研究課題/領域番号 |
22K00111
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
小森 謙一郎 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80549626)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | ホロコースト / ナクバ / ユダヤ人問題 / パレスチナ問題 / 反セム主義 / 歴史 / トラウマ / レコンキスタ / ボアブディル |
研究開始時の研究の概要 |
2023年にオスロ合意から30年となるが、パレスチナ問題は解決を見そうにない。イスラエル建国により生じたナクバ(災厄)は、現在進行形で続いている。 その理由の一端は、80年代の歴史家論争以来、ホロコーストが唯一無二とされてきた点にある。ユダヤ人に対する犯罪が絶対悪とされる一方、パレスチナの植民地化事業は強化されてきた。 そこで本研究では、まずホロコースト/ナクバに関する認識の枠組みを問い直す。その上でヨーロッパ最後のイスラム王ボアブディルの形象を糸口に、レコンキスタを「災厄」の端緒として考察する。あわせて反セム主義の展開を再考し、残存する植民地主義・復興する全体主義に対して新たな批判的視座を拓く。
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研究実績の概要 |
まず計画通りに、The Holocaust and the Nakba: A New Grammar of Trauma and History (eds. Bashir Bashir and Amos Goldberg, Columbia UP, 2019)の翻訳を完成、刊行することができた(『ホロコーストとナクバ──歴史とトラウマについての新たな話法』、水声社、2023年)。 本書は、ホロコーストとナクバが実際に連続していることを示したものであり、ユダヤ人とパレスチナ人が実は同じ問題、同じ歴史に直面していることを明らかにしている。その視座は国際社会をなお規定している「ホロコーストの唯一無二性」というナラティヴを批判的に捉え、現代世界の構造を新たな眼で捉え直すことを可能にする。ホロコーストとナクバに関する責任をドイツとイスラエルに見るだけでは不十分で、国民国家とナショナリズムを越え出る地平から二つの出来事を捉える必要があることを、本書はまたとなく示している。 さらに訳者解題では、菅野賢治『「命のヴィザ」言説の虚構』、森まり子『イスラエル政治研究序説──建国期の閣議議事録 1948年』、岡真理『ガザに地下鉄が走る日』といった最近の関連書籍を参照しながら、現代日本社会における本書の意義・重要性を示した。とくにパレスチナ人が現在なお被っている災厄(ナクバ)が日本ともつながっている点、また一国家か二国家かというオスロ合意以来の二者択一的思考法では出来事の意味は何も変わらない点などを明らかにした。 また翻訳の過程で編者や原著者らと連絡をとり、関係構築の機会とすることもできた。今後の本研究の展開において、非常に大きなアドヴァンテージを得たと考えている。さらに本研究と密接に関係する国内の複数の研究者たちの知己を得ることもできたため、対話を重ねながら研究のさらなる進展を図ることが見込める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したように、『ホロコーストとナクバ』の翻訳を完成・刊行することは当初の計画通りであり、この点で本研究の進捗状況はきわめて順調だと言える。さらに翻訳作業と訳書の刊行を通じて関連する国内外の研究者たちの知己を得ることができたことは、今後の本研究の展開において大きくプラスに働くことが見込まれる。また訳者解題の執筆を通じて、本研究を別の角度から進展させる新たな知見を手に入れることができたのは、予期せぬ収穫だった。以上のことから、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、当初の計画以上に進展している部分を活かす形で、研究を進めていく。2023年度はオスロ合意30周年となるが、『ホロコーストとナクバ』第5章「ホロコースト/ナクバと記憶をめぐる対抗的公共圏」(ナディーム・フーリー)で示されているように、オスロ合意それ自体はもはや1967年の境界線を正統化する形でしか機能していない。したがってナクサからナクバヘ、1967年から1948年へ視点を戻す方向で考察を進める。これによって「パレスチナ問題」を「ユダヤ人問題」の輸出として捉える見方が明確になるとともに、ナクバを通じて「最終解決」が別様に実現されつつあるという視座を提示することができると考えている。
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