研究課題/領域番号 |
22H04958
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川崎 雅司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90211862)
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研究分担者 |
中村 優男 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (50525780)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
196,950千円 (直接経費: 151,500千円、間接経費: 45,450千円)
2024年度: 29,250千円 (直接経費: 22,500千円、間接経費: 6,750千円)
2023年度: 29,250千円 (直接経費: 22,500千円、間接経費: 6,750千円)
2022年度: 79,950千円 (直接経費: 61,500千円、間接経費: 18,450千円)
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キーワード | ハライド / 分子線エピタキシー / 薄膜界面物性 |
研究開始時の研究の概要 |
金属ハライドの示す多彩な光電子機能が近年大きな注目を集めている。しかし、高品質な単結晶薄膜をベースとするヘテロ接合作製や界面電子状態の研究はほとんど行われていない。本研究は、分子線エピタキシー法によるハライドの高品質単結晶薄膜・接合界面を作製する技術を確立し、量子閉じ込め効果による励起子物性や高移動度二次元キャリアによる量子現象の探求、光励起によるスピン流発生などのスピントロニクス機能の検証、強誘電ハライドを活性層とする新型光電変換デバイスの実証などを行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、多彩な機能を持つハライドの薄膜やヘテロ界面で発現する新しい物性と機能を開拓することである。薄膜を用いた精密な物性測定や理想的なヘテロ界面を実現するためには高品質な単結晶薄膜がまず必要となるが、ハライドでは薄膜成長技術が未熟であり、単結晶薄膜の作製報告はこれまで皆無であった。そこで、研究初年度である今年度は、ハライドのエピタキシャル薄膜成長技術の確立に向けて、MBE法によるp型ワイドギャップ半導体のヨウ化銅(CuI)と層状半導体のヨウ化鉛(PbI2)の薄膜成長に取り組んだ。CuIに関しては、格子整合の良いInAsを基板に用いることで、配向を(001), (110), (111)の3方向に制御した単結晶薄膜を作製することに成功した。また、吸収端近傍に現れる鋭い励起子共鳴を利用して、基板からのエピタキシャル歪みによって価電子帯上端のバンドが分裂することを高精度で検出し、歪みとバンド構造変化を関係づける変形ポテンシャルを精密に決定した(Phys. Rev. B 106, 125307 (2022))。PbI2においても、原子層レベルで表面平坦な単結晶薄膜の作製プロセスを確立した。この条件で膜厚を3から50原子層の間で系統的に変化させた薄膜を作製し、量子井戸層幅が励起子ボーア直径と同程度となる領域において、励起子の強い閉じ込め状態から弱い閉じ込め状態へのクロスオーバーが起こることを、層状半導体において初めて実験的に検出することに成功した(Appl. Phys. Lett. 122, 073101 (2023))。なお、ハライドを基軸としつつ様々な物性を有する異種材料との接合作製による機能創成も研究のスコープに含めており、ヒ化物、カルコゲン化物、酸化物などトポロジカル物性を示す薄膜作製と電子輸送現象の研究を並行して行い、多数の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画項目である単純金属ハライドの成膜条件の確立に関しては、優れた励起子特性を示す代表的なヨウ化物半導体であるCuIとPbI2という2つの物質において、MBE法により高品質の単結晶薄膜を作製する条件を確立することができた。作製した薄膜は、従来のハライド薄膜と比べて結晶性や表面平坦性が格段に向上しており、エピタキシャル歪みによるバンド構造の変調や励起子閉じ込め効果のクロスオーバーの検出など、従来のハライド薄膜では困難であった精密な物性評価をすることができた。この結果により、ハライドのヘテロ超構造作製と界面物性研究への道筋が立った。さらにハライドとのヘテロ接合研究に関連した異種材料の薄膜物性研究も進展している。以上から、研究はほぼ計画通り順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ハライド薄膜における量子輸送現象の観測に向けて、電気伝導特性の評価に取り組む。ハライドは酸素や湿気による劣化を示す物質が多いことから、安定した電気伝導測定を行うためには、表面パッシベーションやデバイス加工方法の確立と、最適な電極材料の選定が必要である。これらの問題を解決し、今年度に作製に成功した高品質のCuI薄膜におけるシフト電流の観測など、量子物性研究を展開する。また、今年度に導入した多本数の蒸発セルを装備可能なMBE装置を用いて強誘電性や磁性を示すハライドのヘテロ接合の作製にも取り組み、界面で発現する新奇物性の開拓を行う。さらに、異種材料とのヘテロ接合作製についても検討を行う。
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