研究課題/領域番号 |
22K00070
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01030:宗教学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
GAITANIDIS IOA 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 准教授 (90715856)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 消費者法 / 商法としての「霊感」 / 1990年代~2000年年代 / ニセ科学 / 1980年代 / 詐欺事件 / 先物取引の事件 / 霊感商法 / 消費問題 / スピリチュアル / 「霊感商法」 / 占い / 消費社会 / 平成日本 |
研究開始時の研究の概要 |
現代宗教の特性を論じる際に「宗教の市場化」などの表現を用いて「宗教」と「市場」の関係性を解説している議論はよく聞くが、それは「宗教」を「市場」に還元するような観点である。しかし、「宗教」と「市場」には共構成プロセスがあるともいえる。例えば、平成日本では霊能者などが関わっている詐欺事件の急激な増加がみられたと同時に、架空請求という問題がニュースで取り上げられることになった。この二つの現象の共通性は何か。こういった「占い」や「スピリチュアル」というキーワードの非組織的宗教が関わる詐欺事件の分析を通して、平成日本の宗教的・消費社会的化が共通にそなえる特徴を明らかにしたい。
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研究実績の概要 |
本年度は、予定通り、「霊感商法」事件を専門的に扱っている弁護士へのヒアリングを続けながら、消費者法の専門家にもヒアリングを行いました。また、1990年代以降、国内で起きた、非組織的宗教が関わった代表的な詐欺事件(1件)の経緯を詳細的に調べました。この事件は1990年代前半から今現在まで続き、複数の裁判の有罪判決が出ており、数百人の被害者がいますので、関連資料の数は膨大です。そのため、他の事件に目を向けることはできませんでしたが、この事件の分析のおかげで、「霊感商法」の平成史についての2点が明らかになりました。 1)「霊感商法」には、いわゆる「ニセ科学」をめぐる商法が90年代以降から含まれることとなったため、「霊感商法」というカテゴリーが指す事件の範囲が広がることになりました。そこで、90年代の消費者問題をめぐる出版物や専門家のヒアリングを通して、この広がりの裏に一つの重要な原因があると、わかりました。「霊感商法」を扱う「法」関係者は「霊感商法」が「信教の自由」の侵害として捉えられないように、「霊感」という言葉があくまでも事業者と消費者の関係を操作する商法のテクニックのことであり、宗教団体以外でも見られる商法だと議論するようになりました。 2)90年代以降の「霊感商法」の法的取り扱いにおいては、消費者法全般に起きた変化も大きな役割を果たしました。80年代~90年代は、「霊感商法」をめぐるトラブルの解決のために訪問販売等に関する法律(現在の「特定商取引に関する法律」)が使われていました。しかし、この法律は、問題が起きてから、後追いの形で新しい項目が追加されるようになっていたため、消費問題を包括的に捉え、その予防を狙った現在の「消費者契約法」が2001年に新しく施行されました。「霊感商法」のラベルが指す範囲の広まりは消費者法のこの新しい考え方も反映しているとわかりました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研プロジェクトの初年度と比べて、23年度は報道の動きが収まった反面、「霊感商法」に関する公的調査や取り組みが多様化してきたため、平成時代の「霊感商法」の捉え方やその対応法は変わりつつあります。また、「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」の新たな設置等のような動きが示す通り、「霊感商法」に関する意識が「消費者問題」の捉え方に与え続けている影響についての研究がこれからも大事になってくるといえます。次々に公表される資料を追うとともに、平成時代の宗教と消費の関係史を理解しなければ、現在行われている議論も理解できないのです。そのため、本科研プロジェクトのフォーカスを、少しずつ、定量的分析からケーススタディ分析に移し、非組織的宗教と関わる平成時代の代表的な事件を細かく理解することで、宗教と消費の関係史を描写するだけではなく、そもそもなぜそのような関係史が可能となったかを解説するようにしてきました。編集者の都合により、投稿予定していた英語での論文の出版は遅れていますが、宗教と法律の関係を扱う日本の代表的な学術誌に論文を掲載できたことは2023年度の大きな成果だと考えます。また、今年度は本科研プロジェクトの研究を発表するたくさんの機会をいただき、重要な研究会だけでも数えると、4回(ハーバード大学、コペンハーゲン大学、ヘント大学、東北大学)ありました。
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今後の研究の推進方策 |
本科研プロジェクトの最終年度は、まず、成果の発信にフォーカスしたいと考えます。5月4日~5日にコペンハーゲン大学で共同で実施した「ビジネスと宗教」についての国際ワークショップの成果は、英文雑誌(Implicit Religion)の特集(計7枚の論文)として出版される予定です。その他、EASSSR大会や日本宗教学会の2024年度の大会での発表等も予定しておりますが、今年度の一番重要な活動は千葉大学でのワークショップの実施です。 当初の計画書では、非組織宗教をめぐる消費問題を専門とする学者を招聘し、国内の弁護士と一緒にシンポジウムを実施することを考えていましたが、2022年7月以降は、報道や書籍等で「霊感商法」をめぐった議論が散々されてきたので、同じ内容でシンポジウムを実施する必要はないと判断しました。その代わりに、次の科研プロジェクトにもつながるように、トピックを少し広げながら、宗教と消費の関係史を語る原因にフォーカスしたワークショップを実施することにしました。そのテーマは、宗教と消費の関係史の背景にある「宗教と法律の共生成(co-making)」としました。つまり、宗教として捉えられるものと捉えられないものが如何に法律の解釈や新たな法律の施行により変わるか、または、その逆に、法律が新しく公布される際に、あるいは、新しく解釈される際に、「宗教」の影響が如何に働くか、という事例研究を集めるワークショップです。二日間に及ぶワークショップの準備のために、そのワークショップに参加する予定の法人類学者2名、宗教社会学者2名、日本の政教分離の専門家1名、宗教の人類学者1名を招いて、2023年3月以降、月1回のオンライン勉強会を始めております。ワークショップの成果はReligion, State and Societyという英文雑誌に2025年度に出版されることを予定しております。
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