研究課題/領域番号 |
22K00148
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 沖縄県立芸術大学 |
研究代表者 |
向井 大策 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (10466980)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | コミュニティ・オペラ / ベンジャミン・ブリテン / アーロン・コープランド / ジョナサン・ダヴ / マーク=アンソニー・ターネジ / 芸術音楽の民主化 / 演劇の公共圏 / オペラ / イギリス / 文化政策 / 音楽社会学 |
研究開始時の研究の概要 |
現代のイギリスでは、コミュニティ・オペラの創作と実践が盛んに行われている。本研究では、ベンジャミン・ブリテンと、その後の世代によるコミュニティ・オペラの創作と実践を現代イギリス社会の文脈の中で考察し、ブリテンをはじめとする現代イギリスの音楽家たちが、コミュニティとの関わりを通して、オペラという芸術をどのように再定義しているのかを音楽社会学的な視点から明らかにすると同時に、現代社会における芸術音楽の「民主化 democratization」という新たな文化的な状況に光を当てる。
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研究実績の概要 |
2023年度においては、文献研究および作品のスコアの収集とその分析作業を中心に研究活動を実施した。文献研究では、特にコミュニティ・オペラという事象を考察するための理論的・理念的な基盤をなす考え方について、演劇の公共圏に関するクリストファー・バルミの研究や、2010年代以降の関係論的音楽学 relational musicologyに関連した先行研究をもとに考察を行い、複数のアクターが関わるパフォーマンス作品の検討においては、従来の音楽学・美学が前提としてきた作者性の概念を乗り越える必要があることが明らかとなった。その上で、コミュニティ・オペラの実態を考える際には、アマチュアや子供の音楽家といったアクターも含めて作品の制作の次元を関係論的にいかに紐解いていけるのかが研究の鍵となってくることが分かった。 また、作品のスコアの収集とその分析作業については、コミュニティ・オペラの系譜の解明と、ブリテン以降のコミュニティ・オペラの動向について研究を進めた。ブリテンのコミュニティ・オペラ以前に、彼に影響を与えた作品としては、ヴァイルの《ヤーザーガー》と、それから着想を得て、ブリテンの友人でもあったコープランドが創作した《第2のハリケーン》が重要なものだが、同時にブレヒトの叙事演劇・教育劇の発想を根底に持つこれらの作品と、より参加者の自発性を重視した構成となっているブリテン作品との違いの大きさも浮き彫りとなった。また、ブリテン以降の動向としては、ジョナサン・ダヴの2作品のスコアを収集して考察を進めているところだが、当初の研究計画の範囲外だったマーク=アンソニー・ターネジの創作が「芸術音楽の民主化」という現代の事象を考察する上で重要な参照点となる可能性があることが分かった。ターネジの創作については小論を執筆し、2024年度に公開される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、文献研究や作品研究を中心に研究計画を実施することができた。特にコミュニティ・オペラについて研究を進めていく上での理論的な考察を深められたことと、前述の通り、具体的な作曲家による作品についての資料収集や作品の考察・分析を行えたことは大きな進展だった。とりわけ、現代イギリスにおける「芸術音楽の民主化」というコンテクストについて考察していく上で、マーク=アンソニー・ターネジの創作が非常に示唆に富むものであることが明らかになったことは、今後の研究をさらに進展させていく上で、重要な展開だったと思われる。 一方、2023年度は文献研究や作品研究を優先して集中的に取り組んだことから、当初計画していたイギリスでの資料調査を実施することができなかった。また、当初計画していた学会での発表については、研究成果として発表するにはまだ十分に期が熟していないと判断したため、見送ることとした。 以上の通り、文献研究や作品研究については計画通りに進めることができたが、イギリスでの資料調査の実施と学会発表については実施を見送ることとなったため、研究の進捗状況としてはやや遅れている状況であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度にはこれまでの研究の総括として、学会発表を1件、論文投稿を1件、計画している。また、ここ最近の急激な円安により海外渡航にかかる経費や資料収集に係る経費が計画を大きく上回ってしまう金額になってきていることから、イギリスでの現地調査を行う計画については、実施時期や、予算面で実施の可否について慎重に検討を行なっていきたいと考えている。 研究計画の主軸は、これまでの研究から関係論的な視点から作品の考察を進めていくことが重要であることが分かってきたことから、まずはこれまでに収集した資料をもとに、作品テクストの読解や分析、および成立背景を含む社会的コンテクストについての考察を進めていくこととしたい。また、社会問題的な題材について、現代の作曲家たちがどのように作品化しているのかという点についても考察を行う。これは特に「芸術音楽の民主化」という事象がただ単に芸術の普及という観点からの事象であるだけでなく、芸術と政治をいかに結びつけて考えるのかという事柄と密接に関わっていることが、これまでの研究を通して見えてきたからである。 学会発表については、日本音楽学会の全国大会(11月)での発表を計画している。発表のテーマとしては、以上のような2023年度から24年度の研究成果をもとに、関係論的な視座から20世紀におけるブリテン以降のコミュニティ指向の音楽劇作品と演劇的公共圏の展開を政治的な事象との関わりも含めて理論的に考察することを計画している。論文投稿は、所属大学の『沖縄県立芸術大学紀要』を予定しており、前述の学会発表の内容をベースにまとめる計画である。
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