研究課題/領域番号 |
22K00192
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 学習院女子大学 |
研究代表者 |
今橋 理子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (70266352)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 印葉図 / 秋田蕗摺 / 日本近代絵画 / 博物図譜 / 植物画 / 夏目漱石 / 平福百穂 / 宮越精之進 / 蝶蛾鱗粉転写 / 日本近世・近代美術 / 日本博物学史 / 自然物標本と美術 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は、「科学標本」の技術で制作されながら、芸術的視点から見れば「美術品」として見做される、科学と芸術の境界上に位置する作品群を指摘し、それらを日本美術史上において初めて位置づける試みである。これらは通常、コラージュや染織工芸品に応用されている。従来では博物図譜は、花鳥画への応用などが考察されてきた。しかし、自然物標本を「芸術」に応用した作品については研究がない。本研究は18-20世紀における「自然物標本の芸術化」の事例として、さく葉や印葉図、さらに蝶・蛾類の「鱗粉転写法」を応用した芸術作品を扱い、これらが日本において独自に成立していた芸術であった事実を、比較芸術的に追究する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、おもに18-20世紀日本における「自然物標本の芸術化」の事例として、「さく葉」や「印葉図」を用いた絵画芸術を扱っている。2022年度は特に秋田地方に伝承される「秋田蕗摺」に関する研究をほぼ完成させ、『学習院女子大学紀要』第25号、2023年3月)に論文を発表した。 今回の論文では特に、近代美術との関係において「夏目漱石詩平福百穂画幅」(東北大学附属図書館蔵)を取り上げた。本作品は従来、「平福百穂が作成した秋田蕗摺絵に夏目漱石が書を揮毫した作品」という文脈で説明され、漱石の代表的書作品の1つとして高い評価を得てきた。しかしながら、研究代表者はこれまでの研究成果を踏まえて、この秋田蕗摺絵は百穂に拠るものではなく、一子相伝にて「秋田蕗摺」の制作技法を伝承してきた「宮越家」の、第2代目精之進の手による作品であることを立証した。また一方、秋田蕗摺は「1862年に初代宮越精次郎が考案し、一子相伝・男子のみで伝承してきた」との伝承が現在も人口に膾炙おり、また明治10(1877)年第1回内国勧業博覧会にて、2代目精之進が褒賞を受けている事実が知られている。だが研究代表者はこのたび、『明治十年内国勧業博覧会賞牌褒状授与人名録』(内国勧業博覧会事務局刊、1879年、国立国会図書館蔵)の中に、「褒状 堺五兵衛」という記述を新たに確認した。つまり、従来「秋田蕗摺」は宮越家だけによって伝承されてきたと言われてきたが、元来は複数の家系によってその制作技法が伝承されていた可能性が高いのである。代表者は昨年度までに発表した論文の中で、宮越家以前の蕗摺技法――言い換えれば「旧来法」による秋田蕗摺作品の存在を指摘しているが、それらに見る印葉図技法と宮越家流の技法は明らかに異なっており、初代精次郎が創始したという技法は、そうした「旧来法」を刷新する奥秘であった可能性が高いのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
秋田蕗摺に関する研究については、コロナ禍の影響で作品調査についてはまだ終えていないものがわずかに残ってはいるが、研究全体としては概ね順調に進んでいると言える。2022年度は、秋田県内および東京在住の個人コレクター先など、4か所における調査を実施した。また未調査のものについても、2023年夏には終える目途がついている。 一方、「蝶蛾鱗粉転写法」による染織作品に関する調査では、聴き取り調査の対象としていた染色作家が逝去されていたことが判明したため、現在、研究方法の変更を検討しており、文献調査による結果のみを公表する方向で進んでいる。 なお、これまでの研究成果を統合する形で書籍化することですでに出版社との間で合意形成ができており、2026年度刊行の予定で進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、印葉図また鱗粉転写法による芸術作品に関する美術史、および博物学史的な従来認識を、再考することを目的に進めている。2022年度は予定していた作品調査について一部、コロナ感染症の再流行に伴い念のために延期したものもあった。2022年度予算のうち、一部2023年度に繰越金としたものはそれに伴うものである。しかしながら2023年5月にコロナ感染症は5類へと移行するため、今後はこのような調査の延期などは発生しないものと予想される。2023年度に実施予定の調査の結果は、『学習院女子大学紀要』第26号(2024年3月発行予定)にて公表する予定である。また本研究課題は2026年3月末までであるが、その後に書き下ろしを加えた形で著書をまとめる方向ですでに出版元と合意しており、2026年度中に刊行する方向で準備を進めている。
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