研究課題/領域番号 |
22K00056
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01020:中国哲学、印度哲学および仏教学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船山 徹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70209154)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 義浄訳 / 義浄 / 漢訳 / 『観所縁論釈』 / 護法 / 『金剛般若経』 / 義浄訳『能断金剛般若波羅蜜多経』 / 漢訳仏典 / 仏典漢訳 / 語彙 / 語法 |
研究開始時の研究の概要 |
中国仏教漢訳史において最重要な位置を占める漢訳者として唐の義浄の名はつとに有名であるが,その知名度に反し,義浄訳の本格的研究は現時点では蓄積が意外なほど少ない。本研究はこのいびつな状況を打破し,今後研究を推進するために抜本的新研究を実施する。義浄訳研究が進んでいない最大の理由はその難解さにある。具体的には訳語・語法の不統一性,助字の色,意味不明な漢字音写,不要な漢字音写,漢字音写と漢訳の重複,玄奘訳と義浄訳の異同の六点である。義浄訳はなぜ読みにくいか,理解しにくいかをこの六点から知ることは,義浄訳の根本的性格を解明するためになるべく早く着手されねばならない課題である。
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研究実績の概要 |
中国唐代の義浄(635-713)は著名な仏典漢訳者であるが,その漢訳の特徴については研究蓄積が乏しい。本研究は,義浄による論書の翻訳を,「語彙と語法の不明瞭性と不統一性」を視点とする抜本的な文献研究である。本研究に先立ち,仏教の基本語である「衆生/有情」と「真如」に関する義浄訳の特徴については既に二つの単著論文(2017)(2019)を既に出版している。科研4年中初年度の2022年度は,先行研究の整理と本科研4年間の基礎作りとして次の4項目を実施した。 1.義浄訳の特色を様々な角度から具体的に示す対象文献として,義浄訳『能断金剛般若波羅蜜多経』を取り上げ,それを,後秦の鳩摩羅什訳・北魏の菩提留支訳・陳の眞諦訳・隋の〔達摩〕笈多訳・唐の玄奘訳という先行五訳と単語レベルで比較し,年代の推移とそれに伴う先行漢訳の影響の有無を詳細に検討した(詳細は目下未公開)。ただし義浄訳『能断金剛般若波羅蜜多経』の逐語的文献研究は,『能断金剛般若波羅蜜多経』の前半までしか完了していない。因みに,この作業を遂行する過程で,岩波文庫版『金剛般若経』(中村元・紀野一義訳)の誤解と誤植を,経前半だけでも42箇所以上見付け,正誤表を作成した。 2.義浄訳論書として古くから知られているが文献に即した研究が全く為されて来なかった義浄訳・陳那(Dignaga, 約480-540頃)著『観総相論頌(〔事物の〕一般相を考察する詩節)』について,義浄訳に内在する諸問題を指摘し,現代語訳を作成し,英語論文とした。 3.義浄の遂行した漢訳文献と別に,義浄が同時代人に口述した語彙解説断片を蒐集し,学内大学院生と共に現代語訳しながら精読した。 4.義浄訳論書に見出せる現存サンスクリット語原典中の併行句 parallel passages を整理し,今年度分の発見を蓄積し,一覧ファイルを作成した。残りの3年もこれを継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究には予想以上に進展したところと,進捗が遅れているところの両面がある。 予想以上に進展したのは義浄訳『観所縁論釈』の総体的研究を行い,英語による現代語を示せたことである。また,義浄訳『能断金剛般若波羅蜜多経』を,先行する五種の漢訳の綿密な比較し得たことも,予想以上の進展事項である。 一方,科研申請時点で予想していたより進捗が遅れているのは,義浄を研究する国外研究者二人との面談対話による研究情報交換である。これが遅れたのは,コロナウィルス Covid19 の蔓延により今年度の海外渡航を控えたためである。しかし海外渡航研究に代替する活動として,義浄と漢訳という二つに関わる先行研究(特に単行本図書)の選定蒐集に研究費を充当できたのは,研究の基礎を固める上で大きな利点となった。 以上,今年度の研究にはプラス・マイナス両面があるが,次年度意向に研究を継続するための基礎固めをすることができたという理由により,総じて,おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2年度に当たる2023年度は,前年に実施できなかった海外在住の同業者二人と緊密にやりとりしながら,双方の個別研究の意義を重視しつつも領域侵害することがないように心懸け,相互にそれぞれの義浄研究が進展するようつとめる。これが第一の実施項目である。同業者二人とは,Michael Radich 氏(ハイデルベルク大学教授)と耿晴氏(台湾大学教授)である。 第二に,私個人が一人で行う作業としては,義浄が用いた訳語一覧表を作成し始める。義浄訳は大別して以前の訳語を踏襲する側面(訳語の継承)と義浄独自の訳語の創出(新訳の試み)とがある。各訳語をどちらに振り分けるか留意しながら,いずれの場合も,義浄訳に対応する訳語がサンスクリット語で一種か二種以上あるかも意識して一覧表作成を試みる。 第三に,個別に取り上げる文献として義浄訳・釈迦称著『手杖論』を扱う。また,2年度と3年度に渡り,義浄訳『龍樹菩薩勧誡王頌』を,義浄訳に先行する求那跋摩訳・僧伽跋摩訳の二種と対比しながら語彙の異同を比較検討する。 義浄訳『能断金剛般若波羅蜜多経』の逐語的文献研究は,現時点で『能断金剛般若波羅蜜多経』の前半までしか完了していないので,それを3年度に行う予定である。その他,3年度と4年度の具体的研究は,2年度までの実績を踏まえて後に策定するものとする。
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