研究課題/領域番号 |
22H04987
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分H
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土居 雅夫 京都大学, 薬学研究科, 教授 (20432578)
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研究分担者 |
佐藤 亜希子 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (80800979)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
137,280千円 (直接経費: 105,600千円、間接経費: 31,680千円)
2024年度: 27,430千円 (直接経費: 21,100千円、間接経費: 6,330千円)
2023年度: 26,910千円 (直接経費: 20,700千円、間接経費: 6,210千円)
2022年度: 30,550千円 (直接経費: 23,500千円、間接経費: 7,050千円)
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キーワード | 体内時計 / 生活習慣病 / G蛋白質共役受容体 / ステロイドホルモン / 睡眠覚醒 |
研究開始時の研究の概要 |
体内時計のリズムを再活性化することによって病気は治るのか? その突破口の一つとして、私共は本年、加齢によって減衰した眼局所の酵素活性リズムを再活性化することによって、これまで原因不明の蒸発亢進性ドライアイを治療できることを見出した(Sasaki et al., Nat Aging 2022)。これを足掛かりに、本研究では、時間生物学に基づいた時間医薬イノベーションの創出を目指す。時間をコントロールして病気を治すを合言葉にこれまでの疾患概念や創薬の在り方に新たな視座をもたらすのみならず、具体的なunmet medical needsに対する新しい治療薬・治療法を提案するための基盤研究を展開する。
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研究実績の概要 |
研究計画に従って、時間生物学に立脚した時間医薬イノベーションの創出という目標に向け、生物時計という新たな視点からの疾患治療法提案のための基礎研究を展開した。生体リズム調整薬を開発するためには、生体リズムを生み出す脳内の最高位中枢器官である視交叉上核(Suprachiasmatic nucleus: SCN)を標的とした研究が不可欠である。これに関し、外部環境の明暗サイクルと内的体内時刻との時差補正(時差ぼけ解消)に働く脳内経路としてGタンパク質共役受容体アルギニンバソプレシン(AVP)-V1a受容体を介したSCN内部の受容体機構と、下垂体前葉AVP-V1b受容体を介したSCN外部受容体機構による2つのAVP経路の仲介があることを証明した(Yamaguchi et al., PNAS 120:e2308489120, 2023)。またさらに、末梢組織疾患の治療に向けた研究においては、D-アラニンが体内時計を介して腎臓糖代謝を制御する機構の発見(Sakai et al., Kidney360 5:237, 2024)および末梢時計の時計蛋白質リズムを漸次的温度変化により正常化する分子機構(Miyake et al., Cell Rep, 2023)に関わる上流のタンパク質キナーゼの同定に成功した(Shao et al., Biol Pharm Bull 47:600, 2024)。また当年度は、上述の研究成果をとりまとめた英文総説と日本語総説を発表することもできた(Uehara and Doi: SSBR Proceedings, 345, 2023; 三宅崇仁, 土居雅夫: 生化学 95:837, 2023)。このように、当初の計画どおりの探索研究とその成果に基づいた発展研究を実施することができており、目標達成に向けて今後の研究に必要な基礎的成果を得ることができたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従って体内時計という視点からの新たな疾患治療法の提案を目指した調査スクリーニングを行った結果、研究が順調に進み、予想を上まわる良好な研究成果をあげることができた。すなわち、体内時計の最高位中枢器官である脳内の視交叉上核を標的とした探索研究において、Gタンパク質共役受容体アルギニンバソプレシン(AVP)-V1a受容体を介したSCN内部の受容体機構と下垂体前葉AVP-V1b受容体を介した外部受容体機構という2つの独立したAVP回路が時差ぼけ解消に寄与していることを明らかにすることができた(Yamaguchi et al., PNAS 120:e2308489120, 2023)。これに加え、さらに重要な研究成果として、昨年度末発表のMiyake et al., Cell Rep誌において見出したmRNA上の最小単位uORFを介した漸次的温度による時計タンパク質の発現調節機構に関わる上流のタンパク質キナーゼを同定することができた(Shao et al., Biol Pharm Bull 47:600, 2024)。体内時計を介したD-アラニンの体内動態変化を明らかにし、D-アラニンによる腎臓の糖代謝制御の一端も明らかにすることができた(Sakai et al., Kidney360 5:237, 2024)。このように、当初の計画どおりの探索研究を実施することができており、時間生物学の原理に基づいた新たな疾病治療法の開発に向け、今後の研究展開の土台となる重要な所見を複数得ることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度と2023年度に引き続き、当初の研究計画に従って時間生物学に立脚した時間医薬イノベーションの創出という目標に向け、生物時計を基盤とした新たな疾患治療法の提案のための基礎研究を展開する。特に、前年度までの研究調査によって良好な結果が得られつつある下記の課題に重点をおいて研究を進める。具体的には、体内時計の最高位中枢器官を標的とした研究において、一昨年、オーファン受容体Gpr176が神経ペプチドNMU/NMSとの協調により体内時計の光位相同調にも寄与することを見出した(Yamaguchi et al., Biol Pharm Bull 2022)。本研究ではこれらの上に立ち、引き続き体内時計の中枢を標的とした時間治療薬の開発を目指す。さらに、本研究では、ヒトの早朝覚醒に/朝型に最も強く相関するG蛋白質制御因子RGS16の解析とGpr176下流の三量体G蛋白質Gzに注目した解析を行ってきており(IJMS 2020; Nat Commun 2011)、これを基盤にしたSCN内Gタンパク質シグナル制御研究を引き続き行う。末梢組織疾患の治療に向けた研究においては、2022/2023年度及びこれまでに代表者が得てきた基盤データ ①NMN点眼による加齢性ドライアイ症改善(Hamada et al., Ocul Surf 2022; Sasaki et al., Nat Aging 2022)、②漸次的温度変化を介した時計蛋白質発現リズム活性化による皮膚創傷治癒改善(Miyake et al., Cell Rep 2023; Shao et al., Biol Pharm Bull 2024)、および③基礎体温のサーカディアンリズムの検出法(Simatani et al., PLoS One 2021)を軸に、引き続き当初計画に従い研究を進めてゆく計画である。
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