用の研究は、世界的に全く行われておらず、独自かつ世界的に先駆的な結果と言える。また、予想外の結果として、Fe/MgO電極を有するGeナノチャネルデバイスにおいて、磁場で抵抗が25000%も変化する抵抗スイッチ効果を観測した研究は、従来電界で制御されていた抵抗スイッチを「磁場でも制御できる」ことを示したもので、新しいマルチフィールドセンサやニューロモルフィックコンピューティングへの応用が期待されている。これらの研究成果は、それぞれ高いインパクトファクターを持つ学術誌[Nature Communications誌1報, Advanced Materials誌2報]に掲載され、東京大学からのプレスリリースを通じて広く紹介された。さらに、論文の筆頭著者の学生による国際会議での招待講演(2件)や、研究を行った博士学生に対して日本学術振興会の育志賞や東京大学総長賞が授与されており、上記の成果対する評価の高さが窺える。従って、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、酸化物ベースのスピントランジスタのさらなる高度化、スピン流電流変換のスピントロニクスデバイス応用、酸化物フレキシブルスピンデバイスの作製、および巨大磁気抵抗スイッチ効果の原理解明と増大を目指す。酸化物ベースのスピントランジスタに関しては、大きなスピンバルブ効果を実現できたため、今後はゲート変調の増大を目指す方針である。具体的には、従来用いてきたバックゲート方式に代わるトップゲート方式の開発を検討している。また、室温での応用を視野に入れ、LaSrMnO3(LSMO)の磁気不活性層の低減や室温で強磁性を示す材料の探索も行う予定である。昨年度の研究で、フレキシブルLSMO薄膜において、磁気不活性層の低減とキュリー温度の増大を実現することができた。従って、デバイスの室温動作応用の研究においては、本研究で開拓したフレキシブル薄膜作製技術も応用できると期待している。スピン流電流変換については、強相関金属LaTiO3を中間層とする方法が有望であることが明らかになり、Intelが提案しているMagneto-Electric Spin-Orbit(MESO)デバイス素子への応用や、不揮発性メモリの低消費電力化への応用を検討していきたい。またさらに、スピン流電流変換効率の増大に向けて、スピン軌道相互作用のより大きな二次元電子系の開発も検討したい。昨年度の研究で、Fe/MgO電極を有するGeナノチャネルデバイスで巨大磁気抵抗スイッチ効果が予期せず観測されたが、その起源を解明することがまずは重要な目標である。第一原理計算により、MgO中の導電性フィラメントの形成を制御することにより、本現象が巨大化することが予想されている。また、それにより、動作温度も上昇することが期待されている。さらに、素子構造を工夫することなどにより、本現象の巨大化を目指したい。
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