研究課題/領域番号 |
22K00195
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
|
研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
大久保 純一 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (90176842)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 江戸名所絵 / 大名屋敷 / 大名庭園 / 歌川広重 / 源氏絵 / 洋風画 / ビスタ / 浮世絵美人画 / 浮世絵 / 風景画 / 名所絵 |
研究開始時の研究の概要 |
歌川広重を中心とした江戸末期の浮世絵風景画の成立を、江戸という都市の特性との関わりから考察する。浮世絵風景画の形成に関しては、従来、西欧の透視図法の流入とその咀嚼・吸収、合成顔料のプルシアン・ブルーの輸入といった主として絵画技術や材料の観点と、旅行や行楽への関心の高まりといった社会背景との関わりの中で説明されてきたが、本研究では風景画を生み出す土壌である都市としての江戸の特性、すなわち江戸城を幾重にも囲む堀や広壮な大名屋敷とその内部の大名庭園という、武家の都としての都市の構造や景観が、風景画の主題を規定し、また構図、配色などに与えた影響について考察しようとするものである。
|
研究実績の概要 |
前年度に引きつづき、展覧会や画集、各種データベースなどを通じて歌川広重らが描いた江戸名所絵の画像収集をはかり、その中で大名藩邸の外観が名所景観の中核的モチーフとして描かれているものを分類・整理した。そしておおよその傾向が泥絵と共通するものの、錦絵固有の場所も複数見いだされることが判明した。また、長編合巻『偽紫田舎源氏』の世界を錦絵化した源氏絵の画像収集もすすめ、その中に江戸の大名庭園のイメージが反映されていると思われるものを抽出した。さらに、黄表紙、合巻、人情本等戯作類の本文や挿絵の中に江戸の都市景観に関する記述を探し、合巻挿絵に大名屋敷の外観が多数描かれていることや、人情本に大名庭園に関わる挿絵や記述も確認し得た。これらの作業と並行して、『宴遊日記』や『松鶴日記』などの大名の日記類の中で邸内庭園が外に向けてどの程度開かれていたかも調査した。 これらの作業を通して、江戸の特定の名所を題材とした江戸名所絵に関しては名所とそこに存在する大名屋敷外観とが景観をかたちづくる上で密接に連関し、錦絵の上にもそれが反映されていることが明らかとなった。また特定の江戸名所を題材としない源氏絵や美人風俗画の背景に描かれている邸内あるいは庭園風景に、大名庭園のイメージが、潮入りの構造、築山や邸内稲荷社といった庭園構成要素だけではなく、園遊会のような行事までも取り込まれている例を複数見出すことができ、江戸の大名屋敷とその中の庭園のイメージが広範に錦絵の景観構成に影響を与えていることが確認できた。 従来、江戸の大名屋敷に関してはおもに建築史の分野から、その外観が名所絵に与えた影響が指摘されてきたが、内部庭園や行事までも多数の錦絵のイメージ形成に寄与していることが明らかにできたことの意義は大きい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はとりたてて期待していなかった戯作類の挿絵や記述の中に、予想外に多くの江戸の大名屋敷の外観を描く挿絵や、大名屋敷内外の景観や庭園内での行事に関する情報を得ることができ、広重らの江戸名所絵だけではなく、美人風俗画のような他ジャンルの作例にも江戸の都市構成上の要素が反映していることが見いだせた。 画像収集対象のひとつとなる各所蔵機関のデータベースに関しては、近年公開機関が増えてきた。ボストン美術館やシカゴ美術館など浮世絵所蔵件数の多い海外のものはおおむね調査を終えたが、国立国会図書館のデジタルコレクションのように錦絵のみならず戯作類も含めるとデータ量が膨大なものに関しては、悉皆的な調査を完了するのにまだ相当の時間を要する。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度に引き続き、大名屋敷や大名庭園を描く錦絵作品の画像、あるいは戯作類の中に大名屋敷の景観やその内部の庭園に関する情報を探すしていく。大名屋敷外観を描く江戸名所としては広島藩浅野家と福岡藩黒田家に挟まれる霞ヶ関が、早くから作例が見いだされるが、同地の景観が坂を上から見下ろすような定型が成立するのは江戸末期に近づいてからでる。6年度はたんに画像収集を進めるだけでなく、個々の名所に関して描かれる景観の変化する時期とその要因も考察対象としたい。 また、令和5年度には、江戸の地形的特徴をもとに江戸名所絵を読み解く渡邉晃『浮世絵でたどる 江戸の凸凹地形散歩』(山川出版社)が刊行された。その成果も取り入れつつ、名所絵分析の視覚の多角化をはかりたい。
|