研究課題/領域番号 |
22H04986
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分H
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木原 章雄 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (50333620)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
192,920千円 (直接経費: 148,400千円、間接経費: 44,520千円)
2024年度: 38,090千円 (直接経費: 29,300千円、間接経費: 8,790千円)
2023年度: 37,570千円 (直接経費: 28,900千円、間接経費: 8,670千円)
2022年度: 40,690千円 (直接経費: 31,300千円、間接経費: 9,390千円)
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キーワード | セラミド / 脂質 / バリア形成 / スフィンゴ脂質 / 質量分析 |
研究開始時の研究の概要 |
脂質は疎水性と絶縁性に優れ,体表面における透過性バリアと神経インパルスの絶縁体としての機能をもつ。前者の異常は感染症,アトピー性皮膚炎,魚鱗癬などの皮膚疾患,後者の異常は運動機能障害などの神経疾患を引き起こす。脂質の中でもセラミドおよびセラミド含有脂質はこれらのバリア機能に重要な役割を果たす。本研究ではバリア形成に関連したセラミドの分析技術の開発,生理的役割,代謝,病態の分子機構の解明を行う。
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研究実績の概要 |
SPTLC3がノックアウト(KO)したヒト不死化ケラチノサイトとマウスを作成した。SPTLC3 KOヒトケラチノサイトでは,C16,C17,C21-C24の鎖長の長鎖塩基をもつセラミドの量が減少した。また,マウスの表皮の長鎖塩基の鎖長が主にC16,C17,C18であることを明らかにした。 エポキシエノン型アシルセラミドのマイケル反応付加体がマウス表皮の少なくとも結合型セラミド全体の6割を占めることを明らかにした。アシルセラミドと結合型セラミドの産生に関わるElovl1,Elovl4,Cers3,Cyp4f39,Pnpla1,Sdr9c7はマウス頬粘膜,舌,食道,胃で発現していた。アシルセラミド産生に関与する3つの遺伝子(Elovl1,Cyp4f39,Fatp4)それぞれのKOマウスの皮膚バリア異常の程度とセラミド組成の違いを明らかにした。魚鱗癬症候群の1つであるIFAP症候群の患者角質層ではフィトセラミドNPの減少と2-水酸化脂肪酸含有セラミドASの増加などアトピー性皮膚炎患者でのセラミド組成変化と似た変化が観察された。 シェーグレン・ラルソン症候群モデル細胞中でヘキサデセナール産生に関わるSGPL1を欠損させたところ,アシルセラミド量が正常化した。このことからこの疾患の発症にヘキサデセナールが関わることが示唆された。 アルファ酸化に関わるHacl2のKOマウスの脳と胃では奇数鎖ヘキソシルセラミドとセラミドがそれぞれ減少した。このマウスの脳の形態は正常であった。アルファ酸化がほぼ完全に停止したHacl1 Hacl2二重KOマウスは行動実験の1つであるワイヤーハングにおいて表現型を示した。Fads3 KOマウスの脳の形態観察と行動実験では異常は見られなかった。セラミド中に多い極長鎖脂肪酸について,その産生に関わるトランス-2-エノイルCoA還元酵素の活性制御とTyr残基を介した反応機構を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度予定していた交付申請書に記載した内容はほぼ全て予定通り行った。これらの解析によって,研究計画書に記載の7項目のうち,既に完了した1項目を除く下記6項目に関して順調に進展した。1. 表皮における結合型セラミドの分子実体の解明,2. 臨床検体を用いた角質層セラミドのプロファイリング,3. アシルセラミドの口腔バリア機能,4. セラミド代謝不全とシェーグレン・ラルソン症候群,5. アルファ-水酸化セラミド代謝とミエリン機能,6. スフィンガジエン型セラミドと神経機能。 交付申請書に記載した内容以上に下記の「多様なセラミドを生み出す分子機構と病態の解明」と「アシルセラミド関連遺伝子変異による皮膚バリア異常の解明」に関する項目が進捗した。1. 極長鎖脂肪酸産生に関わるトランス-2-エノイルCoA還元酵素の活性制御と反応機構の解明,2. アシルセラミド産生の異なるステップに関与する3つの遺伝子(Elovl1,Cyp4f39,Fatp4)のKOマウスの皮膚バリア異常とセラミド組成の関係,3. 常染色体潜性先天性魚鱗癬を引き起こすPNPLA1の変異体(16種)の酵素活性の低下とABHD5との相互作用変化の解明。以上のことから「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
セラミドの長鎖塩基多様性を生み出す分子機構に関して,長鎖塩基鎖長をヒト化させたマウスを創出して解析する。具体的にはヒト表皮で発現しているがマウス表皮で発現していないSPTSSBをマウス表皮で発現させたトランスジェニックマウスを作成する。また,奇数鎖の長鎖塩基をもつセラミドの産生がアルファ酸化によって生み出されるのかをHacl1 Hacl2二重KOマウスの表皮セラミド組成を測定することで明らかにする。 結合型セラミドに関してこれまでに明らかにしたマウスでの構造がヒトにおいても同様であるのかを確認すると共に,結合型セラミドのターゲットタンパク質を同定する。 臨床検体を用いた角質層セラミドのプロファイリングに関しては順次共同研究先から提供される魚鱗癬患者サンプルを解析する。シェーグレン・ラルソン症候群の発症の分子機構として,セラミド分解物であるヘキサデセナールの蓄積がセラミド関連酵素を攻撃して活性を低下させているという我々のモデルをin vivoで検証していく。また,表皮においてどのくらいセラミド分解が活発に起こっているのかを,酸性セラミダーゼASAH1 KOケラチノサイトを作成し,セラミド量を調べることで明らかにする。 アルファ水酸化セラミド代謝とミエリン機能に関しては,アルファ酸化がほぼ完全に停止したHacl1 Hacl2 二重KOマウスを詳細に解析することによって解明する。さらに,ミエリンを構成する脂質の役割を総合的に理解するためにミエリンに特徴的に多いエタノールアミンプラズマロージェンの産生が不全となったモデルマウス(Far1 KOマウス)を作成して解析していく。スフィンガジエン型セラミドの生理機能に関しては,脳だけでなく,スフィンガジエン型セラミドが多い腎臓でのFads3 KOマウスの表現型も解析していく。
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