研究課題/領域番号 |
22K00054
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
土屋 太祐 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20503866)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 中国仏教 / 禅宗 / 法眼宗 / 宗門十規論 / 雲門宗 / 活句 / 唐代 / 雪峰教団 |
研究開始時の研究の概要 |
中国仏教の一派である禅宗の歴史は「初期禅」「唐代禅」「宋代禅」の三つの時代に分けられる。このうち「唐代禅」を、本研究では馬祖系・石頭系に代表される「前期」と、雪峰系教団を中心とする「後期」に分ける。このうち前期の思想についてはこれまで解明が進んだが、後期の思想的展開については不明な部分が多い。ただし、雪峰教団については、そのもとで集団の分化やそれにともなう思想的議論が起こっていたことをすでに指摘した。そこで本研究はこのような「唐代禅」後期の展開に着目しつつ、唐代禅宗思想史を再検討し、それがどのように「宋代禅」へ接続したのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
執筆中の『法眼』に関しては予定通り第一稿を完成した。またこれに関連し、東京大学東アジア藝文書院主催「東アジア仏典講読会」にて法眼文益『宗門十規論』の会読を行い、部分的な訳注原稿を作成・発表した。この過程で『宗門十規論』に対する従前の理解の不十分な点を明らかにした。 また、2022年6月18日―9月27日の期間、台湾の漢学研究中心による漢学奨助金の援助も受け、廖肇亨中央研究院研究員の指導の下、中央研究院にて訪問研究を行った。訪問期間中に二度の研究報告を行った。また、中国禅宗史に関する最近の研究成果として、廖研究員より黄庭碩氏の博士論文『禅運与世縁:唐宋世変下的禅宗及其開展』(台湾大学、2021年)を紹介され、黄氏と意見交換の機会を持った。 黄氏の研究は、8世紀から11世紀末にいたる禅僧の活動拠点の分布に関する詳細な統計を作成し、それにもとづいて禅宗の歴史的発展や禅宗諸派の消長を論じるもので、この期間における禅宗の全体状況を明らかにしている。とくに五代末から宋初における禅門の勢力交代については豊富な示唆を与える。本研究では、これまで行った宋初禅宗に関する思想史的研究の成果を黄氏の研究と結びつけ、法眼宗が宋代の文化になじまなくなっていったこと、また雲門宗の持っていた特殊な言語観が、士大夫に支持されるきっかけとなった可能性があることを示した。これにより、当初からの懸案であった五代末から宋初における禅門の情勢について、より明確な見通しを得ることができた。 この成果は京都フォーラム「世界哲学としての禅仏教」(2023年1月28日―29日開催)において口頭で報告を行った。報告内容は論文として出版する計画が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、執筆中の『法眼』に関しては第一稿を完成した。「研究実施計画」で予想した問題のうち、雪峰と玄沙の比較、玄沙―法眼系と華厳思想の関係については、一定の理解を得て原稿に反映した。また、華厳思想と無事禅の関係については、十分に考察を深めることができなかったが、この問題を法眼文益の評伝に組み込むことは難しいと判断し、今回の原稿では深く追求せず、今後の課題とすることにした。また、法眼宗の後世への影響については、「研究実績の概容」に示した通り、海外の最近の研究成果を取り入れることで、従来より明確な理解を得ることができたと考える。 またこの間には、想定していなかった問題もいくつか現れたが、一応の解決を得た。そのうちのひとつに『宗門十規論』の問題がある。上述の通り法眼文益の主要著作とされる『宗門十規論』の読解と訳注稿の作成を進めたが、この過程で、『宗門十規論』が予想以上に難解であること、また従来の解釈に不十分な点があることが分かった。現在は研究会での会読でこの著作に対する理解を深め、これを法眼文益の評伝に組み込む目途が立った。なお研究会における『宗門十規論』の会読は継続中である。 また、唐代禅前期の禅思想については研究期間の最終段階で研究を進める予定であったが、『法眼』の執筆においてこの問題の一部に触れざるを得ないことが分かった。まず、馬祖道一に始まる洪州宗の基本的な立場に「心の本体は認識不可能である」という考えがあることを想定した。また、洪州宗を批判しながら現れた石頭系について、石頭系諸禅師の共通点を般若思想の影響を受けた点にあると想定した。このような想定のもと、洪州宗から石頭系へという思想の展開について、一定の叙述を行い、また具体的な資料の読解を進めた。 これらの問題を解決し、『法眼』の初稿を完成できた。原稿には改善の余地があるが、研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたとおり、出版を予定している法眼文益の評伝『法眼』の第一稿を完成させることができた。今後はこの原稿をブラッシュアップし、研究期間中の出版を目指す。 また、この原稿作成のため『宗門十規論』を精読し、部分的な訳注稿を作成したが、紙幅の関係からそのすべてを法眼文益の評伝に組み込むことはできないとわかった。『宗門十規論』に関する全体的な理解を進め、訳注とあわせ別の形で発表することを目指したい。 また原稿作成の過程で、洪州宗と石頭系の関係について再考したが、ここで明らかになった洪州宗の思想的特徴は、禅宗における「問答」の登場と大きな関わりがあると予想される。しかし、この問題は法眼文益と関係が薄いため、『法眼』においては十分に論を展開できない。そこで、あらためて禅問答の登場と洪州宗の関係を、それ以前の禅思想と比較しながら考察することを目指したい。
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