研究課題
特別研究員奨励費
医薬品の大多数は結晶であり、候補化合物の多くが結晶多形(構成分子は同じでありながら結晶中の配列が異なる状態)を有する。多形によって異なる物理化学特性を示すため、新薬開発において多形探索や結晶化制御が必須である。短パルスレーザーを用いた結晶化技術では、溶液中で発生したキャビテーションバブルが局所的な高濃度領域を形成し、結晶化が生じると考えられており、様々な化合物への適用が期待されている。本研究では、光学的な濃度場可視化手法を用いて高濃度領域形成過程を明らかにし、核形成後の成長過程をリアルタイムで観察することで、一連の結晶化(核形成・成長)過程を制御できるレーザーシステムの開発を目指す。
医薬品産業において、有機化合物やタンパク質の結晶化制御は、構造や機能の解明に必要なプロセスである。これに対してこれまで、短パルスレーザーを用いた結晶化技術によって結晶多形制御などに取り組んできた。この結晶化技術では、溶液中へのレーザー照射によって誘導されるキャビテーションバブルや衝撃波が局所的な濃度上昇を引き起こし、結晶化を誘起すると考えられており、さまざまな化合物への適用が期待されている。一方で、高効率な結晶化のためには、化合物ごと照射条件などの網羅的な探索が必要となっている。そこで本研究では、結晶化(核形成と成長)をリアルタイムで観察し、さまざまな化合物に対して結晶化を自在に制御できるレーザーシステムの構築を目的とした。1パルス照射で結晶化できるアントラセンをモデル材料として用いて、高濃度領域形成過程の高速度観測を実施した。屈折率勾配を光学的に可視化できるシャドウグラフ法を用いて観察と解析を試みた結果、キャビテーションバブルが形成された後、収縮と圧壊に伴って大きな濃度勾配が生じていることを明らかにし、核形成を促進していることが示された。さらに核形成直後の成長速度を測定し、キャビテーションバブルが形成された領域で結晶が成長する様子を見出した。また、一連の結晶化現象を制御するために核形成だけでなく成長過程の観察にも取り組み、成長過程における相転移現象の解明につながる成果も得られている。以上のように、本年度はレーザー誘起結晶化過程において誘導される濃度変化の観測に取り組み、時空間的な濃度勾配の観察に成功した。本成果は、さまざまな化合物の結晶化過程観察への応用できると考えられ、さまざまなレーザー照射条件下で誘導される濃度環境を見出して核形成誘起を実現し、成長のその場観察を実施することで、結晶化の促進及び結晶化制御の高効率化につながることを示した。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Applied Physics A
巻: 128 号: 9 ページ: 803-803
10.1007/s00339-022-05909-y