研究課題/領域番号 |
22H04974
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分E
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
忍久保 洋 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50281100)
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研究分担者 |
西野 智昭 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80372415)
岸 亮平 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (90452408)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
191,230千円 (直接経費: 147,100千円、間接経費: 44,130千円)
2024年度: 31,590千円 (直接経費: 24,300千円、間接経費: 7,290千円)
2023年度: 73,970千円 (直接経費: 56,900千円、間接経費: 17,070千円)
2022年度: 22,490千円 (直接経費: 17,300千円、間接経費: 5,190千円)
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キーワード | 芳香族性 / 超分子 / 理論計算 / 単分子計測 / 分子間相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
反芳香族分子は一般的に不安定であり、嵩高い置換基による安定化によって単離されてきた。本研究では、π電子系の拡張・ヘテロ原子による分子軌道の安定化・ヘテロ芳香環導入を指針として安定反芳香族分子の設計原理を確立する。そして、周辺に立体障害のない反芳香族分子を創製し、その分子間相互作用が芳香族分子とどのように異なるのかを明らかにする。さらに、反芳香族超分子の化学を開拓し、その物性・機能性を解明する。また、反芳香族分子・超分子の有機電子材料への応用を展開する。本研究は、孤立分子としての性質に焦点が当てられている反芳香族化学の現状を革新し、反芳香族分子を高機能性材料へと応用する上での学術基盤を与える。
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研究実績の概要 |
立体保護によらない安定反芳香族分子の設計指針として、I. π電子系の拡張、II. ヘテロ原子による分子軌道の安定化、III. ヘテロ芳香環導入による安定化を設定し、実際にこの設計に基づいて反芳香族分子群を創製し、その安定性を評価し、分子設計の妥当性を検証することによって、設計指針として確立することを目指した。 種々検討したところ、共役系上に遷移金属をもつポルフィリン類縁体としてプラチナコロールパラジウム錯体の合成に成功し、この分子が各種スペクトル測定や密度汎関数法を用いた理論的解析の結果明確な反芳香族性を示すことを明らかにした。遷移金属が共役系に関与するメタラ芳香族化合物が近年注目されるが、プラチナコロールパラジウム錯体はメタラ反芳香族性を示すポルフィリン系分子の初めての例である。 一方、ノルコロールニッケル錯体の二量体が様々な形状の超分子集合体を形成することを見いだした。興味深いことに、集合体形成時にキラルセルフソーティングが起きていることが明らかになった。すなわち、螺旋状の超分子構造体はノルコロール二量体の一方のエナンチオマーのみから形成されていた。一方、ドーナツ型の超分子集合体ではR体およびS体のノルコロール二量体が順番に積層することによって形成されていることが分かった。このように、反芳香族分子からなる超分子形成は、ノルコロール間の引力相互作用によって誘起され、分子のキラリティーを鋭敏に影響されながら起こることが明らかになった。 理論計算では、古典・量子ハイブリッド法により、結晶中における分子配置の熱的ゆらぎが、軌道重なりの変化を通じて分子間相互作用や励起子キャリア輸送に与える影響を扱う計算スキームを構築した。反芳香族分子どうしが近接安定化する際にも重要な役割を果たす、分子間電荷移動などの励起配置に対する熱ゆらぎ効果の考慮に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
反芳香族分子であるノルコロールニッケル錯体を水中で形成されるミセル状芳香族ナノカプセル中に包摂させると、近接した距離で積層し、三次元芳香族性を発現することを各種分光測定から明らかにした。これまでノルコロールを積層させるには2るのノルコロールを連結する必要があった。簡単な分子で三次元芳香族性を実現できたことは分子設計上の大きなメリットとなる。さらに新たな安定な反芳香族分子としてプラチナコロールパラジウム錯体を初めて合成することに成功し、遷移金属のd電子がπ共役系に参加することによって明確な反芳香族性を発現することを見いだした。 理論計算では、相互作用エネルギーの分割解析、相互作用系の磁場応答環電流の可視化解析法など、反芳香族分子間に特有の相互作用の本質を解明する各種計算・解析法を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
新たに合成することに成功した安定な反芳香族分子でプラチナコロールパラジウム錯体およびジアザポルフィリンロジウム錯体について、周辺置換基の最小化を検討し、反芳香族分子間に作用する引力的相互作用よる集積化挙動を詳細に調査する。特にプラチナコロールパラジウム錯体については、金属-金属間相互作用を相乗させることにより積層構造形成の促進が期待できる。 AFMやSTMによる分子間力の直接測定(東工大・西野担当)においては、硫黄置換基を導入したノルコロール金属錯体について昨年度予備的な結果が得られた。今年度は比較対象となる芳香族分子の計測を行い、芳香族分子と反芳香族分子の分子間相互作用の違いを明らかにする。加えて、分子軌道計算による反芳香族分子間相互作用の本質の解明(阪大・岸担当)を進める。 特に、分子間電荷移動や分散力などの相互作用エネルギーに対する寄与などについて明らかにするとともに、近接安定化する可能性がある反芳香族分子の候補を理論計算から探索する。
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