研究課題/領域番号 |
22K00142
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 均 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (60510683)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 美的価値 / 共同主義 / ソーシャリー・エンゲージド・アート / アートプロジェクト / 対話的芸術実践 / 協働的芸術実践 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「ソーシャリー・エンゲージド・アート」や「アートプロジェクト」などと呼ばれる、芸術の専門家と非専門家とのあいだで行われる対話的・協働的実践について、その美的価値を評価する基本的な理論的枠組みを提示する。また、美的価値の具体的なありかたとして、以下の二点に注目する。まず、コミュニケーションにおいて生じる美的価値のあり方を明らかにする。さらに、芸術の専門家と非専門家とのあいだで行われる、美的感性と技術の交流がもたらす美的価値について明らかにする。
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研究実績の概要 |
対話的・協働的な芸術実践の美的価値を定式化しうる理論として、ニック・リグルの共同主義的美的価値論の検討を進めた。そのさいに、彼がフリードリヒ・シラーの「人間の美的教育についての書簡」における美的自由と美的国家の議論を、自分の共同主義的美的価値論とみなしていることに注目し、リグルとサマンサ・マザーンの共著論文を分析することで、むしろリグルの理論が個性を重視する点で独自性を持つことを指摘した。この論点について、『シェリング年報』において論文を発表した。美学会東部会特別例会では、リグルとベンス・ナナイ、ドミニク・ロペスの共著『美をなぜ気にかけるのか』との関連で、共同主義的美的価値論が、生存を可能にする場を作り出すための実践を背景としていることに言及した。そのさいには、リグルの著作『この美』を参照して、リグル自身が、家族との困難な関係から距離をとって自己の個性を発揮できる場所を獲得するために、スケートボードの活動を始め、プレイヤーと交流したという事例を取り上げた。また、同じく『この美』において、マティスが大病の後に、やはり自己の個性を発揮できる活動として、切り絵という新しい創作実践をはじめたことが取り上げられていることについても言及した。さらに、対話的・協働的な美的価値論とは対照的というべき芸術理論として、ニーチェの芸術哲学について検討を行い、美学会西部会研究発表会において発表した。ニーチェは近代の芸術、特にヴァーグナーの作品を、大衆の要請に応える、宗教の代替物として捉えており、それに対する批判の中でニーチェ自身は、観客を考慮しない、芸術家のためだけの芸術を提唱するに至る。こうした、いわば個人主義的な芸術理論は、対話的・協働的な美的価値論に対する批判の可能性を示すものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リグルの共同主義的美的価値論の独自性を指摘できたことは一定の成果であったと考える。また、ニーチェの芸術哲学の検討を通じて、対話的・協働的な芸術実践への批判の可能性も視野に入れることが可能になったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
ドミニク・ロペスのネットワーク的な美的価値論について、その修正の可能性についての検討を進めたい。また、ベンス・ナナイの、経験に定位した美的価値論において、主体間の相互作用にかかわる論点を見いだせるかどうかも検証したい。
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