研究実績の概要 |
本研究では、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus, HBV)受容体として機能する胆汁酸トランスポーターSodium taurocholate co-transporting polypeptide (NTCP) を対象とした構造生物学的な解析により、NTCPを介したHBV感染の分子基盤を明らかにすることを目的とした。 採用期間中の研究により、NTCPおよびHBVのエンベロープ上に発現する膜タンパク質large HBV surface antigen (LHBs) のN末端ペプチドpreS1の試料調製法が確立された。さらに、NTCPとpreS1の複合体を高純度で調製することにも成功した。 得られたタンパク質試料を用い、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を実施した結果、NTCP単体の立体構造を解明することに成功した(Asami et al., Nature, 2022)。ここで、分子量の比較的小さいNTCPの構造解析を容易に進めるため、京都大学大学院医学系研究科の岩田想教授との共同研究により作製された、NTCPに対して特異的な抗体を用いた。得られたNTCPの構造は細胞外側に開いており、core domainとpanel domainの間に疎水性トンネルが形成されていた。トンネル内腔には、脂質と思われる弱い密度が観測された。 次に、NTCP-preS1複合体の立体構造が、クライオ電子顕微鏡解析により解明された(Asami et al., 論文投稿中)。複合体中で、preS1は複雑に折りたたまれてNTCPの基質輸送トンネルに侵入し、疎水性相互作用と水素結合により強固に結合していた。また、NTCPおよびpreS1の変異体解析を実施した結果、両者の結合に重要な領域を同定した。 得られた立体構造情報は、NTCPとpreS1の結合を阻害する新規HBV治療薬の設計に寄与すると考えられる。
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