研究課題/領域番号 |
22H04994
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分I
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
天谷 雅行 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (90212563)
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研究分担者 |
松井 毅 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (10452442)
福田 桂太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (60464848)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
193,440千円 (直接経費: 148,800千円、間接経費: 44,640千円)
2024年度: 36,920千円 (直接経費: 28,400千円、間接経費: 8,520千円)
2023年度: 37,960千円 (直接経費: 29,200千円、間接経費: 8,760千円)
2022年度: 46,150千円 (直接経費: 35,500千円、間接経費: 10,650千円)
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キーワード | pH制御 / 機能的細胞死 / コルネオトーシス / 角層恒常性維持機構 / 皮膚微生物叢 / 角層pH三層構造 / 角層pHライブイメージング / 環境適応層 / 黄色ブドウ球菌 / カリクレイン / 落屑 / ノンターゲットプロテオミクス / ノンターゲットリピドミクス / 無菌マウス |
研究開始時の研究の概要 |
我々の皮膚の表面を覆う角層は、角化細胞が細胞死を起こし、細胞体がある一定層堆積してできており、皮膚のバリアとして機能している。本研究では、この細胞死(コルネオトーシス)の過程を分子レベルで明らかにし、さらに、死んだ後にも分化し続け、一定の状態を維持し続けるしくみを、pHによる制御メカニズムに注目して、分子レベルで解明することを目指す。さらに、アトピー性皮膚炎に対し、角層pHにより皮膚微生物叢を制御した新しい治療法を考案する。
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研究実績の概要 |
角層pHのライブイメージング解析により、角層のpHは、角層下層で弱酸性(pH 6.0)、角層中層で酸性(pH 5.4)、角層上層で中性(pH 6.7)と段階的に変化し、体の部位によらず、あらゆる角層で角層pH三層構造が維持されていることを明らかにした。また、角層下層のpHはコルネオトーシスの酸性化に由来し、角化細胞は死んだ後も分化して、酸性を呈する角層中層、中性を呈する角層上層を形成することも明らかにした。 タイトジャンクション(TJ)の構成分子であるClaudin-1の表皮特異的KOマウスの角層pHを観察したところ、角層pH三層構造は消失し、角層全体が中性化していた。角層pH三層構造の形成はTJに依存することが示唆された。また、角層に異なるpHの溶液を塗布した後、角層pHを観察した結果、角層上層は、外部の環境に応じてpHを変化させる「環境適応層」であることがわかった。さらに、無菌マウスの角層pHを観察したところ、中性を呈する角層上層は消失していた。しかし、無菌マウスとSPFマウスと同居させると、1週間後には無菌マウスでも中性を呈する角層上層を認めた。角層上層は、皮膚細菌叢により中性を呈することが示唆された。 続いて、角層とS.aureusのライブイメージング解析を行った。酸性を呈する角層中層は、黄色ブドウ球菌の侵入を阻止するバリアとして機能することを示した。最後に、角層の剥離に関わるタンパク分解酵素であるカリクレイン(KLK)とKLKのインヒビターであるLEKTIの動態、そして角層pHイメージングマウスの角層内pH分布を加味した数理モデルを構築し、角層内のKLKの酵素活性を算出した。その結果、角層pH三層構造は、角層が一定の厚みを保つために皮膚表面でのみ落屑を起こすのに適した構造であることがわかった。角層は角層pH三層構造を形成し、角層恒常性を維持することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コルネオトーシスの起動はタイトジャンクション(TJ)が移り変わるタイミングで起こることが明らかにされ(未発表)、さらに、角層が段階的に3層のpH層を有し、それぞれのpH層の生物学的意義を解明することができた(Fukuda K et al. Nat Commun. In press)。 現在、角層pH恒常性維持機構に関わる分子を同定するため、2つのアプローチをとっている。1つは、角層pH三層構造の形成が障害されていることが予想される先天性魚鱗癬モデルマウスの作製とそのマウスの角層pH解析である。これらのマウスの作製は、最終段階に来ており、2024年度に完成する見込みが高い。もう1つのアプローチが網羅的脂質解析であるノンターゲットリピドミクス解析により、角層上・中・下層のそれぞれの層で特異的に高発現している脂質を同定し、その脂質の角層pH恒常性維持機構への関与を解析する方法である。具体的には、ノンターゲットリピドミクス解析で浮上した候補脂質の合成に関わる酵素を表皮モザイク遺伝子破壊法用いて、マウスの皮膚で欠損させ、角層pHの評価を行う。 我々は、ヒト皮膚をNSGマウスに植皮して、生着した皮膚にpHプローブやTJ、Ca2+のプローブを導入することで、ヒト皮膚において角層pH三層構造が形成されているか、コルネオトーシスがマウスで観察されていると同様に起きているかの検証ができる状態にある。このように、角層pH恒常性維持機構の解明に必要な研究の準備が着実に進んでおり、同様のアプローチでコルネオトーシスの分子メカニズムを明らかにして行く予定である。 角層pHと皮膚微生物叢の制御による治療法の開発に関しても、角層pHと皮膚微生物叢のdualライブイメージングが計画通り進んでいる。現在、S.aureus やS.epidermidisが角層pH三層構造とどのように相互作用するか解析している。
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今後の研究の推進方策 |
1. ヒト皮膚における角層pH三層構造の形成、コルネオトーシス現象の検証:NSGマウスに健常人皮膚を植皮し、角層pH三層構造形成の観察のためにpHプローブ、 コルネオトーシス現象の検証のために、細胞内Ca2+ プローブやタイトジャンクションのプローブが入ったプラスミドを植皮部に導入する。そして、共焦点顕微鏡で角層pH三層構造の形成、コルネオトーシス過程がマウスと同様に起きているか検証する。 2. 角層pH制御機構に関わる脂質の同定:角層上・中・下層で高発現している脂質を同定するため、野生型および先天性魚鱗癬角層pHイメージングマウスの角層上・中・下層をtape stripで分取し、ノンターゲットリピドミクス解析を行う。解析から浮上した角層pH制御への関与が疑われる脂質の合成酵素のgRNAプラスミドを作製し、Cas9・角層pHイメージングマウスの皮膚を植皮したNSGマウスの植皮部にgRNAプラスミドを皮内注する。そして、角層pH ライブイメージングを行い、角層pHの制御に関与する分子を同定する。 3. 皮膚微生物叢による角層pH恒常性維持機構の解明:角層pHの恒常性維持に関わると推定される脂質の代謝酵素を欠損させたS.aureus, S.epidermidis を作製する。そして、野生型や皮膚炎モデルマウスの耳に塗布し、角層pHライブイメージングから角層pHと皮膚微生物の相互作用を明らかにする。 4. コルネオトーシスの起動シグナルの同定:SG1 細胞のRNA-seq データから、コルネオトーシスの起動シグナルとなりうる分子を絞り込み、候補分子のgRNA プラスミドを作製する。そして、Cas9とCa2+プローブが導入されたマウスの皮膚を植皮したNSGマウスの植皮部にgRNAプラスミドを皮内注し、コルネオトーシスのライブイメージングを行い、コルネオトーシスの起動シグナルを同定する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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