研究課題/領域番号 |
22H04959
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹谷 純一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20371289)
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研究分担者 |
小林 伸彦 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10311341)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
190,970千円 (直接経費: 146,900千円、間接経費: 44,070千円)
2024年度: 28,340千円 (直接経費: 21,800千円、間接経費: 6,540千円)
2023年度: 94,380千円 (直接経費: 72,600千円、間接経費: 21,780千円)
2022年度: 21,060千円 (直接経費: 16,200千円、間接経費: 4,860千円)
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キーワード | 有機半導体 / 量子エレクトロニクス / 二次元電子ガス / 有機単結晶半導体 / 電子相転移 |
研究開始時の研究の概要 |
有機半導体分子の自己組織化周期構造において、「ソフトでクリーン」な電子系を構築し、金属絶縁体転移により、高速で大規模の情報演算に必要な量子エレクトロニクスのベースとなる二次元電子ガスをはじめて実現した。本研究は、歪印加用高分子基板/量子井戸分子の二次元極薄結晶/イオンゲルの電気二重層の独自複合材料を用い、二次元歪(物理的圧力)及びキャリア量(化学ポテンシャル)を自在に変えて、これまで困難であった超伝導相などのワイドレンジの電子相制御を実現する。
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研究実績の概要 |
本グループでは、導電性高分子材料をイオン交換の手法によって、結晶性を保ったまま積極的に酸化(pドープ)することを実現した[Nature2019]。2023年度は、この手法を発展させ、生体で活用される「プロトン共役電子移動」の手法を用いたフェルミ準位を精密に制御しながら導電性高分子材料に多数のキャリアをドーピングする手法を開発した[Nature 622, 285 (2023)]。 縦型トンネルダイオード研究においても、プロトン共役電子移動の手法を利用して、金属表面に単分子層の表面修飾を行い、電気二重層形成によって、0.7 eVもの巨大な仕事関数の変化が得られることを見出した。その結果、有機半導体へのキャリア注入エネルギーのレベルを制御して、ショットキーダイオードを形成し、数mm2の大面積にわたってリークカレントの少ない極めて均一なショットキー障壁を得ることに成功した。これまでフィルムデバイスでは困難であったGHzの高周波応答と数10 A/cm2の大電流増幅を両立する実用的低コスト整流器の開発に道を拓いた。 Cn-DNBDT有機半導体単結晶を用いた縦型素子についても、単結晶層の数に応じて系統的に変化するトンネル電流特性の測定に成功し、小林グループの理論的なシミュレーションによってモデル構築に成功した。即ち、単一分子のトンネル電流と比べて、コヒーレント電子系によるバンド分散の効果が顕著に現れ、金属電極から有機半導体二次元伝導層へのキャリア注入特性が、加える電圧によらず低抵抗かつオーミックになることを明らかにした。 極低温電子相制御において、歪を加えた極薄二次元有機半導体結晶Cn-DNBDTにおいても、電気二重層を用いた高密度キャリア注入を実現し、低温で110 cm2/Vsの移動度を得た。この値は、有機半導体のキャリア移動度がはじめて100 cm2/Vsを超えるベンチマークとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新たに「プロトン共役電子移動」の効果を用いて、あたかも生体反応のように、高分子有機半導体中の精密なキャリア量(電子エネルギー)制御を実現したことは、電気化学研究分野全体に大きなインパクトを与え、本研究においても想定以上の成果となった[Nature 622, 285 (2023)]。「プロトン共役電子移動」による高分子有機半導体への高密度キャリアドーピングを行う精密制御法の独創的アプローチが研究分野全体において、世界的に物質開拓研究の新トレンドとなっている。あたかも、生体においてプロトン濃度が生体電子系の電位を精密制御して、適切に代謝機能を実現しているように、半導体のフェルミレベルをチューニングすることができ、高分子導電体の物質の精密設計とともに熱起電力などの物性にも直接的相関がある重要性がある。本研究では、さらにこの手法を金属表面にも適用して、「表面錬金術」ともいうべき、仕事関数の大規模な変調効果を実現し、高速のハイパワー整流素子を実現しているなど、実デバイス応用にも直結する学術的価値を有する。 また、極薄有機半導体単結晶の量子井戸層に、二次元電子ガスを構築し、極めてクリーンな電子系を構築することに成功した。これまでより2倍程度の高いキャリア密度を達成した結果、有機半導体のキャリア移動度がはじめて100 cm2/Vsを超えるベンチマークとなった。このことは、ファンデルワールス力で構成される有機半導体において、室温ではフォノン散乱のために10 cm2/Vs程度の低い移動度にとどまっているのに対して、低温で本質的に得られる移動度がどの程度になるかという問いに答えた意義を有する。低温で電子自身がない(したがって相互作用もない)バンド絶縁体から弱い電子電子相互作用の効果を経て、強い電子相関が働く異常金属相への「進化」を連続的に示したことにより、期待通りの研究進捗が得ている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)極低温における磁気輸送特性評価:本複合材料では、高分子材料を多用した構造を用いるため、希釈冷凍機の低温部分への熱伝導による冷却効果には限界があり、300 mK以下への冷却が困難であることがわかった。そこで、金属配線を通じてサンプル冷却を行う方針に変更することとし、室温放射によるマイクロ波の影響など配線からの熱流入を極小にする方策を導入し冷却効果を高めることとする。 (2)量子干渉効果の実験:低温での磁気抵抗効果の測定結果から、想定以上にクリーンな電子系を実現しており、また、位相コヒーレンス長が長いため常伝導状態でも量子干渉の観測が十分期待できることがわかってきた。さらに、極薄有機単結晶薄膜のパターニング手法を確立し、高移動度の常伝導層の位相コヒーレンス検出などの量子干渉効果の実験を進める。一方、1.の理由により、十分な極低温電子相の探索が実施できなかったこともあり、これまでのところ、高密度にキャリアドープした有機半導体単結晶の電子系が超伝導相に転移する現象が確認されていない。今後、超伝導相の探索を進めると共に、パターニング手法を確立し、超伝導と常伝導の両方の量子エレクトロニクスデバイスの基盤を得ることを計画する。 (3)縦型デバイス研究:Cn-DNBDT分子を金属電極ではさんだ単純なサンドイッチ構造では当初期待した負性抵抗は現れず、理論的にもこの実験結果をサポートする結果が得られた。一方で、バンド分散の効果がトンネルデバイスに実際に大きく働いていることが明らかになり、さらに、金属表面とイオン性単分子膜でできた電気二重層の仕事関数が大きく変調されることも示されたので、負性抵抗デバイスに限らず広範な縦型デバイス開発を進め、これらのあらたに見出したポジティブな結果を発展させた縦型デバイスの機構解明とデバイス応用の研究を実施する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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