研究課題/領域番号 |
22H04995
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分I
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊朗 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (70365245)
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研究期間 (年度) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
195,130千円 (直接経費: 150,100千円、間接経費: 45,030千円)
2024年度: 37,700千円 (直接経費: 29,000千円、間接経費: 8,700千円)
2023年度: 37,700千円 (直接経費: 29,000千円、間接経費: 8,700千円)
2022年度: 63,050千円 (直接経費: 48,500千円、間接経費: 14,550千円)
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キーワード | オルガノイド / がん / 大腸がん / がん幹細胞 / 異種移植 / 疾患モデル / 幹細胞 / ライブイメージング / エピゲノム |
研究開始時の研究の概要 |
我々の体組織は微小環境ニッチと相互作用を通し、生体の恒常性の維持や疾患形質発現がコントロールされている。これまでの研究では、組織細胞が環境によって一方的に制御されているという研究手法が一般的であったが、生体組織が自身に都合のよい環境を作り出す“ニッチ構築”という生態学分野の概念が存在するかどうかははっきりしていない。本研究では、ヒト疾患組織において、組織細胞と微小環境の相互作用を解析し、正常組織から疾患組織への進展に潜む、ニッチ構築の存在を解き明かす。本研究遂行のため、先端的解析基盤を開発し、ニッチ構築が疾患の発症や進展に寄与する分子レベルの解明に迫る。
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研究実績の概要 |
我々の体組織は微小環境ニッチと相互作用を通し遺伝子・エピゲノム変化を蓄積する.一部の組織はこうしたダイナミックな細胞変化によって機能低下や機能異常を示す疾患組織へと変容する.これまで環境が組織細胞を変化させる一方向性の研究が主体であった.しかし,生態学の分野では生物体が自身に都合のよい環境を作り出す“ニッチ構築”が進化を駆動するというコンセプトが提唱されている. 本研究では,我々の体内においても変容した組織細胞が周囲の微小環境を作り変え疾患の発症や進展の起点となっていると考え,疾患オルガノイドを用いてニッチ構築仮説を検証する.ヒト疾患組織において,組織細胞と微小環境の相互作用を解析し,正常組織から疾患組織への進展に潜む隠されたメカニズムを解き明かす. 本研究課題は以下の4つの課題を有機的に連携させることによって効率的な研究を推進することを目的とする.(I): 広く内胚葉由来臓器の疾患も対象とした疾患オルガノイドバイオバンクの確立および樹立培養技術の改良.(II): ヒト化マウスを用いた異種移植によるin vitroシステムと遺伝子工学的アプローチによるプロスペクティブ解析方法の確立.(III): オルガノイドの複合的解析方法の確立として (1)組織形態形成制御,(2)エネルギー代謝運動制御,(3)情報エントロピー制御,の3つの制御機構を定量的に解析する先進的なオルガノイド解析基盤の確立および関連情報の蓄積.(IV):(I-III)を統合したオルガノイドによる人工疾患再現モデルの確立. これらの技術により,生体内組織に近い微小環境を人工的に再現し,ニッチ構築が疾患の発症や進展に寄与する分子レベルの解明に迫る.さらに,ニッチ構築の理解により,疾患を作り出す組織環境の悪循環を補正するアプローチの開発に資する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,オルガノイドを用いた3つの研究を行った. まずオルガノイドの異種移植をヒト大腸がん再発のメカニズム解明のための前向き研究プラットフォームとして利用した (Ohta et al.Nature 2022).ヘミデスモソームを強化する細胞接着分子であるCOL17A1の人為的な欠損は化学療法への感作を促す.我々はCOL17A1欠損ヒトオルガノイドをマウスに移植し,ライブイメージングを行うことで休眠幹細胞の系統追跡を行った.さらに休眠状態の解除に必要なYAP活性化を抑制することで腫瘍の再成長が遅延することを示し,がんの再発を防ぐための治療戦略を示した. また,ヒト大腸幹細胞の動態を異種移植により明らかにした (Ishikawa et al.Gastroenterology 2022).マウスと比較してヒト大腸上皮幹細胞は5-FUに対する感受性が低く,暴露後も幹細胞を保存し修復する.このことを説明するために遺伝子改変オルガノイドを異種移植し,ヒト大腸上皮に存在するゆっくり分裂する休眠幹細胞が上皮の恒常性と障害時修復の両方に寄与することを系統追跡で複合的に証明した. 患者の組織,喀痰,血液から肺がんオルガノイド系統を樹立し,これを用いたがんサブタイプ成立メカニズムに関する研究を行った (Ebisudani et al.Cell Rep.2023).肺がんオルガノイドの解析により,ヒト肺腺癌においてWnt依存型および非依存型サブタイプが存在することがわかった.我々は遺伝子工学を用いて非依存性株で活性化されているEGFR/Ras経路を人為的に活性化させることにより,依存性株に非依存性を付与することに成功した.これはがん細胞の悪性化の経緯を示すもので,我々のニッチ構築仮説を支持する. これらの研究は人工疾患再現モデルの実践例であるといえる.上記の通り研究計画は順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度における複数の人工疾患再現モデルの実践に基づき,さらに様々な組織,疾患での人工疾患再現モデルの構築を目指すために引き続き臨床検体由来サンプルからのオルガノイド樹立を継続し,バイオバンクとしての機能の拡充を行う.大腸,胃,膵臓に続き,食道がん,胆管がんや他の消化器がんの発症メカニズムの解明を目指し,包括的なトランスオミクス解析,定量的解析をすすめる. 各疾患臓器のトランスオミクス解析データ,定量的解析データに基づき疾患の発病メカニズムについての仮説を設定し,その仮説に対しオルガノイドへのゲノム編集技術を用いたプロスペクティブな検証を進めていく.作成された遺伝子改変オルガノイドのin vitorおよびin vivoでの機能実験にトランスオミクス解析を併せ, 不足する疾患因子の同定と追加遺伝子改変を行う解析サイクルの繰り返しにより精緻な疾患組織の異常の再現を目指す. 異種移植実験によるin vivo形質との相関性を確認し,堅牢なデータ構築を推進する.既に報告したゲノム編集ノックインレポーターを駆使したin vivoライブイメージングによる疾患形質の可視化システムを更に他の臓器・疾患の解析にも採用し,その有用性を詳らかにしていく.本年度は新たに肝細胞オルガノイドの樹立を進めており(論文投稿中),慢性的な疾患も対象としてさらに広く生体内でのヒト疾患再現をエンドポイントとしたダイナミックな疾患研究のフレームワークを提示する.トランスオミクス情報と異種移植in vivo解析プラットフォームによる包括的解析戦略を多くの疾患に応用し,ニッチ構築の理解によるヒト消化器疾患の発症・進展のメカニズム解明を進める.
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