研究課題/領域番号 |
22K00190
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 沖縄県立芸術大学 |
研究代表者 |
松本 隆 沖縄県立芸術大学, 美術工芸学部, 教授 (00267345)
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研究分担者 |
飯塚 義之 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員研究員 (90804203)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | ルカ・デッラ・ロッビア / 施釉テラコッタ / 彫刻 / マヨリカ陶器 / ルネサンス / 陶芸技法 / ピッコルパッソ / 化学分析 / ロッビア工房 / テラコッタ彫刻 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、初期ルネサンス時代のイタリアでルカ・デッラ・ロッビア(1399/1400-1482年、フィレンツェ)とその一族により制作された施釉テラコッタ彫刻に対し、彫刻実制作者、文化財分析科学者、美術史研究者が協働し、実験的・分析化学的・文献学的・様式論的立場から総合的解釈を行うものである。この制作技法は、ロッビア家の工房で一世紀以上に渡り独占的に用いられ、その詳細は現在でも判明していない。本課題は、工房の作品断片の化学分析、粘土と釉薬の再現実験、16世紀の陶芸技法書、チプリアーノ・ピッコルパッソ著『陶芸三書』内の技法の検証実験を通じて、ロッビア工房の秘法の伝統性と革新性を問うものである。
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研究実績の概要 |
当研究は、イタリア・ルネサンス期にフィレンツェのデッラ・ロッビア一族の工房において制作された施釉テラコッタ彫刻の技法的特性を、同時代のマヨリカ陶器との比較を通じて解明することを目的としている。デッラ・ロッビア工房は、テラコッタで造形した素地の上に釉薬をかけて仕上げるという独創的な彫刻の表現形態を創始し、この技法そのものが工房作品のトレードマークとなった。工房の事業拡大に伴い質の低下も避けられなかったものの、初代のルカが創始した粘土と釉薬の調合法は、3世代にわたっておおむね引き継がれた。その後ルネサンス美術の終焉と時を同じくして工房も消滅し、この一族の中で秘密裏に伝えられた技法も失われた。当時の原材料を欠く今日において、この技法を完全に解明・再現することは困難である。しかしながら、16世紀半ばにイタリア中部で成立したチプリアーノ・ピッコルパッソ著『陶芸三書』に記述された当時のマヨリカ陶芸技法の中には、デッラ・ロッビア工房でも用いられたと思われるものが見出せる。 そこで本課題では、この『陶芸三書』の解読や、同時代のマヨリカ陶器の分析などを通じてルネサンスの施釉テラコッタ彫刻制作技法に対し分野横断的アプローチを行っている。研究代表者・松本は再現実験を行い、実制作を通じて理論書内の記述の妥当性を検証を進め、ロッビア工房へ応用された可能性のある技法や材料物質の調合の検討を進めた。分担者・飯塚は、日本の博物館収蔵品の現地非破壊化学分析と松本による実験生成物の電子顕微鏡を用いた分析化学を行い、データの蓄積と解釈を進めた。協力者・藤﨑は美術史学的観点から『陶芸三書』やルネサンスの芸術理論書の解読、作品の様式分析を行った。三者は専門分野も研究拠点も異なるため、頻繁にオンライン上での議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は、年度初めに設定した目標をほぼ達成したほか、今後の研究に有益なデータを収集するいくつかの機会にも恵まれた。ピッコルパッソ『陶芸三書』の技法研究に関しては、とくにワインの澱灰を用いたガラスフリットという失われた制作技法に対する考察をまとめ、史料紹介、再現実験、化学分析によるアプローチを組み合わせた研究論文を沖縄県立芸術大学紀要にて発表した。また秋には研究の協力者であり試料提供者でもあるペルージャ大学グッビオ校教授ジャンカルロ・ジェンティリーニ氏が来日した機会を利用して、武蔵野美術大学にてロッビア一族を中心にした初期ルネサンス彫刻についての講演会を企画することができた。さらに11月と3月には、東京のサントリー美術館所蔵のマヨリカ陶器コレクションに対し、化学組成分析を中心にした作品調査をメンバー全員で実施し、今後の比較材料となるデータを収集した。個々の1年間の活動内容を具体的にあげると、代表者・松本は、ピッコルパッソの記述をもとにした、ワイン澱灰と酒石、および珪石類を使ったフリットの再現実験を進めた。分担者・飯塚は、再現実験に使用した各種原材料および実験成果物の化学分析を実施し、データを集積した。協力者・藤崎はフィレンツェ県のキャンティ地方とエルサ渓谷に多数分布するロッビア作品をめぐる長期の調査をふくめ、イタリア現地にて5件の出張を実施した。その中には現代の陶芸家工房訪問や美術館長など、次年度のグループ全員での現地調査をみすえた作家、研究者との関係強化も多々含まれている。
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今後の研究の推進方策 |
3年目となる2024年度には、代表者・分担者・協力者の全3者でのイタリア現地調査を予定している。簡易型の分析機器によるマヨリカ陶器の組成分析、イタリア中部のルネサンス期の窯業中心地の作例や窯遺構の見学、ジェンティリーニ氏はじめ現地の研究者や陶工との意見交換などを予定している。また本年はピッコルパッソ生誕500年目にあたり、それを記念するウルバニアでの講演会における本研究チームの成果報告を現在調整中である。 上述のように本年はイタリアにおけるピッコルパッソ研究、マヨリカ陶器研究において進展が期待される1年であるため、本グループも現地の陶工たちとも連携しつつ、彼の著作への考察を深化させる好機ととらえる。その成果を2023年度に引き続き沖縄県立芸術大学紀要にて発表することを視野に入れている。
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