研究課題/領域番号 |
22K00024
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
|
研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
村瀬 智之 東京工業高等専門学校, 一般教育科, 准教授 (00706468)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 知識 / 対話型哲学教育 / 子どもの哲学 / 質問 / 資質・能力 / 対話 / 思考 / 哲学に関わる対話的手法 |
研究開始時の研究の概要 |
この研究では、具体的な授業プログラムの分析と開発を通して、哲学上の大きな問題である、知識と対話、思考との関係性の一端を明確にすることを目的としています。 ここでの授業プログラムとは、子どもの哲学や対話型哲学教育と呼ばれる新しい哲学の授業のあり方です。高等学校公民科「倫理」においては「哲学に関わる対話的手法」を取り入れた授業が求められています。そのため、この研究は実践的な授業の研究であると同時に、それらを参照しながら哲学的な理論的研究を行うという、理論研究と実践研究の両側面をもった研究です。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、昨年度に行った文献調査や研究発表等の成果を基に論文等を執筆し、研究の成果の一部を外部に向けて発表することができた。 具体的には、昨年度から引き続き継続している子どもの哲学を進行する教師たちの知識や思考法についての論文を執筆・発表した。これは本研究の主題の一つである知識や思考を、子どもの哲学という対話型の哲学教育を推進する教師に焦点を当てることによって解明しようとするものである。ここまでの研究によれば、子どもの哲学を進行する教師たちに特有の思考形式には(もちろん、いくつかあるものの、特に)質問や問題化という側面があることが明らかとなった。論文の中では、その中でも特に質問や問題化に対する技能的知識の重要性とその特質を明らかにした。これは、物事を深く探求するという意味での思考や知識のあり方として、従来考えられていた命題的知識の蓄積とその推論としての思考とは違った形での思考と知識のあり方に光を当てるものである。 上記の理論的な研究と並行して、教育実践に関する研究も発表することができた。これは実際の子どもの哲学の授業の様子を、市民性教育の観点、その中でも特に、上記でその重要性が指摘された問題化と質問の観点から分析したものである。そこで明らかとされたことは、子どもの哲学の授業において問題化と質問が数多く提起されていることと、議論の流れの他に質問の流れと呼ぶべき流れが存在していることであった。また、それらの流れを進行役である教師が察知し、より深い思考に導くべく活動している様子が観察された。この種の研究はまだ発展途上ではあるものの、上記の理論的研究で明らかになったことをより具体化していくという意義をもった研究である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は研究計画初年度に行った理論的研究のための基礎資料の収集と分析の成果を基に論文等の執筆、発表を行うことができた。特に、教師の能力に着目することによって、知識や思考に関する既存の議論を整理・分析できただけでなく、研究の広がりを確保できたことは、大きな研究の進捗である。しかも、今後の研究を進めていく上での足場を確保することでもある。(具体的な研究成果については「研究実績の概要」を参照のこと。) また、今後の研究の広がりについては、他の科学研究費補助金の研究プロジェクトとの相互作用によって、教師の徳性に着目した研究に着手することができた点が、研究を大きく前に進めることに寄与した。 また、実践的研究についても、当初の予定よりも早く論文として刊行することができただけでなく、2022年度に調査したアメリカ・ハワイ州での実践を再度深く調査することもできたことも本研究プロジェクトの進捗にとって有利に働いている。特に、学校や授業外での活動における共同体の創出と、そのあり方について調査を進めることができたことによって、ハワイ州での子どもの哲学における「共同体」の意味についてより深く理解することが期待できる。このような理論的研究にも資する知見という点では、ハワイ州の中心人物の一人であるトーマス・ジャクソン教授が提唱する「驚きwonder」に関する議論は、その卓越した授業実践においてだけでなく、本研究プロジェクトの理論的な研究にも大きな示唆を与えるものであると考えている。 以上のように、研究成果を一定程度発表することができたというだけでなく、今後の研究の萌芽になるような知見を、理論的研究、実践的研究の双方で得られたことによって、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、これまでの研究成果を発展させる形で研究を推進していきたい。理論的な研究としては、特に教師の能力に着目した研究を引き続き継続するとともに、昨年度から課題として挙げられている、スキルや技能知に関する議論に加えて、徳や傾向性といった、それらの上位概念ないし下位概念についても調査対象を広げる研究をさらに進めていきたい。2023年度に明らかになったことの一つには質問や問題化の概念の重要性があった。これらの概念についても、研究の進捗で言及した「驚き」の概念等との関係を中心に精査することで、本研究プロジェクトの中心課題である知識や思考、対話の概念の明確化を目指していきたい。 これらの理論的研究は実践的研究の基礎となるものでもある。そのため、理論的研究を行いながら、新たな授業プランの開発も進めていきたい。具体的には、先進的な取り組みを行っている内外の授業実践の調査(すでに行ったものも含めて)を基にしながら、上記の理論的研究の成果を盛り込んだ授業案の作成と施行を行う。 研究の進捗の最適化を考え、他の科学研究費補助金の研究プロジェクトとの連携、研究成果の共有も積極的に進めていく。理論的研究においては、倫理についての研究プロジェクトの成果の一部が利用可能であり、実践的研究においては、工学教育に関する研究成果の一部が利用可能であると考えている。特に実践研究において汎用性を確保するためにも、多くの関係者と連携しながら、より実践的で意義のある授業プランの作成を目指したい。
|