研究課題/領域番号 |
22K00048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
石川 泰成 九州産業大学, 地域共創学部, 教授 (10289358)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2026年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 日本朱子学 / 朝鮮儒学 / 朝鮮通信使 / 近世日本思想史 / 筆談・唱和記録 |
研究開始時の研究の概要 |
江戸時代の朝鮮通信使と日本文人の筆談・唱和の記録を通じて、朝鮮と日本の朱子学の共通性と違いを解明する。この研究では、日本の朱子学者の朝鮮儒学への興味と理解はどこにあったか広く収集、分類、考察するとともに、朝鮮の朱子学をめぐる日本文人の質疑を貝原益軒門下の竹田春庵、山崎闇斎学派の留守友信、林大学頭一門の草場珮川を中心に考察する。 この研究結果は、江戸時代中後期の日本朱子学の展開の様相を明らかにし、18世紀から19世紀にかけての東アジアにおける朱子学の展開が示す思想史的意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
1711(正徳元)年に来日した朝鮮通信使と筑前国藍島(相島)で応接した福岡藩儒竹田春庵について、竹田文庫(九州大学図書館、福岡県立図書館)に所蔵する関連文献を通じて、来日以前から筆談、唱和に備えて書簡、詩稿を準備していたこと、復路に備えて質問事項を考えていたことが明かとなった。その際、師匠の貝原益軒に添削を受けたり、貝原益軒が竹田春庵に質問を委託していたことも明らかとなった。 これら準備された書簡から、竹田春庵は、明代の中国の朱子学派の学者の評価や陽明学の評価について質問しており、それに対して朝鮮通信使側は、藍島で返信を送り、明代の朱子学者に対してそれほど高い評価を与えていないこと、陽明学については異端扱いしていることが分かった。 このほか、同じ朱子学の立場に立ちつつ、竹田春庵は、医薬学、数学、天文暦法への関心、博物学への関心を示し、そこには民生のための日用の学重視という傾向が見られた。それに対し、朝鮮通信使李東郭の返答書簡も竹田文庫に所蔵されており、この返答の書簡では、竹田春庵の考えを否定し、朱子学の心の修養を重視する立場をとることが表明されている。 日本の朱子学派(益軒学派)が、朝鮮通信使と朱子学論議を行い、両者の朱子学の学問の進めの方向性の差違を明らかにしたことは、従来の朝鮮通信使研究の思想史関連の分野において新しい成果を加えることができたと思われる。 加えて、今次の研究から竹田文庫所蔵の通信使関連資料の史料的価値が、思想史研究に分野においても高いものがあることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
竹田文庫(九州大学図書館、福岡県立図書館)に所蔵する文献を通じて、1711(正徳元)年に来日した朝鮮通信使を迎えるため、貝原益軒、竹田春庵の師弟が、通信使来日の数か月前から筆談、唱和に備えて書簡、詩稿を準備していたこと、復路に備えての質問事項を準備していたことが明かとなった。その際、師匠の貝原益軒に添削を受けたり、貝原益軒が竹田春庵に質問を委託していたことも明らかとなった。 これら準備された書簡では、竹田春庵は、明代の中国の朱子学派の学者の評価や陽明学の評価について質問しており、それに対して朝鮮通信使側は、藍島で返信を送り、明代の朱子学者に対してそれほど高い評価を与えていないこと、陽明学については異端扱いしていることが分かった。 これら文献の分析を通じて同じ朱子学の立場に立ちつつ、竹田春庵は、医薬学、数学、天文暦法への関心、博物学への関心を示し、そこには民生のための日用の学重視という傾向があり、それに対し、朝鮮通信使李東郭は、返答の書簡で朱子学の心の修養を重視する立場をとることを主張している。 今回、日本の朱子学派(貝原益軒の学派)が、朝鮮通信使と朱子学論議を行い、両者の朱子学の学問の進めの方向性の差違を明らかにしたことは、従来の朝鮮通信使研究の思想史関連の分野において新しい成果を加えることができたと考える。 上述の通り、今次の研究により竹田文庫所蔵の朝鮮通信使関連資料の史料的価値が、思想史研究の分野においても高いことが明らかになった。本年度は、竹田文庫所蔵の1711(正徳元)年の詳細な調査と共に、1719(享保4)年の朝鮮通信使関連資料も所蔵していることから、継続して竹田文庫の竹田春庵のほか門弟の櫛田琴山、小野士厚たちの朝鮮通信使関連資料の細かな文献調査をする必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、竹田文庫所蔵の朝鮮通信使資料を通じて、竹田春庵、小野士厚、櫛田琴山らと朝鮮通信使との学術交流をさらに調査してゆく予定である。 さらにこれに加えて、同じ日本朱子学派でありながら、学派を異にする山崎闇斎学派の留守友信と朝鮮通信使の儒学をめぐる議論を春庵たちのものと対比する作業を行いたい。そのために、1748(延享5)年、留守友信の朝鮮通信使製述官朴矩軒との筆談唱和集『和韓文会』のなかで繰り広げられている朱子学に関する論議を整理、分析してゆきたい。この際、留守友信の他の著作にも調査の範囲を広げて行き、彼の思想を定位してゆくこととする。また初歩的分析によれば、日本朱子学と朝鮮朱子学共通の重要概念である「四端七情」、「理気」、「体用」、「聖人」をめぐる議論が行われているので、これらの諸概念について、留守友信のほか、学祖の山崎闇斎および闇斎学派の儒者たちの解釈をあわせて考察してゆく。一方の朝鮮通信使朴矩軒の解釈も李退渓の思想そのものと比較検討してゆく作業を経る予定である。 これらの手続きと分析を経ることで、日本朱子学者留守友信と朝鮮朱子学の朴矩軒の二者の思想的異同を厳密に解明できると期待できる。こうして先に明らかした竹田春庵ら益軒学派と留守友信の闇斎学派の日本朱子学の異同、さらには朝鮮朱子学との思想比較に考察を推し進めてゆく予定である。
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