研究課題/領域番号 |
22K00014
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
三宅 岳史 香川大学, 教育学部, 教授 (10599244)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 心的エネルギー / 質的微積分 / ベルクソン / エネルギー論 / 精神物理学 / フェヒナー / ピエール・ジャネ / 心的緊張 / 既視感 / 記憶 / 知覚 / 直観 / 錯覚 / 動的図式 / 優美 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ベルクソン哲学の諸概念がどのようにして当時の自然科学と芸術との対話から生成してきたのかを明らかにする。本研究では、『精神のエネルギー』(1919年)と『思考と動き』(1934年)の二著作を対象にして、いかにして哲学的問題が自然科学および社会科学的文脈と交錯し、そこから哲学的概念が生成するかについて、ベルクソンが参考にした文献を緻密に読み解きつつ、テクスト及び二次文献の実証的な分析と考察を行う。具体的には1.「錯覚(デジャヴュ)」、2.「動的図式」、3.「直観」と「質的微分」、4.「優美」といった哲学的概念の科学的・芸術的文脈を分析し、その生成過程を研究する。
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研究実績の概要 |
本年度は研究二年目であり、研究一年目の成果を発展させる形で研究を行った。前年の研究テーマは、ベルクソン『精神のエネルギー』所収の「現在の回想」論文で集中的に議論される「既視感(デジャヴュ)」であったが、参照される論文を解読していくとそこで「心的エネルギー」という概念が背後で大きな役割を果たしていることに気づき、むしろこの概念が多様な領域で展開される一つの事例として「既視感」というテーマを論じることが適切であるという結果になった。 このため本年度では、19世紀後半に広まりを見せていた「心的エネルギー」という概念の展開を明らかにするために研究を実施した。「心的エネルギー」という概念がフェヒナー以来、三つのタイプに整理されるというエランヴェルジェの議論を確認しつつ、第一のタイプである物理学者や生物学者などのエネルギー論者の文献(ヘッケル、オストヴァルト)の調査を行った。また第二のタイプとしてフロイトの草創期の論文である『科学的心理学草稿』(1895)の分析し、第三のタイプとして、とくにベルクソンと関連の深いピエール・ジャネの諸文献を分析した。『心的自動症』(1889)、『強迫観念と精神衰弱』(1903)で登場する、精神的力や心的緊張の概念が心的エネルギー概念の内実をなすことが判明した。 これらの研究成果については、第27回科学史西日本研究大会で「19世紀末の精神物理学をめぐる論争と心的エネルギー概念の展開」というタイトルで研究発表を実施した。またこれらの背景をなす論文「ベルクソンと「記憶の科学」の台頭」の英語論文"Bergson and the Rise of 'the Sciences of Memory'"をYasushi Hirai, ed. Bergson's Scientific Metaphysics, 2023, Bloomsbury Academicから出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究二年目のテーマとしては「動的図式」であったが、心的エネルギー概念との関連の深さから研究三年目に行う予定であった「質的微積分」という概念の研究を先行して実施した。それというのも、心的エネルギー概念の内実を人間心理という枠組みを超えて、世界の構造へと拡張する枠組みこそが質的微積分という概念であるからだ。 この概念の背景を分析するために当初予定とは異なって、Jean Milet, Bergson et le calcul infinitesimal, 1974, PUFを再読した。さらにそこで言及されていたA. Cournot, Essai sur les fondements de nos connaissances et sur les caracteresを分析し、その第13章「連続性」では質的と量的の区別が行われ、そこで行われる「質的連続性」の分析はベルクソンの質的微積分との親近性があるのではないかという見通しを得た。 ただしこの作業を行ったため、当初予定していたル・ロア、ヴァンサン、ヴィルボアの『道徳・形而上学雑誌』の論文の分析を行えていない。そのため「やや遅れている」と判断した。上述の成果と予定されていた研究を実施し、両者を総合する形で研究を進めていくことが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
心的エネルギー概念の歴史的な展開については、これまでの研究でだいぶ見通しをつけることができ、とくに心理学や病理学の分野でこの概念を用いたピエール・ジャネの文献でどのようにこの概念が用いられているかということについても、理解することができた。 おそらく今後の課題としては、この心的エネルギー概念が「既視感(デジャヴュ)」や「動的図式」などに現れる知的努力といかに結びついているのかを個々の事例に即しつつ、丹念に分析していくことである。また、心的エネルギー概念と質的微積分概念の結びつきについても、両者が構造的に共通性をもつという見立ては得られているのだが、これを証拠づける文献的な作業については、今後、詰めていく必要がある。
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