研究課題/領域番号 |
22K00109
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小野 文 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 教授 (00418948)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ソシュール / エレーヌ・スミス / 異言 / オリエンタリズム / 一般言語学 / 東洋学 / フランス東洋学 / インドから火星へ / エクリチュールと音形 |
研究開始時の研究の概要 |
19-20世紀の狭間で、ソシュールが言語という理論的な概念を学問対象として構築し、言語研究をより科学的で一般性をもつ学問にしようと試みたことはよく知られている。しかし「言語一般」を求めるためには、彼が専門としたインド・ヨーロッパ語族に属する諸言語だけでなく、それ以外の言語を参照し、そこから一般性を導き出す、という視点が必要だった。ソシュールやその他同時代の言語学者たちにとって、一般性を導き出すための対蹠点(antipodes)の一つとして働いたのは、東洋だったと考えられる。本研究はこの仮説をもとに、東洋という対蹠点を3つの視点から考察する。
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研究実績の概要 |
2023年度は、ソシュールが関わったフルルノワの異言研究について考察を深めることができた1年だった。 まずはフルルノワ著『インドから火星へ』の翻訳を進め、部分的に発表することができた。(『日吉紀要 フランス語フランス文学』78号)。具体的には6章「火星語」の章の翻訳を進めたが、この章から見えてくるのは、異言(基本的には語り)とエクリチュール(文字)との関係である。エレーヌ・スミスが催眠状態でみる火星の夢は、6章に入ってからは、エクリチュールと深い関係を見せてくる。このことはオリエンタリズムの一形態が「異なる文字体系」への憧憬であることをよく示している。オリエンタリズムの起源の一つが、エジプトのヒエログリフと中国の漢字に対する憧憬であることを思い出してみるなら、この異言とエクリチュールの結びつきは極めて示唆的である。 また想像言語と異言一般についても、母語との距離の取り方という視点から、考察することができた。「想像言語の比較研究ノート:あるいは母語からいかに飛翔するか」(『ユリイカ』2023総特集J・R・R・トールキン)において私が取り上げたのは、エレーヌ・スミスの異言、ルイ・ウルフソンの諸言語の語り、マラルメの言語、そして『指輪物語』の作中の異言等であるが、様々な異言現象の全てに共通するのは、母語の拒否、嫌悪、あるいは母語から距離を置きたいという欲求である。この「母語から距離を取る」という欲求は、比較言語学から一般言語学が誕生する際の一つの精神の動きと言えるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下の3つの実施方法を計画していた。すなわち、1)フランスの東洋学研究者と連絡を取り合い、19世紀ー20世紀初頭の東洋学と一般言語理論との関わりについて考察を深める。2)霊媒エレーヌ・スミス嬢の異言と夢遊病の記録を残すT.フルルノワ著『インドから火星へ』(1900)の翻訳解題作業を進める。3)パリでの資料収集(イエズス会図書館、BNF)を中心に19世紀中国語の「音形」研究について調査を進める。 2023年度中に一度、フランスに渡り、研究打合せができたことで、1)の部分の見通しを立てることができた。また2)の翻訳作業についても22年度からの続きの部分を翻訳出版できた。3)については、まだイエズス会図書館を閲覧できていないものの、パリ国立図書館(BNF)で資料の探索に手を付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記に述べた3つの方法に従い、引き続き研究を進めていくが、その際、やはり資料収集と研究協力を仰ぐために、年に1度は渡仏できるように調整していきたい。また特に東洋学関連の資料収集に関して、東洋言語文化研究所(INALCO)の研究者の協力を得ながら、効率的に資料探索を進めていきたいと考えている。 翻訳作業に関しては、引き続き日吉紀要を利用しながら、少しずつ翻訳を発表していくつもりである。具体的には、6章「火星語」の翻訳を終えて7章「超火星語」に取り組みたい。
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