研究課題/領域番号 |
22K00084
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01030:宗教学関連
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
一色 哲 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (70299056)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 近代日本キリスト教史のなかの周縁性 / 近代農業とキリスト教 / 羽仁もと子 / 藤崎教会と長谷川誠三 / 女性キリスト者 / キリスト教による地域社会の物理的救済 / 南島キリスト教史 / 社会的周縁と地域的周縁 / 奥羽越列藩同盟とキリスト教 / 地域キリスト教史 / 警醒社篇『信仰三十年基督者列伝』 / 周縁的キリスト者の信仰 / 地域的周縁 / キリスト教交流史 / 敗者のキリスト教 / 南島キリスト教 / 民衆キリスト教 |
研究開始時の研究の概要 |
宗教の本質は、魂の救済である。しかし、先行研究では、明治期のキリスト者は欧米文化の受容を目的として、知的好奇心から入信したとされてきた。これに対して、申請者のこれまでの研究で、近代以降の経済的収奪や差別などによる苦難からの救済をキリスト教に求める信仰が南島地域に澎湃として浸潤していたことがわかった。これは、先の定説とは違った類型のキリスト教受容形態があったことを表している。また、このような信仰の受容形態は地域的にも、社会的にも周縁的存在である集団に特徴的であった。そこで、本研究は、調査の範囲を東北地域や社会的底辺に生きる人々に広げて、福音主義的信仰の受容について実証的研究を行うものである。
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研究実績の概要 |
今年度は、本研究の2年目にあたった。東北と北海道、新潟地域については、初年度に行った先行研究の整理をもとに、新潟県(新潟市)、青森県(青森市、八戸市)、秋田県(秋田市、米沢市)、山形県(山形市)、福島県(会津若松市)で現地調査を行った。調査では、各地出身のキリスト者に個人について、公立の図書館等の「郷土資料室」等で情報を収集した。その際、地域的な周縁性だけではなく、社会的周縁性に着目して女性キリスト者の情報収集につとめた。その一環として、青森県八戸市では、自由学園の創設者である羽仁もと子の記念館等でも史料収集と聞き取り調査を行った。 これらの個人研究との関係で、本年度は近代以降の東北・北海道・新潟地域における産業や教育について、テーマをしぼって史料の収集と分析を行った。その一例として、以下のことがわかった。青森県津軽地方では、近代以降、リンゴの栽培の導入にキリスト教徒が重要な働きをしたことがわかった。そのキリスト者のうち、メソジスト教会に関係する弘前女学校(創立時は来徳女学校)の設立にも関わった長谷川誠三は、りんご園だけではなく、銀行や牧場経営、鉱山開発など他のキリスト者や教会、米国人宣教師等とともに地域経済の形成に貢献した。こうして、近代初頭の戊辰戦争で物心ともに荒廃した東北地域において、キリスト教は信仰だけではなく、物理的救済につながる地域経済の建設と地域社会の近代化に貢献した。 また、沖縄を含む南島地域については、戦後、米軍占領下の沖縄キリスト教史については、これまでの研究をまとめた『占領下沖縄におけるキリスト教の交流史的研究』(仮題)を刊行するために本文の執筆をほぼ完成させた。そのため、この公刊予定の出版物で引用したものの出典を確認するために、沖縄でこれまで収集した一次・二次史料の内容と書誌事項の点検を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における課題達成のための最大の障害は、調査地域の範囲の広さと対象分野の多さである。そのため、調査の課題をしぼり、先行研究の整理等事前調査をじゅうぶんに行い、研究地域や対象を絞り込んで、効率よく調査を進めることを心がけている。しかし、現地調査にかかる旅費で研究費の大半を使用しているのが現状で、足りない分は勤務校の個人研究旅費等でまかなっている。そのため、計画していた現地調査が思うようにすすんでいない。 また、昨年度より継続している、社会的周縁としての市井に生きる庶民や知識人のキリスト教受容についての調査については、以下のような現状である。この調査は、1921年に刊行された警醒社篇『信仰三十年基督者列伝』(警醒社、以下、『基督者列伝』)に掲載されている850名余りのキリスト者について分析を行い、本研究の該当地域のキリスト者の全体像について、考察を深めて行くことを目的としている。この調査について、本年度で終了予定の『基督者列伝』のデータベース化が現在半分程度終わっている。 その他、南島地域のキリスト教史については、研究の総括とまとめが順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、前項で言及した『基督者列伝』のデータベース化と分析については、そこに掲載されている約850名のキリスト者について、出身地、及び、居住地・身分(信徒・伝道者等)・族籍・職業等について全体的な傾向を導き出したい。また、今年度までの成果を引き継いで、それぞれの入信動機についてわかる範囲で整理し、特徴的なキリスト者を幾人か抽出し、それぞれの来歴や信仰について調査をしていきたい。 また、社会的周縁について、昨年度からの課題であり、ある程度調査の目途が立っている東北・新潟出身で、明治期の女性キリスト者について調査を進める。また、本年度から行っている企業家や教育者に加えて、社会事業家を対象に、それらの研究を総合的に行う。 次に、昨年度からの課題であった北上川を遡上するハリストス正教会(ロシア正教会)や秋田を中心として広がっていったディサイプルス派の基督教会(キリストの教会)などについても、地域越境的教派の研究として着手したいと考えている。また、ハリストス正教会については、北上川沿岸地域や八戸市等の地域を調査対象にしている研究者に面会して、助言を仰ごうと考えている。いずれにしろ、これらの調査は社会的周縁へのキリスト教の伝播の点で興味深いので、地域の新聞やハリストス正教会の機関誌などの調査も行いたい。 最後に、南島地域のキリスト教史について総括を行う。その上で、地域的周縁としても、社会的周縁としても共通している、戦前期の東北・新潟・北海道のキリスト教受容について比較検討に着手をしたいと考えている。
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