研究課題/領域番号 |
22H04964
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安藤 和也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30579610)
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研究分担者 |
三輪 真嗣 東京大学, 物性研究所, 准教授 (20609698)
浜屋 宏平 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (90401281)
片瀬 貴義 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (90648388)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
197,340千円 (直接経費: 151,800千円、間接経費: 45,540千円)
2024年度: 23,920千円 (直接経費: 18,400千円、間接経費: 5,520千円)
2023年度: 39,520千円 (直接経費: 30,400千円、間接経費: 9,120千円)
2022年度: 84,500千円 (直接経費: 65,000千円、間接経費: 19,500千円)
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キーワード | スピントロニクス |
研究開始時の研究の概要 |
物質中の電子は電荷・スピン・軌道の自由度を持ち、電流とスピン流は現代の産業・電子物理の基盤である。一方、軌道自由度に対応する「軌道流」は存在そのものが実験的には明らかではなかった。本研究は、軌道流まで包括する「角運動量流」の生成・変換・制御原理を体系化することで、従来の電子技術の延長線上にはない新たなテクノロジー体系「スピン軌道エレクトロニクス」の基盤を構築するものである。
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研究実績の概要 |
2022年度は、強磁性体における軌道流の長距離伝導を観測することに成功した。強磁性体では、spin dephasing機構によってスピン流は数原子層で消失する。一方、軌道流にはこの機構が作用せず、強磁性体において10 nm以上もの距離を伝導する証拠が今回得られた。スピン流と軌道流はいずれも電子の角運動量の流れであり、両者を区別する困難さから、軌道流の存在はこれまでの研究の中でスピン流に隠されてきた。今回の結果は、スピン流と軌道流の本質的違いを明らかにしたものであり、軌道流の存在を強く示す証拠であるだけでなく、今後の軌道流研究の基本的手法となることが期待される。上記成果は、軌道流が特に顕在化することが期待されたスピン軌道相互作用の弱い系において得られたものである。これに対し、スピン軌道相互作用が強い系ではスピン流と軌道流の競合が期待される。そこで、スピントロニクスで最も広く用いられてきた重金属の一つである5d遷移金属Wに注目し、強磁性金属/W構造における電流誘起トルクを系統的に調べた。強いスピン軌道相互作用のため、この系における角運動量ダイナミクスを支配しているのはスピンホール効果とスピン流であるとこれまで考えられてきた。しかし今回、強いスピン軌道相互作用に特徴づけられるこの系においても、軌道ホール効果と軌道流が重要となることが明らかになった。特に、薄膜領域ではスピンホール効果によるスピン流、厚膜領域では軌道ホール効果による軌道流が電流誘起トルクを支配していることを見い出した。本研究の開始以前、軌道流は、数原子層で消失すると予想されていた。今回観測されたスピントルクと軌道トルクのクロスオーバーは、軌道流がスピン流よりも一桁以上長距離伝導することを示すものであり、角運動量輸送における軌道自由度の重要性を明らかにしたものである。以上の成果をCommunications Physics 6, 32 (2023)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、軌道流の検出手法を確立し、軌道流が顕在化する系を特定することに成功しただけでなく、軌道流の長距離伝導の観測という期待以上の結果を得るに至った。これにより本研究計画の基盤が構築されたといえる。また、エピタキシャル試料においても軌道流測定が可能となる系を見出しており、軌道流の基礎物性を明らかにするための準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、スピン軌道相互作用が弱いTiにおいて軌道流が支配的となることを見出し、スピンホール効果と軌道ホール効果が逆符号であるWにおいてスピン流と軌道流の競合を明らかにした。この一連の研究の仕上げとして、スピン流と軌道流の相加効果が期待される重金属における軌道流の役割を明らかにする。さらに、エピタキシャル試料における軌道ホール効果・軌道ラシュバ効果による角運動量輸送に関する研究に取り組む。
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