研究課題/領域番号 |
22K00050
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山畑 倫志 北海道大学, 高等教育推進機構, 講師 (00528234)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ジャイナ教聖者伝 / 聖地文学 / 古グジャラート語文学 / ラーソー文学 / アパブランシャ語文学 / チャリタ文学 / バルーチ / ムニ・スヴラタ / ギルナール山 / アーブー山 / ジャイナ教 / 聖者伝文学 / バクティ / ガッチャ / 古グジャラート語 |
研究開始時の研究の概要 |
ジャイナ教聖者伝文学の伝統は古代から現代まで連綿と続いており、インド文学の歴史においても、古典文学と近代インド諸語文学の関係を明らかにする鍵となっている。特に12世紀から17世紀にかけては、聖者伝の対象が伝説的な63偉人から個別の偉人、実在の出家者、そして超宗派的な活動を行うアーナンドガンといった人物へと変わっていく。本研究ではその背景としてクリシュナ信仰を中心とするバクティ運動の影響を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は12世紀から17世紀にかけてのジャイナ教における聖者観の変化過程の解明である。 ジャイナ教文学はマハーラーシュトラ語を中心にサンスクリット語、アパブランシャ語と使用言語を増やしながら、修辞や韻律などを洗練させ発展してきた。内容についても初期の救済者の伝記に、多くの人物の伝記が加えられていき、長大な聖者伝文学が作成されるようになっていく。一方、ジャイナ教文学は12世紀頃から、言語としては古グジャラート語、詩の形式としてはラーソー、そして主題としては聖地を取り上げる文学作品が現れる。この12世紀以降の新しい文学は、同地域の12世紀以前のジャイナ教文学の伝統との連続性が強いとは見なしがたい。 そこで、2023年度の研究では、24救済者の1人である第20救済者ムニ・スヴラタの伝記と聖地の研究を進めた。このムニ・スヴラタの聖地は他の聖地と比べて異質である。グジャラート州南部のブリグカッチャ(現バルーチ)にあったとされるムニスヴラタアシュヴァ・アヴァボーダおよびシャクニカー・ヴィハーラという聖地はムニ・スヴラタとの関係が強いが、古い聖者伝には見られず、後代においても必ず言及されるわけではない。そのため、本年度は、複数の聖者伝文学におけるスヴラタと聖地の記述を確認し、聖地の形成や言及作品の偏りの理由を推測した。 調査の結果、聖者伝文学において、マハーラーシュトラ語を主に用い、新たなジャイナ教の拠点を作ろうとする系統と、サンスクリット語とアパブランシャ語を主に用いる伝統的な系統の2系統があると推測できることがわかった。そして、前者の系統が12世紀以降の古グジャラート文学につながることも示唆した。 さらに本年度は現地において古グジャラート語文学写本の写本を調査した。バルーチに近いスーラトとヴァドーダラーを中心に、アーメダーバードとジョードプルにおいて写本情報の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、第20救済者であるムニ・スヴラタについての研究を進めた。ムニ・スヴラタは聖者と聖地の文学が大きく発展しはじめる12世紀頃より取り上げられることが増える代表的な聖者である。特にムニ・スヴラタはグジャラート州南部に位置するブリグカッチャ(現バルーチ)に存在する聖地と密接な関連を持っている。そのため、ムニ・スヴラタの伝記文学はグジャラート州北部およびラージャスターン州地域で発展してきたプラークリット諸語・サンスクリット語・アパブランシャ語による聖者伝文学の伝統とはやや異なる背景から生み出されたと考えることができる。ここからジャイナ教の聖者観の変化が、文学を生み出す拠点がグジャラート地域の各地に広がることにより生じたと推測することが可能になった。 また、本年度はアーメダーバードとジョードプルに加え、新たにグジャラート南部地域の写本調査も行った。 これらの研究成果から、2023年度の研究進捗状況は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度および2023年度の研究成果を踏まえて、今後の研究の推進方策を以下に示す。 まず、これまでラージャスターン州およびグジャラート州の文書館や寺院から得られたラーソー文学の写本の整理に努める。さらに調査対象もグジャラート州とラージャスターン州の各地域に広げていく。 またその調査などで得られた古グジャラート語文学作品について、それ以前の古典的なジャイナ教聖者伝文学で形成された修辞・語彙・韻律を引き継いだものと、新たな要素を導入したものとに分類し、古グジャラート語文学が、古典的なジャイナ教文学の伝統の影響をどの程度受けているのかを明らかにする。 さらに12-17世紀において、救済者を中心とするジャイナ教の聖者がバクティに似た信仰形態の対象になっていった経過を詳細に追う。12世紀以降のジャイナ教聖者伝はラーソーやバーラマーサーなどの歌謡に適した形式を持ち、また近代インド諸語による最初期の文学でもあるが、重要な特徴として聖地や様々な人物を主題とするようになったことがあげられる。その背景には当時インド各地に広がり始めていたバクティ運動があったことが推測される。バクティ運動はジャイナ教とは由来を異にする活動であるため、両者の影響関係が現れた時期について、12世紀以降の聖者伝文学を調査することで明らかにする。 また、バクティ運動の影響が増大していく時期は、従来のジャイナ教徒の共同体がガッチャと名づけられる共同体として再構築される時期でもある。バクティ運動とジャイナ教団のありかたの変化との関係を見出すため、伝説的な人物を扱う聖者伝だけではなく、歴史的に実在したと思われるガッチャのリーダーたちの伝記集であるパッターヴァリーの調査も進めていく。
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