研究課題/領域番号 |
22K00049
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
小柳 正弘 沖縄国際大学, 総合文化学部, 教授 (20186828)
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研究分担者 |
岡本 裕一朗 玉川大学, 文学研究科, 客員教授 (30169156)
田中 朋弘 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (90295288)
西迫 大祐 沖縄国際大学, 法学部, 准教授 (10712317)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 公衆 / デューイ / 自己決定 |
研究開始時の研究の概要 |
インフォームド・コンセントのような「私」の自己決定や、民族自決、立憲民主制といった「私たち」の自己決定は、私たちの社会の規範原理の一つとされている。しかし、その理念と現実の乖離が指摘されて久しい。 また、自己決定の成否や是非は、「他者」との関りを巡って論じられてきた。しかし、こうした議論における他者像は余りに個別的もしくは抽象的であった。 そこで本研究では、他者を具体的かつ普遍的に表象する「公衆」という概念に着目し、「公衆」の系譜と現在を探索・整理した上で、「公衆」が自己決定の理念や現実にどのように関わっているか、また「公衆」との関係で自己決定をどのように把握・改編しうるかを分析・考察する。
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研究実績の概要 |
本年度は代表者・分担者それぞれが文献研究を継続するとともに、その整理・検討のために関係の研究協力者を招き研究会(沖縄公衆論研究会)を開催した。 群衆、大衆、民衆といった概念との比較でしばしば公衆は理性的、政治的…といった属性で同定される「実体」として論じられてきたが、研究会で小柳は、公衆を言わば関係として捉える(ものと解釈した)デューイの視座を公衆論の枠組として提起した。公衆の本質・起源・原理ではなく、私たちがどのようなtransactionで公衆となっているかを論じるのがデューイの手法である。デューイの見立てでは、その帰結が第三者に影響を与える「間接的なtransaction」を自身のものとして振舞っている時、私たちは公衆となる。「新聞」や「公職者」といったmedia=媒介者の役割が市民社会や間接民主主義で重視されるのもそのためだ。 岡本もまた、カント、ローティ、ヘーゲル等の議論を参照し公/私の概念が種々に転倒(時に融合)してきた事を踏まえ、公衆の実体視を批判し、何が公共的かそのつど問い直す事が公共性の特質と指摘した。また西迫によれば、ペストにより人々が一様の「人口」と捉えられる事となり、人口の恒常性の管理を旨とする公衆衛生学の誕生や公衆の健康の拡張に繋がった過程において人々は、罹病率や死亡率といった数値や「規律」によって自身をそうした公衆として認識する事となった。 そのほか同研究会では、ミルの自由論でも公的な能力が「自由」な「人々」の資質とされているなどリベラリズムの公衆観の紹介(濱真一郎)や、ポスト・アメリカニズムでの公共性と宗教性の関係の見直しの動き等を参考に「公衆」を多元論的に捉えるべきとの指摘(浅野有紀)があり、この指摘の妥当性は沖縄でのフィールドワークでも確認された。 以上の検討・議論の結果、種々の公衆観/公衆像の図式的な整理は本研究の主眼としないこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の当初の計画には種々の「公衆」を実体視して各々の属性を種差として明示するという想定があったが、これまでの研究により、そのような想定そのものに問題がある事が明らかになったため、公衆論の社会史上・思想史上の系譜についての簡便な見取図の作成という計画を見直さざるをえなくなった。 たとえば、(分担者・西迫の研究が明らかにしたように)社会史的に見た場合の公衆像の変遷は、種差が際立つものというより、むしろ連続的なものと考えられる。また、(分担者・岡本や田中が検討した)思想史上の公衆観の多様性を構成する差異も、(代表者・小柳が提起した)デューイの視座を援用して、何をmediaとして人々のつながりを見るかによるものであるとするならば、表層的なものと考えられる。 このような見通しを踏まえて、リップマンやル・ボンの議論などいくつかの思想や議論について、次年度、そうした読解の妥当性をさらに具体的に明示する必要が生じた。 また、公衆論の系譜の探索に関するこうした方向転換に合わせて「公衆」の現在についても、どのような仕方で公衆が認識されているかに焦点をおいて探索・整理を行う事としたい。その際、公衆の多元性を検討すべきという指摘を考慮すると、当初の計画では弁護士など公衆概念に専門的な見識を有すると考えられる者へのインタビューのみを手がかりとする事にしていた点も変更して、専門職以外の者の認識も探索する必要があるだろう。 以上のような研究上の必要性から、「公衆」の系譜や現在に係る検討に関する研究遂行に想定以上に時間を要している事に加えて、研究代表者・小柳が本務校の事情により2023年11月1日から理事長・学長特別補佐(教学運営)に就任し、その他の業務が多忙となった事から、本研究の進捗は遅れており、次年度ただちに「公衆」概念と「自己決定」概念との関係について本格的な検討に着手するのは困難な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
研究遂行に想定以上に時間を要していることに加え、研究代表者・小柳のその他の業務が本年度途中より多忙となったことから、次年度、補助事業期間の延長を申請する。そのうえで、次年度は、どのような仕方で公衆が認識されているかに焦点をおいてインタビュー調査等、「公衆」の現在に係る検討を行うとともに、「公衆」の系譜に関する考察をとりまとめ、 次次年度に、「公衆」概念との連結による「自己決定」概念の再検討をこころみる。
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